何年か前,女性科学者たちの人物紹介を読んでうんざりした項目をリストアップしたことがある。女性として初めて採用された,チームを率いた,大きな賞を受賞したといった話だ。私は当時,ひとりの素晴らしい女性天文学者の紹介記事の執筆を頼まれていたのだが,そうした“初めて”の羅列は彼女について何も語っておらず,それら全てが物語っているのは天文学の風土だった。学界の序列構造のトップ層は昔から白人男性で占められていて,彼らはその座を譲ろうとしない,そんな風土だ。
私が作ったリストは,女性科学者の記事でジェンダーバイアスを回避するのに役立つ「フィンクベイナー・テスト」として知られるようになった。私は性別が重要ではなく無視されうる全く新しい世界が突然やってきたのだと思うことにした。そしてインタビュー相手を「女性」の冠が付かない「天文学者」として扱った。
その後,別の記事の取材をする中で,ある一群の若手女性天文学者のことを知った。その分野を取材するならまず電話して話を聞くべき相手となるような,優秀な人たちだ。学界のトップ層に大勢の女性がいるのなら,彼女たちは「フィンクベイナー・テスト」後の世界に生きていて,「女性天文学者」ではなく「天文学者」なのかもしれないと私は考えた。だがそれは180度違っていた。確かに彼女たちはトップだが,遠慮なしに“女性の”天文学者として生きており,天文学の世界を変えつつある。
再録:別冊日経サイエンス273『まだ見ぬ宇宙を捉えろ 新鋭望遠鏡の世界』
再録:別冊日経サイエンス260『新版 性とジェンダー』
著者
Ann Finkbeiner
ボルティモアを拠点に活動するサイエンスライター。特に天文学と宇宙論,グリーフケア,科学と安全保障の接点をテーマに執筆している。科学ブログ「The Last Word on Nothing」の共同運営者の1人でもある。
原題名
Women Take On the Stars(SCIENTIFIC AMERICAN April 2022)
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