歌広場淳のフルコンボでGO!!!
歌広場淳×アール×ハメコ。“eスポーツキャスター”座談会 「SFL 2024」優勝決定戦の見どころ、そして仕事に懸ける思いとは
大のゲームフリークとして知られ、ゲーマーからの信頼も厚いゴールデンボンバー・歌広場淳による連載「歌広場淳のフルコンボでGO!!!」。今回は、eスポーツキャスターのアール、ハメコ。との座談会を行った。
格闘ゲームシーンを中心に、長年にわたりeスポーツキャスター界のトップランナーとして活躍してきた両名。『ストリートファイター6』(以下、『スト6』)の公式チーム制リーグ「ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2024」(以下、「SFL 2024」)でも公式キャスターを務めてきた視点から語られる、2024シーズンの総括とグランドファイナルの見どころとは。
さらにインタビュー後半では、キャスター業にかける情熱や裏側に込めた思い、独自の仕事観に関する話なども飛び出したので、ぜひ最後までチェックしてほしい。
公式キャスター陣が「SFL 2024」に感じた“儚さ”と“変化”
歌広場淳:やはり2024年を振り返るうえで『スト6』の話題は外せないと思っていて、『スト6』を語るのならばおふたりは外せないということで、今回は「SFL 2024」の実況・解説を務めたキャスターのアールさん、ハメコ。さんにお集まりいただきました!
さっそくですが、まずは12月21日〜22日にかけて実施されたプレイオフ(※1)の熱戦をキャスター席から見守った感想をお聞きしたいです。
※1……ディビジョンS/Fそれぞれにおいて、上位3チームのなかから1位を決めるオフライントーナメント。本対談はプレイオフ実施翌日の12月23日に行った。
ハメコ。:「儚いな」というのが、ひと言目の感想になりますかね。自分としては「SFLが盛り上がってほしい!」との思いが第一にあるので、とにもかくにも試合が長引くことを願ってしまうところがあるんです。
歌広場淳:キャスターとして「SFL」に携わられているからこその目線ですよね。
ハメコ。:実際、例年のプレイオフは接戦が続いて長期戦になりがちだったわけですが、フタを開けてみたら今年はそうではなかった。スコア的には。試合内容や選手の駆け引きといった部分で言えば、これまでで最もハイレベルな戦いが観られた年だったと思います。ただ、結果としてディビジョンS/Fの両方でワンサイドゲームが巻き起こりましたよね。
「両チームがもう1回戦ったら結果は変わるだろうな」と思うくらいに、ちょっとした駆け引きひとつが勝敗を左右するような場面がいくつもあったことも含めて、やはり勝負の世界とは儚いものだなと感じました。
アール:“変化”を感じた1年だったなと思います。今年は全12チームが2個のディビジョンにわけられて、Sディビジョンでプレイオフに進出してきた中には「Good 8 Squad」などのおなじみのチームがいたり、ウメハラ選手(「Saishunkan Sol 熊本」所属)がいたりと、これまでの「SFL」の延長に見えなくもない印象でした。
一方のディビジョンFは、新規参入チームの「Yogibo REJECT」や「Crazy Raccoon」、メンバー構成が大きく変わった「広島 TEAM iXA」がプレイオフに進出してきたことで、すごく新鮮さを感じました。当日も「Yogibo REJECT」の選手たちが控室にYogibo製品を持ち込んでリラックスしていたり、「Crazy Raccoon」の試合をチームに所属するVTuberさんが同時視聴しながら応援していたりと、これまでの「SFL」では見られなかったような光景もあって、そこが印象的だったなと。
歌広場淳:「Crazy Raccoon」のチームとしての結束感とか、すごかったですよね。
アール:そうそう。どのチームも本当にものすごい覚悟で「SFL」に臨んでいるわけですけど、そうした規模感の広がりも印象的な2日間でした。
海外からの新たな風と、意地を見せた古豪たちの勇姿
歌広場淳:おふたりとも、「今年はこのチームが強いんじゃないか」といった予想をしていたと思うのですが、予想が当たったところ、あるいは意外な結果になったことなどはありますか?
ハメコ。:2024年はLeShar選手という海外プレイヤーが「Yogibo REJECT」に加入した時点で驚きではあったのですが、そのうえでLeShar選手がしっかりと素晴らしい成績を残した点はすごく喜ばしいトピックだったと思います。
eスポーツシーン全体で見れば、海外から選手を招いてチームを補強する動き自体は珍しいことでもなんでもない。ただ、格闘ゲーム、なかでもストリートファイターの競技シーンに限って言うと「おそらくは日本が世界最強だろう」という自負を多くのプレイヤーが持っているこの日本において、海外選手を補強するという動きが起きたことがまず興味深い出来事だった。
しかも、結果としては大成功だったわけです。LeShar選手が実力をいかんなく発揮してくれたし、日本のファンからもこうして受け入れられたと。それは本人のプレイが華やかで、極めて高い技術を持っていることがまず大きいと思うんですけれど、人柄に関しても温和でみんなから好かれていて。
今回こうしてLeShar選手が日本に来て活躍してくれたことで、今後は「Yogibo REJECT」のように海外から選手を補強する動きがやりやすくなりそうな印象もあるので、日本の格闘ゲームシーンにおいても、グローバルの視点で見ても、すごくポジティブな出来事だったんじゃないかなと。
歌広場淳:プレイの内容も圧巻でしたからね。
ハメコ。:そう。内容がすごくよかった。自分くらい「ストリートファイター」シリーズの試合を長年観続けていたら、正直ちょっとやそっとのプレイじゃ驚かなくなるんですよ。
起きている事象の大体は理解できるし、先の展開の予想もある程度つくから。ただ、LeSharはそこを上回ってくるので、単純に「彼の試合をもっと見たい!」と思わせてくれるんです。
歌広場淳:そうやって目の肥えた玄人たちを楽しませてくれただけに留まらず、カジュアル層にも彼のすごさが伝わり始めている雰囲気をひしひしと感じるのがビックリですよね。僕の配信でLeShar選手の話題を出すと、もうすでに女の子たちが「レシャぴ」って呼び始めていたんですよ。それくらい広がっているんだなと。
アールさんはいかがでしたか? 今期の「SFL」を振り返ってみて、印象的なできごとなどがあったら聞かせてほしいです。
アール:タイトルが『スト6』に切り替わったことでベテランプレイヤーの苦戦は免れないんじゃないか、世代交代が起こるんじゃないか、という風潮があったじゃないですか。これは2023シーズンから言われていたことだと思うんですけど。
とくに今年は「SFL」の開幕直前に「Esports World Cup」(※2)があり、そちらでも日本の若手選手がたくさん活躍していて、僕自身、「世代交代の流れは加速していくのでは?」という予感があったんです。
※2……サウジアラビア・リアドにて、2024年7月から8週にわたって開催された複合eスポーツ大会。『スト6』部門は8月上旬~中旬にかけて実施され、日本からはカワノ選手が準優勝、立川選手とガチくん選手が3位タイに。
ただ、フタを開けてみれば今年もしっかりとベテラン勢が存在感を示していた。「世代交代なんて、全然まだまだじゃん!」って感じましたし、見ていて自然とそう思った視聴者の方も多かったんじゃないかと思いますね。
歌広場淳:そうですね! ベテラン勢が意地を見せてくれたことは大きな話題だったと思います。
アール:結果的に今年めちゃくちゃ勝っていた印象のあるプレイヤーって、ひぐち選手とLeShar選手の2名だと思うんですけど、勝率で言ったらときど選手もLeShar選手と並んでいますからね。残したインパクトの大きさで比べたらLeShar選手に軍配が上がるかもしれないですけど、ときど選手もしっかり勝っていた。
世代交代を望む声が大きいことも理解できます。競技シーンとしてそのほうが健全であると。ただ、真の理想を言ったら全世代が共存して切磋琢磨し続けるコミュニティが最強だと思うんです。
歌広場淳:たしかに、「世代交代がなかなか起きない」と言うとネガティブなことに聞こえますけど、それはベテラン勢が意地を見せているからであって、中堅・若手に元気がないわけでも決してないわけだし。
アール:そうそう。中堅だったらガチくん選手、ぷげら選手カワノ選手といった「Good 8 Squad」の面々を筆頭に、ベテラン勢にガッツリ食らいついていたと思います。
「SFLは“ときど”と“ガチくん”の物語」(ハメコ。)
歌広場淳:2月11日にはついにグランドファイナルが行われ、ディビジョンS・1位の「Good 8 Squad」とディビジョンF・1位の「Yogibo REJECT」が激突するわけですけど、おふたりから「ここに注目して観たらより楽しめる!」などのアドバイスがあったらぜひお願いします。
ハメコ。:グランドファイナル……考えただけで胸熱ですよね。個人的に、「SFL」とは“ときどとガチくんの物語”だと思っています。
歌広場淳:うわ、めちゃめちゃおもしろそうな視点ですね。聞かせてください!
ハメコ。:さかのぼること2021年のグランドファイナルでは、決勝の4巡目でこれまでガチくん選手に対して勝率が悪かったときど選手が、そこを覆してチームを優勝に導いたという印象的なシーンがあったわけです。
それ以降も、2022年にはガチくん選手率いる「Good 8 Squad」が、2023年にはときど選手の所属する「FAV gaming」が、代わる代わる優勝を果たしている。やっぱりこの2名が常に優勝に絡んでいるなと感じるんです。
2023年に使用タイトルが『スト6』に切り替わり、2024年も各チームのメンバー変更や、ときど選手にいたっては所属先の変更があったにもかかわらず、今回の「SFL」でもグランドファイナルが“ガチくんVSときど”の構図になったのはすごいことだと思います。
歌広場淳:紆余曲折を経て、またしてもこの対戦カードが観れると。
ハメコ。:そういった「SFL」の歴史があって、このふたりの物語はいまなお続いているという。この機会に、視聴者のみなさんにもこれまでの歴史を知ってもらえれば、より楽しめるんじゃないかと思いますね。
アール:ハメコ。が個人単位の視点で語ってくれたので、僕からはチーム組成の視点からお話ししようかなと思います。「Good 8 Squad」と「Yogibo REJECT」って、前者はメンバーをほぼ固定化して育ててきたチームで、後者はとにかく強い選手を集めて勝ちにきましたという組成のしかたをしたチームだと思うんです。
この、対象的とも思える組成のチームがグランドファイナルでぶつかるというのがおもしろいところだと思っていて。言うなれば、これまでの「SFL」の価値観と、新たな価値観のぶつかり合いにも見えなくもない。
歌広場淳:言われてみれば、たしかにそういう風にも見えますね。
アール:そうした価値観どうしがぶつかり合うとなると、早い話が「勝ったほうが正義」になると俺は思うんです。視聴者目線で考えたら、そう思う人が多いだろうと。
だから、もしも「Good 8 Squad」が勝ったら「やっぱりメンバーは固定で育てていくのがいいよね」ってなると思うし、「Yogibo REJECT」が勝ったら「これからの時代は海外からの助っ人も取り入れていくべきだ」という世論に傾きそうだし。そういう意味では、歴史の転換点になるんじゃないかと思っています。
歌広場淳:そう聞くとワクワクしますね! 歴史の転換点の目撃者になれるわけですから。
アール:あと、個人的には今回のグランドファイナルの会場が「パシフィコ横浜」で開催されることも楽しみのひとつです。会場の規模感や、その規模感ならではの演出面もそうだし。物販ブースなんかも大きくなって、お祭り感もさらに増すんじゃないかとか。
グランドファイナルは1組み合わせしか行われないのに、この規模感はすごいですよね。どれほどの興行化がされて、訪れるたくさんのお客さんたちがどんな風にそれを楽しむかという部分に注目しています。もちろん、自分自身が楽しみたい、楽しみにしているというのもあるんですけど。