食糧使わないバイオ燃料量産へ VBの触媒技術が道開く
伊藤忠商事、米石油・化学大手フリントヒルズ・リソーシズ(カンザス州)などが、原料に大豆などの食糧を使わない第2世代のバイオディーゼル燃料(BDF)の本格生産に世界で初めて乗り出す。トウモロコシからエタノールを作る際に出てくる発酵残さ(DDGS)を原料に活用。インド生まれの特殊な固体触媒を使い低コストで量産できる新技術を確立し、2014年にも米ネブラスカ州に新工場を立ち上げる。
20年以降も消費量伸びる
BDFは主に大豆や菜種など食用穀物由来の油から生産し、その多くがディーゼル自動車の燃料として軽油に混ぜて使われる。11年の世界生産量は60億ガロン(220億リットル強)と過去10年で20倍強に拡大した。最大消費地はディーゼル車が主流で軽油への混合義務を課す国が多い欧州。最近は米国の需要も急増している。
ガソリンに混ぜるバイオエタノールと比べると市場規模は3割程度しかないが、バイオエタノール消費がすでに頭打ちになっているのに対し、BDFの消費量は20年以降も伸び続けるとみられている。
大豆や菜種といった食用穀物を原料に使わない第2世代BDFの低コスト量産技術の確立を世界の化学・エネルギー会社などが競っている。食用穀物を使ったバイオ燃料生産を増やし過ぎると穀物相場の高騰を招きかねず、場合によっては途上国の食糧難や社会不安をもたらす危険があるためだ。
そうしたなか、第2世代BDF生産で頭一つ抜け出したのが、伊藤忠、伊藤忠エネクス、フリントヒルズ、バイオ燃料製造ベンチャーの米ベネフエルが共同推進する量産プロジェクトだ。米国の既存のバイオ燃料工場を安く購入して改造。通常は家畜飼料となるDDGSを原料に使い、14年にも米国のBDF総生産量の5%に相当する年1億9000万リットルの生産を始める。生産したBDFは軽油混合用として米エクソンモービルなどに供給する。
もともとDDGSや廃食油など低品質な原料には遊離脂肪酸と呼ばれる不純物が多く含まれるため、これを除去するなどBDFの製造プロセスが複雑になり、その分コストがかさむ問題があった。
製造コスト大幅下げ可能に
それを一気に解決したのがインドの研究者が開発した固体触媒。ベネフエルはその固体触媒技術を使ったバイオ燃料生産の事業化を目指していた。伊藤忠商事は09年から資金と技術開発の両面でベネフエルを支援。11年にはフリントヒルズもベネフエルに資本参加し、12年に量産技術を確立した。
この固体触媒は不純物でしかなかった遊離脂肪酸を原料として使えるよう変えてしまう性質があり、製造コストの大幅引き下げを可能にした。食用穀物を原料に使う場合に比べ、約3割安く生産できるという。ベネフエルや伊藤忠グループでは固体触媒の組成や形状を変えるなどの改良を続けており、さらなるコスト低減を目指している。
各社ともBDF需要は米国だけでなく世界各国で伸びると見ており、伊藤忠エネクスは今回のBDFを武器に東南アジア市場への本格進出を検討しているという。
(産業部 佐藤昌和)