今、引っ張りだこなのは誰? 求められる女性声優の条件
日経エンタテインメント!
テレビアニメは、現在1クールに30~50本の新作が作られている。作品数が多いので、人気声優は1クールに複数本出演するのは当たり前。時には複数の作品で主人公を務める。
その中で、今、引っ張りだこの声優は誰なのか。今回は、2011年4月~2012年3月の1年間に放送されたテレビアニメ、および公開された劇場アニメ作品で、女性声優の"1番手"にクレジットされた数の多い人を調べた。「主人公」を務めた作品と、男性声優が主人公の作品で「ヒロイン」などを演じ、女性としてはトップに名前が挙がった作品の数を合算した結果、上位は下に掲載した表1の14人になった。
アニメ制作の現場では、ほぼすべての作品の配役がオーディションで決められている。人気の高さや経験はひとまず置いて、監督や音響監督がその作品の役柄に合うかどうかをチェックしたうえで声優を決めていく仕組みだ。そんな今の制作陣から求められる声の持ち主である14人の顔ぶれを見ると、アイドル的な人気を持つ声優、男性の声が得意な人、声を使い分けるカメレオン型など、様々なタイプが人気と分かった。なお、上位の14人については、「日経エンタテインメント!」誌に「アニメWiki」を連載中の吉田尚記氏に、その特徴を解説してもらった。前ページの表1の中に掲載したので、参考にしてほしい。
対照的なトップ声優の2人
トップは釘宮理恵。ヒロイン数では1つリードされたものの、主人公は同じく4回務めた花澤香菜がこれに続いた。いわば当代のトップ女性声優であるこの2人だが、いくつか対照的な面がある。
まずは声質の違い。釘宮は「灼眼(しゃくがん)のシャナ3-Final-」のシャナや「劇場版ハヤテのごとく!」の三千院(さんぜんいん)ナギに代表されるような、声に幼さを感じさせるキャラクターを演じることが多い。一方の花澤は「ブラック★ロックシューター」の黒衣(くろい)マトや「ロウきゅーぶ」の湊智花のような、元気さや強さの中にも落ち着きが伴うキャラクターを演じるのが特徴だ。
声質のほかにも、釘宮が声優養成所を経てデビューしたのに対し、花澤は子役を経て声優を始めたという経歴の違いもある。
現在、声優になるには声優事務所の付属養成所を経てデビューというのが主流。「けいおん!」の秋山澪役でブレイクした日笠陽子や、昨年「花咲くいろは」の松前緒花役の好演が光った伊藤かな恵など若手の人気女優や、白石涼子や佐藤利奈といった実力派まで幅広い人材を輩出している。
一方、今回ランクインした坂本真綾や「魔法少女まどか☆マギカ」の主人公・鹿目(かなめ)まどかを演じて一躍注目を集めた悠木碧(ゆうきあおい)のように、花澤と同様に子役経験者が力を発揮する例も少なくない。幼少時から舞台やドラマで芝居に接してきた経験が、声の演技においてもプラスに働くのかもしれない。女性1番手の数が釘宮や花澤に続く福圓美里(ふくえんみさと)も、劇団を主宰するなどマルチに活動している。
声優専門事務所の養成所や子役に続く、第3の声優への道となりはじめているのが、大手芸能事務所やレコード会社による大型のオーディションだ。これまでは、慣習などの違いから、声優専門事務所以外のプロダクションが声優・アニメ業界に参入するのは難しいという意見も根強かった。だが、ソニー・ミュージックエンタテインメント傘下のミュージックレインが2005年に実施した「ミュージックレイン スーパー声優オーディション」を機に改めて注目されるようになった。この時の合格者が、戸松遥、豊崎愛生(とよさきあき)、寿美菜子、高垣彩陽(たかがき あやひ)の4人。個々の演技や技術に対する評価が高く、音楽ユニット「スフィア」として、アイドル的な成功も収めたためだ。
なかでも幅広い活動が目立つのが戸松。演技に対するアニメ関係者からの評価が高い彼女だが、実は東宝芸能主催の第6回「東宝『シンデレラ』オーディション」の最終審査に残ったという経歴も持つ。このため、声優としては異例の水着写真集を2冊発売するなど、タレント色の強い活動も展開する。
こうした流れを背景に、ホリプロは2011年10月に行った「第36回 ホリプロタレントスカウトキャラバン」を、初めて声優アーティスト発掘を目的に位置づけた。このオーディション出身の大橋彩香が放送中の「エウレカセブンAO」のメインキャストに抜てきされるなど、早くも活躍し始めている。さらに、エイベックスも現在、老舗声優事務所の81プロデュースと組んだ「アニソン・ヴォーカルオーディション」を、ポニーキャニオンも「ぽにきゃん声たまオーディション」を開催中だ。
音楽活動に重点を置く声優も
なお、今回は主人公・ヒロインの「1番手」だけでなく、各作品の公式サイトに「メインキャスト」として名前が記載されていた数も調べた(表2参照)。こちらのトップは花澤香菜。「1番手」ランキングの結果と合わせ、その個性や演技力を幅広い作品から求められている声優であることが分かる。
また、上位には沢城(さわしろ)みゆき、能登麻美子、小林ゆう、小清水亜美、喜多村英梨(きたむらえり)、竹達彩奈(たけたつあやな)など、「1番手」ランキングの結果(表1)には入らなかった声優も並ぶ。いずれも、調査期間が変れば「1番手」ランキングに入ってもおかしくない人気声優たちだ。
2位の沢城みゆきは、2010年に「第4回声優アワード」の主演女優賞に輝くなど演技力への評価が非常に高い。放送中の「LUPIN the Third -峰不二子という女-」の峰不二子役など主人公・ヒロイン役も多く演じている。
能登麻美子はこの期間の主人公作品こそなかったものの、「輪(まわ)るピングドラム」の時籠ゆり役など、スーパーサブ的存在として数多くの作品に出演した。
一方、NHKの「紅白歌合戦」に3年連続で出演し、アニメファン以外にも広く知られる水樹奈々のメインキャスト数は、10本で18位。2011年7月期にテレビシリーズが放送された「BLOOD-C」で主人公を演じるなど、安定した活躍を見せているものの、1番手作品もこの1本だけだった。歌手に軸足を置きつつアニメ以外にも活動の幅を広げているため、声優としての出演数は意外と控えめだ。
声優ブームをけん引してきた世代で、現在でも人気や知名度ではトップクラスの田村ゆかりや堀江由衣らも、主人公・ヒロインの数やメインキャスト出演本数がずば抜けて多いわけではない。水樹同様、音楽活動もコンスタントに行っているため、出演作をある程度コントロールし、両立を図っていると考えられる。
これは、今の女性声優の活躍の場が、広がっている表れといえる。実際に表1に掲載した1番手ランキングの上位14人中10人が、個人名義での音楽活動を行っている。今春も花澤香菜、竹達彩奈、悠木碧といった期待の若手声優が相次いでデビューした。彼女たちも演技と音楽活動との両輪で末永い活躍が期待できそうだ。
(ライター 矢口紗)
[日経エンタテインメント!2012年6月号の記事を基に再構成]
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