ビューティ

【ARISAK Labo vol.2】メイクアップインフルエンサー・フゥジと表現する“内なる自分”

フォトアーティスト・ARISAKがファッション&ビューティ業界の多彩なクリエイターと共鳴し、新たなビジュアル表現を追求する連載【ARISAK Labo】。Vol.2となる今回は、メイクアップインフルエンサーのフゥジとコラボレーション。特殊メイクアーティストのAmazing JIROを招き、自身の感情の変化を、合計3ルックを通じて表現した。撮影時間は約16時間にも及んだという作品を通じ、2人が伝えたい思いとは?

フゥジのビューティ・ヒストリー

男女ともに参考にしやすいナチュラルなメイクアップから、奇抜なドラァグクイーンまで、多彩なメイクアップをSNSで発信するフゥジ。しかし最初は、メイクをして外に出ることに抵抗があったと言う。「中学生の頃から眉毛を描き始めて、高校生になって本格的にメイクをするようになりました。最初はカラコンをつけたり、BBクリームを塗るくらいでしたが、それでも外に出るのが恥ずかしくて。人の目を気にするというよりは、完璧主義すぎて自分のメイクが正解なのかわからず、人から見られた時に完璧じゃないと思われるのが怖かったんです」。まだ男性がメイクすることは今ほど浸透していなかった約10年前。なるべくナチュラルに仕上げられるかを追求した経験が、今の彼のスキルにつながっている。

男性でも取り入れやすい自然なメイクで腕を上げた彼だが、今ではカットクリースやウイッグを用いた奇抜な姿でも知られるように。特に、SNSで流行っていた“半顔メイク”に女装メイクを取り入れた時には、大きな反響があった。「誰かに憧れを持っていたというわけではなく、シンプルに女性メイクに好奇心があったんです。当時『ル・ポールのドラァグ・レース』が流行っていたこともあり、少し影響を受けたのかもしれません」とフゥジ。

そんな彼にメイクのこだわりを聞くと、「すごくトレンドを追いかけるというよりは、その日の環境や衣装に合わせて『どんなメイクが合うかな?』とチューニングしていくこと」と語る。実際に最近訪れた「ジェントルモンスター(GENTLE MONSTER)」のイベントでは、アイウエアに合わせて目元にビジューを散りばめた。

常に新たなメイクを発信している彼だが、メイクトレンドは“あまり追いかけない派”だと言う。「SNSが発達してからトレンドも多様化してきていて、ひと口に“トレンド”を語れない時代ですよね。トレンドが他のトレンドと融合してまた新たなトレンドが生まれて……そのサイクルもすごく早いし、『今みんながこのメイクをしている』と言えるものってあまりないようにも感じます」と語る。さまざまなアイデアやSNSでのメイクトレンドを自身のフィルターを通じて昇華するからこそ、オリジナリティーあふれるメイクアップが完成するのだ。

大学時代は京都の大学に通い、アルバイトをしながらメイクアップインフルエンサーとして活動するようになったフゥジ。当時は毎週東京に通い、多忙な生活を送っていたと言う。大学卒業とともに上京し、本格的にインフルエンサー活動をスタートし、現在に至る。そんな中、約2年ほど前にARISAKからDMを受け取ったのが2人の出合いだ。当時のことや、今回の撮影について2人に話を聞いた。

「抑えていた自分が爆発する」
ARISAKとの出合いから撮影まで

WWD:2人の出合いは?

ARISAK:普段から、気になる人には私からDMを送って作品撮りをすることが多いです。2022年の夏頃、私からフゥジくんにDMを送って、実際に会って話してみることに。私にとってのフゥジくんのイメージって、最初は“柔らかくて少しファンシーな空気感を持っている人”という感じだったんですが、色々話していくうちに本当はもっとハードなテイストが好きなんだと知って意気投合しました。

フゥジ:当時、必要以上に気を遣ってしまうこととか、本来やりたいことができず苦い思いをした経験がたくさんあって。色々なことが重なっていた時期だったので、「このままでいたらいつか爆発するんだろうな」と思ってました。そんな時にARISAKさんに出合い、すごく真剣に話を聞いてくれたんです。そして僕もARISAKさんも今までに興味を持ってきたものがとても似ていて、特にクリスティーナ・アギレラ(Christina Aguilera)の「Your Body」というMVの話で盛り上がり。最初はそういった世界観で撮影ができたら、と盛り上がりました。そこから話し合いをするたびにやりたいことがたくさん出てきて、最終的に今回のような撮影に至りました。

全眼カラコンに20cmヒール
16時間に及ぶ撮影に

WWD:撮影にはどれくらいの時間がかかった?

フゥジ:ヘアメイク、衣装チェンジも含めたらおそらく16時間くらい。全ての撮影が終わった頃には、深夜の3時を回っていました。でもARISAKさんをはじめ、特殊メイクのAmazing JIROさんなどプロの方々が集まっている現場でたくさん刺激を受けて、疲れを感じることもありませんでした。コルセットをかなりきつく締めていて、全眼コンタクトをつけいたから視界もぼやけて、20cmヒールを履いて。そんな状態で、動画撮影では回転台に乗ったりしたので結構大変でした(笑)。

WWD:特殊メイクをしたのは今回が初めて?

フゥジ:はい。JIROさんのことは元々知っていたし、「いつか特殊メイクをしてもらいたい」という気持ちはずっとあったので、今回のような機会でご一緒できてとてもうれしいです。撮影の日にはアトリエを見せてくださり、中には僕が見てきた作品もあって「これもJIROさんが手掛けたんだ!」と感動しました。JIROさんのメイクはとても繊細で、もはやアートの領域。エアスプレーで血管を描いたり、ツノを生やしたり。「こんなメイクの仕方があるんだ」という衝撃がたくさんありました。最後のルックはJIROさんの即興アイデアで、“封印”をイメージして赤いペイントを施してくれました。JIROさんの学校に通ってみたいですし、僕が特殊メイクにチャレンジする日も来るかもしれません。

WWD:衣装を手がけたのは?

ARISAK:コスチュームデザイナーの田中優(Yu Tanaka)さんです。他の人には作れないようなユニークなドレスをたくさん作っていて。今回の撮影テーマにもぴったり合っていました。

WWD:撮影全体を通した感想は?

フゥジ:みんな自分が好きなことを貫いてきた、バイタリティー溢れる人が集まった撮影だったので、とても刺激的でした。こんなにも、それぞれの人が一つになって好きを追求している現場ってこれまであまりなかったので、本当に楽しかったです。僕自身、メイクをしている時って人を待たせてしまうことにプレッシャーを感じることがあるのですが、今回の撮影ではみんながクリエイティブに対してストイックに向き合っていたからこそ、そういったプレッシャーをあまり感じずに集中できました。

“Love and hate are the two sides of the coin”
メイクを通じて表現した内なる感情

WWD:今回の撮影のテーマとは?

ARISAK:“Love and hate are the two sides of the coin(=愛と憎しみは表裏一体)”です。フゥジ君との会話の中で、本当に自分が好きなことを表現している自分と、普段の自分、どっちも自分で表裏一体だという話になって。表も裏も自分で、どちらの自分も“本当”。「本当の自分を愛してほしい」みたいなフゥジくんの言葉から、“一刀両断”をテーマに、少しずつ内側の別の姿が現れていくことを表現しました。

フゥジ:当時、自分の中に“2番目の感情”というものがあったんです。「自分がやってみたい、欲しい、されたい」といった気持ちにいつも蓋をして、自分自身をいつも2番手にしている。でもそうだとしたら、「誰が自分自身を1番にしてあげられるのか」と思うようになり、自分を閉じ込めないで出してあげるというルックを作りたいと思いました。1ルック目は一見、普段の僕のようなイメージですが、おでこにヒビが入っていて、そこから目の色が変わったりツノが生えたりして。最後のルックでは鬼をイメージして、自分の好きを全部出せるように意識しました。

ARISAK:彼の経験や思いは、私にも重なる部分がたくさんあったんです。「もし人に見せていない内側の自分を外に出した時、そんな部分も含めて自分のことを愛してくれるのか」みたいなことを考えたことがあって。自分にとっては、自分の内面にある憎しみに近い感情を表現した作品なんだと思います。そして、そういった長い間うまく消化できずにいた思いを、作品を通じて消化できるのはアーティストとして本望です。そしてこういったダークな世界観の撮影は久しぶりだったので、すごく懐かしい気持ちにもなりました。

WWD:作品を通じて伝えたい思いとは?

ARISAK:「自分に正直にいてほしい」「自分が嫌だと思っているなら我慢しないでほしい」ということですね。自分の感情を抑える人って多いと思うし、逆に抑え込まなかったら人が離れていくことって絶対あると思います。それでも、自分の中に気持ちを閉じ込めて苦しくなってしまう時が来る。私自身こんなことを言いながら、我慢して言えないこともたくさんある。それでも、私みたいに作品を通じて表現をするって道もあるので、色々な形で気持ちを消化してほしいです。

フゥジ:今回の3ルックにはそれぞれ異なる自分が表現されていますが、僕は感情を抑えている自分も、モヤモヤしている自分も、感情を爆発させている自分も好きなんです。自分が感情を抑えているのは、他者への配慮でもある。だから僕は、そんな“抑えている自分”も好き。どんな状態であっても、自分の感情を認めてあげることが大事なんじゃないかな。

PROFILE: フゥジ/メイクアップインフルエンサー

フゥジ/メイクアップインフルエンサー
PROFILE: 1997年1月22日、兵庫県生まれ。東京を拠点に活動するメイクアップインフルエンサー。ナチュラルなメンズメイクからドラァグクイーンメイクまで、幅広いメイクをSNSで発信する

BEHIND THE SCENE

DIRECTION & PHOTOS:ARISAK
MODEL & MAKEUP:FUUJI
SPECIAL MAKEUP:AMAZING JIRO
STYLING:YUUKA AKAISHI
HAIR:MIKI
LOGO DESIGN:HIROKIHISAJIMA
SPECIAL THANKS:KOTOHA

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