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どこでも通信 世界一変

ケータイ20年 日本の興亡

iモードの過信、iPhoneの逆転ゆるす

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日本最大の携帯電話会社、NTTドコモが1日で営業開始から20年を迎えた。この間、携帯電話は劇的な進化を遂げ、我々の生活や文化を変えた。日本の「ケータイ」は技術やサービスで先頭を走ってきたが、世界の潮流と離れて固有に進化した「ガラパゴス」とも呼ばれてきた。先駆者の話を交えて20年の進化の歴史をひもときつつ、ケータイの未来を展望する。

食べると相手の話す外国語を翻訳してくれる「ほんやくコンニャク」。ドラえもんのひみつ道具の1つが、携帯電話で現実になろうとしている。

ドコモは通話音声を3カ国語に翻訳する携帯電話を今秋にも実用化する。研究所ではスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)を視線で操作するメガネ型デバイスの開発も進む。研究開発センター所長の尾上誠蔵取締役は言う。「スマホの次の携帯をつくる。2020年には携帯1台で何でもできるようになる」

普及率は1%

1992年、国の競争政策で分離されたNTTの携帯電話事業。人口に対する普及率は1%で赤字続き。固定電話主体のNTTのお荷物だった。

この20年で日本では何が変わったか。01年に携帯の契約数が固定を抜き、公衆電話は7割も減った。今年3月には携帯の契約者数が総人口をも上回り、名実ともに1人1台時代になった。

現在、2人以上の世帯(農林漁業世帯除く)当たりの通信関連支出は月約1万2千円。消費支出に占める比率は約4%と、2倍になった。普通郵便の取扱数は約2割減り、年賀状は「あけおめメール」に変わった。

今年3月に国内の携帯で利用されたネットの通信量は月7万8千600テラ(テラは1兆)バイト。年換算では94万テラバイトに達する。携帯ネットが始まった1999年当時の実に7万倍。起爆剤になったのが「iモード」だ。

「人間はモノに充足すると精神の豊かさを求める。それは情報であり知識であり、娯楽だ」。携帯ネットの実用化を指示したドコモ初代社長の大星公二氏は当時を振り返る。大星氏がソニーの「ウォークマン」に着想を得たiモードはどこにいても指1本の操作でネットにつながる。10年間で5千万人の利用者を獲得し、最盛期には年間1兆5千億円を稼ぎ出した。

皮肉にも、このころから日本のケータイは独自の進化を始める。KDDI(au)は02年に音楽配信サービス「着うた」を始め、若者の支持を集めた。米アップルの携帯音楽プレーヤー「iPod(アイポッド)」発売とほぼ同時期。KDDIの小野寺正会長は「日本のネットサービスはパソコンよりもモバイルで先行した」と指摘する。

なぜ当時、世界に広がらなかったのか。

「iモードを欲しがらない通信会社があるなら教えてほしい」。00年、ドコモの立川敬二社長(当時)はこう断言し、AT&Tワイヤレスなど欧米携帯大手に立て続けに出資。iモードを先兵に第3世代携帯の日本規格「W-CDMA」で世界標準を握ろうとした。

 だが欧州や中国で第2世代の欧州規格「GSM」の端末を大量に売るフィンランドのノキアや韓国サムスン電子に押され、日本規格は根付かなかった。情報通信総合研究所の佐藤仁研究員は「海外の通信機器メーカーは第3世代技術に付いてこられなかった」とみる。

1兆円の勉強代

立川氏は「お勉強代」とうそぶくが、ドコモは02年に1兆円超の特別損失を出し海外投資を引き揚げた。NECや松下電器産業(当時)などの端末メーカーも後を追うように海外から撤退した。

横浜国立大学の安本雅典教授は「電電公社時代からNTTに開発から販売まで面倒を見てもらってきた弊害がある」と、日本メーカーの市場開拓力の弱さを指摘する。

06年、日本の携帯産業の国際競争力を議論する総務省の懇談会で「ガラパゴス」という言葉が登場した。今では若者はスマホでない従来型の携帯を「ガラケー(ガラパゴスケータイ)」と呼ぶ。

「ガラケーという言葉は不愉快。タッチパネル以外はiPhoneとiモードは一緒」。iモード開発の立役者の1人、バンダイ社外取締役の松永真理氏は不満げだ。

ノキアをも駆逐したiPhoneは日本の携帯が到達すべき姿だったかもしれない。だがアップルがスマホの時代を切り開きつつあるころ日本の携帯産業は「ワンセグ」放送など内向きのサービス開発に傾斜していた。

アップルはiPhoneの日本発売を巡る交渉でNTTの知的財産の開放を求めたためドコモと決裂。スティーブ・ジョブズ氏のもとに乗り込んだソフトバンクの孫正義社長が販売権を得て日本の携帯市場で躍進する。

携帯ネットの成功体験が日本勢の歩みを遅らせたかもしれない。iモードの勢いで国内の携帯端末で一時首位に立ったNECの幹部はiPhone上陸前夜、「日本人はボタン操作に慣れている。タッチパネルは向かない」と一蹴した。

第2世代の「ムーバ」などの携帯を開発したドコモ・テクノロジ(東京・港)の卜部周二氏は「タッチパネルは実用化していたがヒットしなかった。豊富なコンテンツを用意する工夫も必要だったのでは」と振り返る。

アップルはiPhoneで端末、ソフト、サービスを一体にした垂直統合モデルで成功した。米グーグルも独自タブレット(多機能携帯端末)を発表するなど、同じモデルに動き始めている。そこには携帯会社とメーカーが手を組んでつくり上げたかつての日本のケータイの姿が重なる。

スマホ時代になり、ドコモはコンテンツ企業との提携で海外に乗りだした。ドコモのくびきが消えた端末メーカー各社も再び海外進出を始めた。この20年と同様に技術は進化し続ける。日本のケータイに先取の精神が残っていれば世界で存在感を示せる余地はある。

<小さく安く 絶えざる挑戦 NTTドコモ初代社長 大星公二氏>

――会社分割前のNTTで携帯電話事業の重要性は低かった。

「NTTの自動車電話事業は1979年に始まった。その後、携帯電話事業も開始したが販売は伸びず赤字が続いていた。携帯電話事業はNTTの会社分割で92年に本体から切り離されたが、将来性が無いと判断したからだろう。当時のNTTの幹部からは『好きにやって』と言われた」

「ただ、私は携帯電話は普及すると確信していた。人間は豊かになると行動範囲を広げる。どこでもコミュニケーションを取れる手段が必要になるからだ」

――会社設立からわずか10年間で携帯電話の普及率は1%から59%まで高まった。

「分割後も1~2年間は売れなかった。最大の原因は電話がつながらなかったことだ。自動車電話からスタートしたため、基地局は道路に沿って設置していた。道路から離れるとつながらないのは当然だった。数百億円投じて全国の通信網を張り直したことで通信環境は劇的に改善した」

「料金も大幅に見直した。当時の端末は高価でレンタル制。持ち逃げを防ぐため、初期費用に保証金と加入料で約15万円取っていた。基本料金も毎月1万6000円と高すぎた。値下げは社内から猛反発を受けたが、加入者が増えれば結果的にもうかると分かっていた。端末のレンタルも廃止したことで量産効果が生まれて端末価格も下落。一気に販売が伸びた」

――利用者は右肩上がりで増えたが、他社との値下げ競争も激化していた。

「数年先には普及が頭打ちになる恐れがあった。他社もドコモに追いつこうと必死で、差異化が必要だった。人はモノに充足すると情報、知識、娯楽を求めるようになる。インターネットを通じてこれらのデータを携帯電話で提供できれば爆発的なヒットになると考えた」

「96年ごろから社内で新事業の検討を始めた。責任者に指名した榎啓一君(現ドコモエンジニアリング相談役)は最初、人が足りないなどと難色を示したため人材は社内外から自由に集めろと言った。すると、雑誌編集者の松永真理さん(現バンダイ社外取締役)やネット技術に詳しい夏野剛君(現ドワンゴ取締役)などが集まり、99年にネット接続サービス『iモード』を立ち上げた」

――携帯電話の通信規格の世界標準化も目指した。

「国内市場が飽和するのは目に見えていたため海外展開を考えた。当時、ドコモの端末を海外で使えるようにするには通信規格を世界中で統一する必要があった」

「ドコモが開発した『W-CDMA』と呼ばれる第3世代携帯電話(3G)方式を広めようと世界中の通信会社、メーカーと交渉した。欧州、特に大手の通信機器メーカーを持つドイツやフランスの抵抗が強かったが、個人的に交渉して賛成を取り付けた。その後細かい部分で規格が変わったのに、ドコモはきちんと変化を追わなかった。結果的にガラパゴスなどとやゆされるようになった」

――これからの携帯電話はどのように進化するだろうか。

「スマホがここまで普及するとは想像できなかった。ただ、情報産業は絶えず環境が変化する。5年先を見通すのは難しいが、常に技術革新を続けることが大切だ」

(聞き手は遠藤賢介)

[日経産業新聞2012年7月2日付]

 日経産業新聞では2日付から「ケータイ20年 進化の軌跡」を連載。3日以降も、NTTドコモ元社長の立川敬二氏、「iモード」の生みの親である夏野剛氏と松永真理氏、KDDI前社長の小野寺正氏らのインタビューを掲載する予定です。

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