続いて、大阪教育大学付属池田小学校の石光政徳教諭が小学校課程の音楽科におけるVR教材の実践例を紹介した。
基本的な映像の作り方は、先に紹介した大阪教育大学付属池田中学校の事例とおおむね同様で、この事例ではオーストリアのヨハン・シュトラウス1世が作曲した「ラデツキー行進曲」の演奏の様子を授業に用いたという。
映像が使われたのは小学3年生の授業で、児童には“音色”を意識してVR映像の実況をするというお題が与えられた。これはオーケストラで使われる楽器の“音色”を知ることが目的だ。
石光氏は、これまでの音楽科の授業では鑑賞にCD音源を使うことが多いと語る。しかし、「CD音源では、オーケストラ全体の響きを味わうことしかできなかった」と課題も指摘する。
授業ではまず、オーケストラ全体の音源(=CD)を聞かせたという。するとある児童が「シンバルの音によって、行進曲らしい感じが出ている」という感想を寄せた。しかし、同じ児童がVR映像を見たら「これはシンバルではなく大太鼓だ!」と気が付いたのだという。
気付いたきっかけはシンプルで、シンバルをたたいていたと思っていた場面で、大太鼓がたたかれていたことを“視覚的に”確認したことだ。「(映像を見た後)『この大太鼓の力強い音色が行進曲感を出している』と彼は気が付き、すぐさま実況に反映してくれた」(石光氏)という。
視覚面から各楽器の音色を捉えやすくする上で、VR映像が大いに役立ったことが分かる。
別の児童は「ピッコロ」に注目をして実況を行ったという。
ご存じの方もいるかと思うが、ピッコロはフルートよりもさらに小さい。そのため、一般的なオーケストラの映像では見えづらかったり、そもそも視認できなかったりすることもある。
しかし、VR映像なら視点を変えて視聴できるため、ピッコロのような小さな(目立たない)楽器でも、どのように演奏しているのか分かりやすい。この児童はグループで実況文を考えていたようで、学習用端末(Chromebook)から流れる音声をスプリッター(分配器)を介してイヤフォンで同時に聞いていたそうだ。これぞまさに「協働的な学習」である。
授業では3人1組で9班に分かれて実況文を作っていたそうだが、どの班もVR映像を何度も繰り返し見て、より納得感の高い文章に作り帰って行ったそうだ。
「見る」という観点に立つと、オーケストラの演奏を“目の前で”見せるという方法も考えられる。しかし、石光氏はVR映像は同じ所を繰り返し見られることと、演奏の様子を演者の“間近”で見られるという、生演奏では得られないメリットもあると語る。音と映像の関連性も分かりやすくなるため、楽器の“音色”を知る上でも効果は高い。
今後、池田小学校/中学校では、VR映像を活用した授業の実践を重ね、手作りのVR教材も積極的に制作していく予定だ。
続いて大阪教育大学の串田一雅教授(理数情報教育系)登壇し、大学1年生向けの「理科実験」に関する解説教材をVR映像として制作した際のエピソードを紹介した。
通常の動画の制作では、複数の場所(視点)で撮影した複数の動画を編集して“ひとまとめ”にする手間が掛かる。複数台のカメラで同時に撮るという方法もあるが、手間とコストはどうしても掛かってしまう。
そこで串田氏は、1カ所に置いたVRカメラの映像をアプリで編集した後、Blinkyに投稿した。学生は、Blinkyに投稿された動画をスマホやPCで視聴して、実験の方法や動作を確認できるという仕組みだ。
このやり方は、教える側における教材作成の労力の大幅な削減はもちろん、学生側にとっても画角の変更や拡大/縮小によって、見たい所をしっかりとチェックできるというメリットがある。ある意味でWin-Winな取り組みだ。
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