し‐と【使徒】
しと 【使徒】
使徒
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/24 13:48 UTC 版)
使徒(しと)は、狭義にはイエス・キリストの12人の高弟を指すが、それに近い弟子(パウロ、七十門徒など)にもこの語が用いられることがある。原義は、重要な役割を果たしたキリスト教の宣教者(「神から遣わされた者」)および、その宣教者の総称である。
原語のギリシア語は ἀπόστολος (apostolos) で、「遣わされた者」である。転じて「使者」「使節」をも指す。このギリシア語は、キリスト教文書以外にも出てくるものであるが、キリスト教文書の日本語訳の際だけ「使徒」という専門語を当てて訳すため、両者の単語間には齟齬がある。この点では、他の西洋語も、ギリシア語の形を踏襲しているものの、事情はさして変わらない(羅: apostolus、仏: apôtre、独: Apostel、英: apostleなど)。なお、「使徒」という訳語は、漢訳聖書から継いだものである。
また、イスラム教においては、ラスール(rasūl, رسول)という語が同じく「使者」の意であり、キリスト教の使徒と似た意味に用いられて、訳語として「apostle」や「使徒」があてられている。
キリスト教における使徒
狭義
新約聖書では、ἀπόστολος の語は(複数形 ἀπόστολοι も含めて)、「マルコによる福音書」、「マタイによる福音書」、「ルカによる福音書」、「使徒言行録」、パウロ書簡、「ヘブライ書」、ペトロ書、「ユダ書」、「ヨハネの黙示録」に用いられている。このうち、「マルコ[注 1]」と、「マタイ[1]」、「ヘブライ書[2]」は文脈上、この単語を単に「派遣されたもの」または「使者」という意味で用いている。他の文書では、ἀπόστολος は、固有名詞的に、何か権威ある称号のようなもの(日本語訳でいう「使徒」)として使われている。近代批評学では「原始キリスト教」において、「使徒」がどのような定義をもつ語として用いられていたのか、その詳細はよくわからないとされる。
ルカ(の著者)の十二使徒観ははっきりとしている[3]。ルカ文書(ルカ福音書と使徒言行録)によれば、「十二使徒」とは、最初にイエスによって選ばれた12人の弟子集団である[4]。旧約時代の神の民・イスラエルの12部族との関連で、12人という枠は維持すべきもので[5]、十二使徒の成員の条件としては、イエスの復活の証人であり、またイエスと生前をともにした者でなければならない[6]。またルカははっきりとパウロを使徒と認めている[7][注 2]
さらに、パウロ書簡は、使徒の基準を伝えている。パウロ書簡による使徒の定義は、復活した主イエスの証人であること[8]主イエスに使徒として召されたことである[9][10]。重要な点として、パウロは「使徒」としての権威を強調していることが挙げられる[11]。このパウロの使徒としての権威は、使徒ペトロも認めている[12][13]。次に、パウロは、使徒は12人(あるいは、自身を含めて13人)に限定していない[14]。
近代批評学では、パウロがルカと同じく、主の兄弟ヤコブを「使徒」とは呼ばないことにも、「使徒」の定義の謎が残るとされる。エルサレム教会の権威が失墜した時期以降、恐らく「使徒」の厳しい定義も消えていったと考えられる。
正教会やカトリック教会は、パウロを「使徒」と呼んで崇敬し、それは現代にまで至る。
十二使徒
前述のように、「十二使徒」は極めてルカ的概念である。ただし、ルカは「十二使徒」という言葉そのものは用いていない。新約中、この言い方は、「ヨハネ黙示録」21章14節のみである(マタイ10章2節については、前述の通り)。
新約聖書内では、ルカ福音書と使徒言行録を除いては、使徒を12人に限定していないが、イエスの高弟である「十二人」( δώδεκα) については、幾つかの文書に記されている。彼らは、イエスから悪霊を払うための権能を授けられたという。12という数字は、イスラエルの12部族に対応するものと思われる。「十二人」のすべての名は、「マルコ福音書[15]」に記されており、「マタイ[16]」、「ルカ[17]」、「使徒言行録[18]」は、これを写したものである。「ヨハネによる福音書」には、「十二人」の存在は語られるが、内数人のみの名が挙げられている。他に、「第1コリント書[19]」、「ヨハネの黙示録[20]」など。使徒言行録によれば、イスカリオテのユダによる欠員をマティアで埋めたという[21]。
福音書によって構成員の名前が異なること、ほとんど言及されない人物もいること(後掲の表参照)から、イエス時代の史実でないと考える研究者もいる。ルカの「十二使徒」という概念は、後に「正統派」教会においてドグマ化し、広く定着した。
マルコ | マタイ | ルカ | 使徒言行録 | ヨハネ |
---|---|---|---|---|
シモン・ペトロ(B1) | ペトロ | ヨハネの子シモン・ペトロ(B1) | ||
ゼベダイの子ヤコブ(B2) | ゼベダイの子ヤコブ | ヤコブ(B2) | ゼベダイの子たち(!)(?) | |
ヨハネ(B2) | ヨハネ | ヨハネ(B2) | イエスに愛された弟子(?)[注 3] | |
アンデレ(B1) | アンデレ(B1)(!) | アンデレ(!) | アンデレ(B1) | |
フィリポ(!) | フィリポ(?) | フィリポ | ||
バルトロマイ(!) | ||||
ナタナエル[注 4] | ||||
マタイ(!) | 徴税人マタイ | マタイ(!) | ||
トマス(!) | ディディモ・トマス | |||
アルファイの子ヤコブ(!) | ||||
タダイ(!) | ||||
ヤコブの子ユダ(!) | (イスカリオテでない)ユダ | |||
熱心者のシモン(!) | 熱心党員と呼ばれたシモン(!) | 熱心党のシモン(!) | ||
イスカリオテのユダ | (ユダ[注 5]) | イスカリオテのシモンの子ユダ | ||
マティア |
注:
- (B) は兄弟関係を表す。
- (!)は、ただ1回のみの言及。
- (?) は、他の文書内の使徒と同一人物であるかわからないもの。
レオナルド・ダ・ヴィンチによる「最後の晩餐」における配置は左から以下の通り: バルトロマイ(ナタナエル)、アルファイの子ヤコブ、アンデレ、ユダ、シモン・ペトロ、ヨハネ。イエスを越して、トマス、ゼベダイの子ヤコブ、フィリポ、マタイ、タダイ、熱心党のシモン。
広義
ある地域に初めてキリスト教を伝えた人物や、特定地域の宣教に大きな働きを示した人物に、「使徒」の称号を冠することも一般的である。正教会では、これを亜使徒(Equal to the apostles, 使徒に準ずる、あるいは使徒と同等の者の意)と呼ぶ。
例として、東洋の使徒フランシスコ・ザビエル[注 6]やスラブの使徒、またはスラブの亜使徒キリル(チリロ)とメトディウス(メフォディ)、日本の亜使徒聖ニコライなどがある。
イスラム教における使徒
イスラム教での使徒(ラスール)とは、ある特定の共同体の中から選ばれ、その共同体に遣わされて、神(アッラーフ)から授かった言葉を伝える使命を啓示された者のことである[22]。
ムスリム(イスラム教徒)にとっては、ムハンマドこそ全人類・全ジンに遣わされた最後の使徒に他ならず、その事実を信じることがイスラム教の根幹のひとつである[23]。そのため、シャハーダやアザーンには「ムハンマドは神の使徒なり」という文言が含まれる[24]。
ムスリムの中には、律法を伝える使命を啓示されている点で使徒を預言者(ナビー)と区別する、すなわち、使徒は預言者に包括されている、という考え方[25]をする人もいるが、一般には「使徒」と「預言者」は同義であるかのように用いられ、ムハンマドは神の使徒とも預言者とも呼ばれている。
脚注
注釈
- ^ マルコ6章30節。なお、3章14節は、本文批判上、後世の加筆と考えられる。恐らくルカから写されたもの。
- ^ 自由主義神学によれば、ルカは、パウロや他の宣教者を「使徒」とみなしていないとする。使徒言行録14章14節は、パウロとバルナバに言及した箇所で「使徒」と呼んでいるが、これを例外と考える。これはルカが、この箇所を書くために用いていた伝承資料を、引き写したものだと主張し、ルカ文書の使徒観をただちに歴史的事実とすることはできないとする。 イスカリオテのユダ
- ^ 教会の伝統的解釈では、彼を使徒ヨハネと同定する。近代批評学(リベラル)では否定される。
- ^ 「ヨハネによる福音書」にのみ名前の見えるナタナエルは、伝承では同書に言及のないバルトロマイと同一視される。
- ^ 使徒言行録 1章18節参照。死後、使徒ではなくなった時点で言及されている。
- ^ 正教会では崇敬されていない。
出典
- ^ マタイ10章2節
- ^ ヘブライ書3章1節
- ^ 「6.十二使徒たちは誰ですか?」『』。2018年4月6日閲覧。
- ^ ルカ 6章13節
- ^ 使徒言行録 1章20節
- ^ 使徒言行録 1章21節~22節
- ^ 「これを聞いた使徒たち、バルナバとパウロは(使徒14:14)」新改訳聖書
- ^ 第一コリント9:1
- ^ 使徒26:16-20
- ^ 尾山令仁『ローマ教会への手紙』羊群社
- ^ ローマ書 1章1節 他
- ^ 第二ペトロ3:15-16
- ^ マーティン・ロイドジョンズ『教会の権威』みくに書店
- ^ 第1コリント書15章7節
- ^ マルコ 3章14節-19節
- ^ マタイ 10章1節-4節
- ^ ルカ 6章13節-16節
- ^ 使徒言行録 1章13節
- ^ 第1コリント書 15章5節
- ^ ヨハネの黙示録 21章14節
- ^ 使徒言行録 1章21節-26節
- ^ “諸預言者への信仰 - イスラームという宗教”. 2020年2月28日閲覧。
- ^ “全人類への使徒 - イスラームという宗教”. 2020年2月28日閲覧。
- ^ “シャハーダ”. 2020年2月28日閲覧。
- ^ “預言者と使徒の違い”. 2020年2月28日閲覧。
関連項目
- messenger 使徒の事
使徒(しと、コア)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/30 17:05 UTC 版)
「新世紀エヴァンゲリオン 学園堕天録」の記事における「使徒(しと、コア)」の解説
地上を崩壊させ、人類を破滅へと導く最大の脅威とされる者。コア(玉)が実体であり、器として人間などに取り憑くことで肉体を得る。それぞれの使徒には固有の能力があり、それを駆使して監視者と戦う。世界樹を護る役割から逃れたいというのが各使徒の共通の意思であり、そのために協調している。 アラエル カラスに寄生していたが、レイの槍によって倒された。 ラミエル 雷を操る能力を持つ。若い男に寄生し、アラエルのコアを奪回するためシンジたちの前に姿を現す。レイとカヲルに重傷を負わせるが、覚醒したシンジの能力によって深手を負う。その後、若い女性に改めて寄生し再度シンジを襲うが、アスカによって追い込まれたところをカヲルとレイにとどめを刺された。 イスラフェル 使徒たちが監視者の情報を掴めない中、寄生先の人間の妹を通していち早くネルフ学園に目をつけた。黒猫と行動を共にしている。 ゼルエル コンピュータゲームのプログラマー美森に寄生し、ケンスケを通じてネルフ学園中等部にオンラインゲームを流行らせた。そのゲームをプレイした生徒たちが次々に昏睡していく。 シャムシエル 寄生先にツキがなく数度の転移を繰り返し、現在は美森=ゼルエルの妹に寄生中。ゼルエルを力バカと呼ぶ。 レリエル 他の使徒に様々な指示を出しているが、自らは積極的な行動をしていない。 イロウル ゼルエルに「体と居場所」と与えられ、イスラフェルによってネルフ学園のシステム内に送り込まれた。
※この「使徒(しと、コア)」の解説は、「新世紀エヴァンゲリオン 学園堕天録」の解説の一部です。
「使徒(しと、コア)」を含む「新世紀エヴァンゲリオン 学園堕天録」の記事については、「新世紀エヴァンゲリオン 学園堕天録」の概要を参照ください。
使徒
出典:『Wiktionary』 (2021/06/19 02:17 UTC 版)
発音(?)
- し↘と
- し↗と↘
名詞
翻訳
- アイルランド語: aspal (ga) 男性
- アストゥリアス語: apóstol (ast) 男性
- アラビア語: رَسُول (ar) 男性
- アルメニア語: առաքյալ (hy)
- イタリア語: apostolo (it) 男性
- イディッシュ語: אפּאסטאל (yi) 男性
- インドネシア語: rasul (id)
- ヴォラピュク: paostolan (vo)
- 英語: apostle (en)
- オランダ語: apostel (nl) 男性, zendeling (nl) 男性
- カタルーニャ語: apòstol (ca) 男性
- ガリシア語: apóstolo (gl) 男性
- ギリシア語: απόστολος (el) 男性
- グルジア語: მოციქული (ka)
- コーンウォール語: abostol (kw) 男性
- コプト語: ⲁⲡⲟⲥⲧⲟⲗⲟⲥ (cop) 男性
- スウェーデン語: apostel (sv) 通性
- スコットランド・ゲール語: abstol (gd) 男性
- スペイン語: apóstol (es) 男性
- スワヒリ語: mtume (sw)
- ソルブ語:
- タガログ語: alagad (tl)
- 中国語: 使徒 (cmn) (shǐtú)
- ドイツ語: Apostel (de) 男性, Apostelin (de) 女性, Jünger (de) 男性
- トルコ語: havaryun (tr)
- ノルマン語: apôtre (nrf) 男性
- ハンガリー語: apostol (hu)
- フィンランド語: apostoli (fi), lähetyssaarnaaja (fi)
- フランス語: apôtre (fr) 男性, apôtre (fr) 女性, apôtresse (fr) 女性
- フリウリ語: apuestul (fur) 男性
- ブルガリア語: апостол (bg) 男性
- ブルトン語: abostol (br) 男性
- ポーランド語: apostoł (pl) 男性
- ポルトガル語: apóstolo (pt) 男性
- マオリ語: āpotoro (mi)
- マケドニア語: апостол (mk) 男性
- マン島語: ostyl (gv) 男性
- ルクセンブルク語: Apostel (lb) 男性
- ロシア語: апостол (ru) 男性
- ワロン語: apoisse (wa) 男性, apôte (wa) 男性
「使徒」の例文・使い方・用例・文例
- 男性だけの使徒
- しかし、使徒たちはその危険に気付いた。
- 使徒信経.
- キリストの十二使徒.
- 十二使徒
- 使徒行伝
- 使徒の身分
- 使徒パウロまたは彼の教義と関連づけるさま
- 使徒またはその教えの、使徒またはその教えに関する、あるいは、使徒またはその教えに由来する
- あるいは、使徒の後継者とみなされる法王または教皇政治から生まれること、によって命令されること、あるいは、の対象
- 聖パウロからコリントスの教会まで最初の使徒書簡を含んでいる新約聖書
- キリストで世界に対する神の計画と、キリストのこの終焉を説明する聖パウロからエペソ人へ使徒書簡を含む新約聖書
- 新約聖書は、セイント・ジェームズを使徒であると考えた
- 昔から使徒聖ペトロのものとされる第一の新約聖書
- 伝統的に使徒聖ペテロによって書かれたとされる2番目の新約聖書
- 伝統的に使徒聖ヨハネによるとされる最初の新訳聖書の書簡
- 伝統的に使徒聖ヨハネによる二番目の新訳聖書書簡
- 福音書、使徒行伝、パウロの書簡と他の使徒書簡、ヨハネの黙示録の本を集めた物
- 人生における突然の転機(エルサレムからダマスカスまでのクリスチャンの逮捕の路上での使徒パウロの突然の転向と似ている)
- 大きな仕事がヘブライ語とギリシア語からラテン語への聖書(ウルガタ聖書になった)の翻訳であった初期の使徒教会の偉大なファザーのうちの1人
使徒と同じ種類の言葉
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