ワインのつまみ、コンビニ食材でここまで洗練
「ボージョレ・ヌーボー」の予約が始まりワインの新酒が楽しみになってきた。普段ほとんど料理をしない男性記者(48)だが、ちょっとしたワインパーティーを開いてみたいとずっと思っている。いざ客を招くなら、腕はなくともみんなが驚くくらいのおつまみメニューを作って出したい。「簡単だけど本格」。知恵を絞ってレシピ作りに挑戦した。
以前、日本ソムリエ協会名誉顧問の熱田貴さんに「コンビニエンスストアで買える千円台のワインでも、十分楽しめますよ」と聞き驚いたことがある。それなら食材もワインもコンビニの手軽なもので、目いっぱいすてきなパーティーを開くことはできないか。「使うコンビニ食材は3つまで、調理は3工程まで」という簡単料理の条件を決めて、メニューを考えることにした。
第1のテーマは「定番料理のなんちゃって版」。レストランなどで出てくる「チーズフォンデュ」を思い切り簡単に実現できないか。チーズと白ワインを煮溶かすなんてことはせず、思いついたのがカマンベールチーズを電子レンジでチンする方法。塩味の焼き鳥をチーズにつけて食べれば味に失敗はないに違いない。
スペインの居酒屋の定番、ジャガイモの入った厚手のオムレツはうまい。ただ自分が作れるかというと、味付けに自信がない。それなら、オムレツの中身をコンビニで売っているポテトサラダにして焼けば、ジャガイモ入りで味付けはしっかりしているはず。
パーティーらしい第2のテーマは「手軽につまめる」。ワインにはドライフルーツが合うから、プルーンをベーコンで巻いてつまようじを刺してオーブントースターで焼く。手ごろなサイズで売っている切り餅にはチーズやナッツを載せて、こちらもピザ風で。
続く第3のテーマは「手間をかけた本格料理風」。牛肉の赤ワイン煮なら時間がかかって料理通に見られそう。ただ肉は面倒だからソーセージに。ワインだと味付けが分からないから、パスタにかけるレトルトのミートソースで煮込もう。
イメージとはほど遠い試作品
さて発想はなかなか……と自画自賛しながら台所に立ち試作に入るが、頭の中のイメージと、できあがったものは大いに落差があった。
例えば第1のテーマで作った「即席ザワークラウトのサラミ添え」。千切りキャベツに少量の酢とプレーンヨーグルトで酸味を加え、レンジで加熱。冷やしても味がぼんやりして、食べるにはサラミの塩気が頼りだ。「スペイン風オムレツ」は生卵とポテトサラダを混ぜてフライパンに落としたが火が強すぎたのか焦げ臭い。あわてて弱火にし、蓋をする蒸し焼きに方針転換した。
第2のテーマの意欲作「納豆カナッペ」。納豆と細かく刻んだたくあんを混ぜて、チーズ味のクラッカーに載せた。ワインに合うと思った発酵食品づくしのカナッペは、なぜかチョコレートの風味がする。グラス片手に味見を重ねるが、なかなかこれだという料理には遠い。
そこで自作つまみの評価を受け、改良のアイデアをもらおうと料理研究家の町田えり子さんに相談した。
冷めても美味がパーティー向き
「ワインのおつまみは、はっきりした味、こくがある味がいい。卵料理は味が丸すぎるのでどちらかと言えば食事向きです」と町田さん。ポテトサラダを使うなら、揚げる手間はかかるが小麦粉とパン粉を衣にして「ポテカツ」でからしを付けて出すといいそうだ。
一応の好評価を得た記者の料理は表の4品だが「熱いことを前提にした料理はホストを台所にくぎ付けにしてしまうからパーティーではダメ。冷めてもおいしいのが第一」という理由で餅ピザやなんちゃってフォンデュも減点だ。冷めると硬くなることへの対策としてフォンデュには豆乳を加える。餅をクラッカーに代えてチーズ、イカ薫製でピザ風にすると意外に合うんだとか。
「コンビニ食材はしっかり付いている元の味に、別の味をうまく重ねてアレンジすると意外な力を発揮する」と町田さんはいう。例として提案するのがきんぴらゴボウのフリッターだ。ゴボウの泥臭さはワインと相性がいいけれど、あく抜き、下ごしらえに時間がかかるからパーティー料理としては敬遠しがち。でもしっかり味が付いているコンビニのきんぴらを使えば「手間は5分の1かな」。
焼き鳥の赤ワイン煮込みは、元のしょうゆ味に赤ワインが重なるうえ、一度焼いているので煮崩れない。おでんのタコも同様だ。だしの染み込んだ味に、ガーリックで強めの味を重ねれば、下ごしらえなしで洋風おつまみに変身する。
町田さんの助言に従い、豆乳を加えたフォンデュを試みた。チーズは溶けたものの豆乳の混ざり具合がいまひとつ。電子レンジで再加熱したら、あふれてレンジの中が豆乳、チーズだらけになった。失敗。
すてきなワインパーティーへの道のりは、まだ遠いようだ。
「パーティーで使ったワイングラスは、翌日洗うようにした方がいいですよ」とソムリエの熱田さんはいう。酔ったまま洗うと、手を滑らせて割ったり、けがをしたりする恐れがある。グラスは、油分のついた食器類とは別にして、水につけておくといい。
また新しいワインを開けるたびに、グラスを替える必要はない。のみ残しにつぎ足すのでなければ、新たなワインで先のワインを洗う「とも洗い」になる。粋な所作だという。
(坂田保治)
[日経プラスワン2011年9月17日付]