被疑者(ひぎしゃ)
被疑者
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/29 08:57 UTC 版)
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被疑者(ひぎしゃ)とは、捜査機関に犯罪の嫌疑をかけられており、かつ公訴を提起されていない者。容疑者(ようぎしゃ)とほぼ同じ意味だが、被疑者は日本法上の法令用語として、容疑者は犯罪報道や小説を含めた一般的な用語として使用されることが多い。また、これら被疑者 /容疑者のうち、逮捕された者に対する報道上の呼称として氏名の後に容疑者を付ける用法もある。
法令用語としての被疑者と概念上区別をする必要のある場合にも、法令において「被疑者」ではなく「容疑者」という語が用いられることがある[注 1]。
定義
捜査機関によってある犯罪を犯したと疑われ捜査の対象となったが、起訴されていない者を被疑者という。起訴された後は、当該事件との関係においては被告人と呼ばれる。
被疑者が大日本帝国憲法下での法令用語として使われている一方、容疑者も同時期から推理小説などで使われてきた。広辞苑では以下のように説明されている。
被疑者 犯罪の嫌疑を受けた者でまだ起訴されない者。
容疑者 犯罪の嫌疑によって検事または司法警察から取調を受け、まだ公訴を提起されないもの。—『広辞苑』第1版(1955年)
被疑者 犯罪の嫌疑を受けた者でまだ起訴されない者。容疑者。
容疑者 犯罪の容疑を持たれている人。被疑者。—『広辞苑』第7版(2018年)
特に容疑者は「逮捕された者」とみられがちだが、法令用語としての被疑者は、逮捕・勾留による身体的拘束を受けているか否かを問わない。犯罪の嫌疑を受けて捜査の対象となっているのであれば、逮捕される前の者や逮捕されなかった者[注 2]も被疑者である。報道における容疑者はほとんどの場合は逮捕された者を報道する場合に使われるが、被疑者死亡や被疑者の病気などを理由に逮捕できなかった時にも「○○容疑者」と表記する場合もある。
被疑者の義務
逮捕・勾留を受けている場合、取調受忍義務が実務の上ではあるとされている。
被疑者の権利
被疑者は被疑者特有の権利を有する。当然ながら基本的人権を有するが、刑事訴訟法に基づいて一定の制限を受ける。
- 弁護人選任権
- 弁護人を選任する権利である。私選弁護人が原則であるが、今後、国選弁護人を選任することを求めることができるようになる。
- 国選弁護人選任請求権
- 国選弁護制度を参照
- 接見交通権
- 接見交通権を参照
- その他の権利
- 被疑者も基本的人権を有し、その人権は合理的な理由なく妨げられてはならない。もっとも、被疑者であるために一般国民よりも広い、合理的な制限(強制捜査や逮捕・勾留など)が課せられうる。
無罪推定の原則(推定無罪)
被疑者は捜査機関から犯罪を犯したとの嫌疑を受けているものの、被疑者には法的には無罪であるという推定が働いている。これを無罪推定の原則もしくは推定無罪という。しかし、現実の社会においては、被疑者とされた者は有罪であるとの誤った観念に基づく問題が発生することがある。有名な例では、ロス疑惑や松本サリン事件と、その後のマスコミ報道に対する民事訴訟裁判がある。
日本の報道における「容疑者」の語について
日本のマスメディア(マスコミ)では一般的に、任意捜査の段階ではなく逮捕などの強制捜査の段階に至った者について、被疑者/容疑者を使用している。明治の初期以来、被疑者は実名呼び捨てであったが、1980年代半ばから末にかけて、被疑者/容疑者になった特定の個人に対して、その個人名の後に「容疑者」という呼称を付ける記述が広まり、その後も続いている。この時期に変革を迎えた理由としては下記が挙げられる[要出典]。
- 被疑者は無罪を推定されている立場であり、基本的人権の観点から呼び捨ては適正でないという意見が広がったこと
- 呼び捨て報道訴訟があったこと
- 80年代に戦後の裁判で冤罪により死刑判決を受けた人の再審が相次いで認められたこと
- 刑事裁判を受ける人の「○○被告」表記がすでに広がっており、逮捕段階での呼び捨てと矛盾があること
1984年にNHKが「○○容疑者」呼称を開始。同年に産経新聞が「肩書き表記」を採用したが、「○○会社員」などはまだしも「○○無職」などの表記に違和感があったこともあって廃れた。その後、1989年11月に毎日新聞が「○○容疑者」表記をルール化したのを機に一気に全マスコミに広がった。被疑者の犯人視を防ぐための改革だったが、「○○容疑者とは言うが、あたかも容疑者=真犯人であるかのように、大々的に報道する傾向がある」と、呼び捨ての頃とあまり変わらない報道姿勢に対する批判も存在する[1]。
逮捕されない場合、「容疑者」という肩書きを付けないことが一般的であり、例えば書類送検された場合、著名人であれば役職などの肩書きで報じられ、一般人であれば氏名が報じられないことが多い。しかし、被疑者側の事情で逮捕に至らなかった場合でも、被疑者の氏名を容疑者という肩書きをつけて報道することがある。一例として、第一生命多額詐取事件では、89歳の女性営業職員(存命)が詐欺容疑で書類送検されたところ、読売新聞は○○容疑者という肩書きで報じた(読売新聞2021年5月20日西部朝刊30面)。ほか、島根女子大生死体遺棄事件では、被疑者が死亡していたため逮捕されていないが、朝日新聞(朝日新聞2016年12月20日夕刊11面)、毎日新聞(毎日新聞2016年12月20日夕刊9面)、読売新聞(読売新聞2016年12月20日夕刊13面)、日本経済新聞(日本経済新聞2016年12月20日夕刊13面)は、いずれも〇〇容疑者と報道した。
「容疑者」「被疑者」以外の報道上の呼称
前記の「名前の後ろに容疑者を付ける呼称」については報道機関によってルールがあり、1つの記事の中で2回目以降に実名を記載する場合などは「容疑者」の語は用いず、「さん」「氏」などの敬称や、職業上の肩書きなどを付けて報道することも可能である[2][3]。
役職に絡んだ容疑で逮捕された場合でも肩書きを使うことが多い。2020年東京オリンピック・パラリンピックの贈収賄事件では、日本オリンピック委員会の元理事やスポンサー企業の元会長らをすべて「○○容疑者」と表記してしまうと分かりにくくなるため、新聞では初出のみ容疑者とし2回目からは元理事、元会長などの肩書きにしたメディアがあった。会社社長、役員、公務員(警察官、自治体職員など)などの被疑者・被告人に関して、最初に「会社社長の○○容疑者」と呼び、その後は「役職」をつけて報道することがしばしばみられる。
あるいは有名芸能人が軽微な犯罪の被疑者になったり、逮捕に至っていない場合などで、「〇〇メンバー」や「〇〇タレント」などの呼称を用いることがある[4]。
なお、学校で使われる公民科の教科書では、「~である人物を容疑者(または被疑者)と呼ぶ」などと、容疑者の文字は太字、被疑者の文字は細字のカッコ書きになっている[要出典]。
歴史
- 1984年(昭和59年)4月 NHKが「容疑者」呼称の使用開始。
- 1989年(平成元年)4月 フジテレビ系列(FNN)が「容疑者」呼称の使用開始。
- 同年11月 TBS系列(JNN)、毎日新聞が「容疑者」呼称の使用開始。
- 同年12月 読売新聞、朝日新聞、日本テレビ系列(NNN)、テレビ朝日系列(ANN)、テレビ東京系列(TXN)など、日本新聞協会加盟各社及び共同通信社、時事通信社が「容疑者」呼称の使用を開始。
脚注
注釈
出典
- ^ 渡辺洋三「法とは何か新版」62ページ
- ^ 『記者ハンドブック 新聞用字用語集』(第13版)共同通信社、2016年、539-540頁。
- ^ 強制わいせつ報道「山口達也メンバー」にネットでは「暗黙のルール」と指摘。実際は… - 籏智広太、瀬谷健介、BuzzFeed News、2018年4月25日
- ^ 「山口メンバー」報道から振り返る、芸能人呼称の歴史 逮捕・書類送検で各社対応は?弁護士ドットコム 2018年4月29日
関連項目
外部リンク
- 「被疑者ノート(取調べの記録)の活用について」(日本弁護士連合会。ノート本文はPDFファイル)
被疑者
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/06/30 07:38 UTC 版)
「フラント・ディンク暗殺事件」の記事における「被疑者」の解説
事件発生から32時間後、公表された犯人の画像を見て父親が当局へ通報したことにより、1990年生まれ、トラブゾン在住のオギュン・サマスト(トルコ語版)が事件の犯人として逮捕された。トラブゾンでは、前年にカトリック教会(英語版)司祭のアンドレア・サントロ(英語版)が、地元の民族主義者の少年に射殺されており、近年の極右運動家の主要なリクルート先にもなっていた。そしてサマストには、2004年にトラブゾンのマクドナルド店舗を爆破した前科を持つヤシン・ハヤル(英語版)という友人もいた。ほどなく、トラブゾン県知事ヒュセイン・ヤヴズデミルおよびトラブゾン警察署長レシャト・アルタイは職務を解かれ、その後アンカラから派遣された特別調査チームにより現地の調査が行われた。 20日中にサマストはディンクの殺害を自供したが、この段階ではサマストは犯行は個人的なものと供述していた。しかし、サマストのおじは取材に対して、イスタンブールについて知識のないサマストが独りで犯行に及ぶことができたとは思えず、サマストは利用されたのだと主張した。サマストは、ディンクが「トルコ人を侮辱した」ために殺害したと語り、後悔もしていないと供述した。メディアは、サマストが高校を中退しており薬物中毒の可能性もある、と報じた。その後、サマストはTV報道を見て初めて自身の行為の重大さを認識し、悔悟した様子で供述を終えたと報じられた。 ところが2月1日、勾留中のサマストが警官とともに、トルコの国旗の前で誇らしげにポーズをとっている映像がメディアに流出した。映像は議論を呼び、『ラディカル』編集者のイスメト・ベルカン (tr) は「これはディンクをもう一度殺すようなものだ」と語った。しかし、ほどなく配信元のTGRT(トルコ語版)は映像が偽造であったと認め、同社のディレクターらは引責辞任した。 同時期には事件に加担したとして他の6人の被疑者もトラブゾンで逮捕されていたが、その中でもヤシン・ハヤルが自分にディンクを殺害するよう焚きつけ、そして凶器も手配した、とサマストは供述した。そしてハヤルも、サマストに銃と金を与えたことを認め、「彼は義務を果たし、トルコの名誉を回復することを助けた」と述べた。また別の調査によれば、民族主義地下組織「エルゲネコン(エルゲネコン組織(トルコ語版))」の事件への関与も指摘されている。メンバーであった大佐のフェルハト・ヨズソイが、「フラント・ディンクの死だけでは充分でない」として、借金を抱えていた部下にディンクの妻子を暗殺するよう30万リラで持ちかけていたことが、エルゲネコン裁判(トルコ語版)の中で明らかにされている。
※この「被疑者」の解説は、「フラント・ディンク暗殺事件」の解説の一部です。
「被疑者」を含む「フラント・ディンク暗殺事件」の記事については、「フラント・ディンク暗殺事件」の概要を参照ください。
被疑者
「被疑者」の例文・使い方・用例・文例
- 被疑者は全面的な自白をした
- 被疑者はただちに接見交通権を主張した。
- 判事は被疑者の扱い方について警察を激しく非難した.
- (通常、ある法令や条約に基づいて)ある州または国により、他の州または国へ、被疑者や犯罪者を引き渡すこと
- 服を脱がせることで隠し持った武器や違法なドラッグを求めて被疑者を探す
- 軽犯罪に対する起訴を行い、重犯罪の被疑者を上位裁判所で審理するために引き渡す権限を持つ裁判所
- 被疑者の供述を記録したもの
- 検察官面前調書という,被疑者などの供述を録取した調書
- 刑事訴訟法という,刑法によって刑罰権を実行する際の必要な手続きを定めた法律において,被疑者が逮捕されることなく出頭すること
- 被疑者の身柄を拘束せず,任意出頭の形で取り調べること
- 裁判前,ジャーナリズムが被疑者を犯罪者扱いに報道すること
- 犯罪報道で被疑者,被告を実名で報道する主義
- 逮捕状によって被疑者を逮捕すること
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