(でも考えようにも情報が与えられていない・・・)
26日は土用丑の日だった。ウナギの消費量が一年で一番大きい日だ。しかし、日本のテレビや新聞のニュースの見出しには「今年はウナギに異変」「今年は稚魚の不漁で価格が高騰」といった悲観的なものが目立った。
世界一のウナギの消費量を誇り、ヨーロッパからもウナギを輸入して食べ続けている日本。この資源の深刻な現状に目を向けさせる報道かと思いきや、全く期待はずれの内容だった。
ニュースの報道は、今年の稚魚の不漁の原因は産卵場所が南に100kmほど移動したために生まれた仔魚(レプトセファルス)がうまく日本行きの海流に乗れず、フィリピンやインドネシアのほうに流れていってしまった、というものだ。その後には、品薄・割高の国産品を補うために台湾や中国からの輸入が今年は多いこと、そして、わずか数年前には輸入品が敬遠されたこともあったが値段がお手頃であるため消費者が再び輸入品を選ぶようになった、という報道が続く。言ってみれば「今年は稚魚の漁獲が減少したために国産品が品薄だが、輸入が再び増えているから今年もちゃんとウナギが食べられる。良かったね!」というわけだ。自国の消費者をことを一番に考えた、なんと親切で素晴らしいニュースなんでしょう。
しかし、こんな報道は、問題の本質を突いておらず、ニュースの受け手に間違った印象を与えているとしか思えない。たしかに産卵場所が移動したというような自然現象も一つの原因だろう(ただし、ニホンウナギの産卵場所は僅か数年前に判明したことなので、それが今年に限って100km南下した、というのは推測だろう)。また、産卵場所の南下ではなく海流そのものの勢いや流れ方が変化したために、稚魚が日本に達しないということも近年指摘されている。
しかし、それと同じくらい大きな原因があるのではないだろうか?
そもそも、この偏った報道の問題は、ウナギの稚魚が少ないために養殖の生産量が減少したのが、あたかも今年に限ったことだという印象を与えている点だ。しかし、現実にはウナギの稚魚(シラスウナギ)の漁獲量はすでに1980年の時点で、最盛期の漁獲量(200トン前後)の4分の1を下回るようになり、それから早くも10年後には1980年時点の漁獲量のさらに4分の1という非常に低い水準に達し、それから現在まで低迷している。だから「今年はウナギの稚魚が不漁」と言っても、それは昨年の超低水準からさらに減ったということに過ぎない。
朝日新聞(2010年7月1日付)より
では、10年以上前から続くこの低水準の原因は何か、というと稚魚の獲りすぎ、つまり「乱獲」ということになるだろう。ウナギは日本のはるかに南方のグアム島付近の海山で生まれ、海流に乗って日本に流れ着く。そして、川を上って湖や沼に達し、そこに10~20年くらい棲む。その後、再び海に出て、もともと生まれた場所に戻り、産卵をし、一生を終える。
水産総合研究センターの資料より
卵が産み落とされ、新たな仔魚が生まれ、それが再び日本にやってくるためには、成熟した親ウナギがちゃんと産卵場所に戻って産卵できなければならない。しかし、現在では小さな稚魚(シラスウナギ)が日本や台湾、中国近海にたどり着くやいなや、ごっそりと漁獲され、養畜場に入れられ大量の餌を与えられて、わずか1年もしないうちに丸々と肥えて食卓に運ばれる。さて、人間の手を逃れて自然界で成長し、数年後、十数年後にちゃんと南方の海に戻ることができるウナギはどのくらいいるのだろうか? ウナギの稚魚の減少はそれでも、地球環境や海流の変化だけが主な原因だと言い続けるのだろうか?
そもそもウナギの生態についてはまだ分からないことが多い。産卵場所もわずか数年前に特定された。毎年どれだけの量の親ウナギが産卵場所に戻っているのかもデータがない。そうだとしたら、ウナギ枯渇という問題の背景にあると考えられる原因は、一つではなく複数だろう。日本のメディアはそれを多角的にしっかり伝えるべきだろう。NHK・民放とも全くダメだった。
それから、日本近海で減った稚魚の漁獲を補うべく、ヨーロッパから大量のウナギ稚魚が中国経由で日本の市場に入ってきたが、そんなヨーロッパウナギも資源量の激減のために、ワシントン条約で国際取引が規制されることになった(この理由としてももいろいろ挙げられているが、獲りすぎが大きいようだ)。その事実を知っている日本人がどこまでいるのだろうか? ヨーロッパからの輸入量が減ればそれは価格に反映される。日本のメディアは、消費者への影響として価格のことばかりを書くが、実は私たちの食文化が海外の資源の枯渇にも寄与しているという責任を、もっと論じても良いのではないだろうか?
<参考>
ウナギについては、共同通信社の科学担当記者である井田徹治氏が『ウナギ - 地球環境を語る魚』(岩波新書)にまとめています。井田記者には、7月3日に慶應義塾大学で開催したシンポジウムで、パネル・ディスカッションのモデレーターをしていただきました。
26日は土用丑の日だった。ウナギの消費量が一年で一番大きい日だ。しかし、日本のテレビや新聞のニュースの見出しには「今年はウナギに異変」「今年は稚魚の不漁で価格が高騰」といった悲観的なものが目立った。
世界一のウナギの消費量を誇り、ヨーロッパからもウナギを輸入して食べ続けている日本。この資源の深刻な現状に目を向けさせる報道かと思いきや、全く期待はずれの内容だった。
ニュースの報道は、今年の稚魚の不漁の原因は産卵場所が南に100kmほど移動したために生まれた仔魚(レプトセファルス)がうまく日本行きの海流に乗れず、フィリピンやインドネシアのほうに流れていってしまった、というものだ。その後には、品薄・割高の国産品を補うために台湾や中国からの輸入が今年は多いこと、そして、わずか数年前には輸入品が敬遠されたこともあったが値段がお手頃であるため消費者が再び輸入品を選ぶようになった、という報道が続く。言ってみれば「今年は稚魚の漁獲が減少したために国産品が品薄だが、輸入が再び増えているから今年もちゃんとウナギが食べられる。良かったね!」というわけだ。自国の消費者をことを一番に考えた、なんと親切で素晴らしいニュースなんでしょう。
しかし、こんな報道は、問題の本質を突いておらず、ニュースの受け手に間違った印象を与えているとしか思えない。たしかに産卵場所が移動したというような自然現象も一つの原因だろう(ただし、ニホンウナギの産卵場所は僅か数年前に判明したことなので、それが今年に限って100km南下した、というのは推測だろう)。また、産卵場所の南下ではなく海流そのものの勢いや流れ方が変化したために、稚魚が日本に達しないということも近年指摘されている。
しかし、それと同じくらい大きな原因があるのではないだろうか?
そもそも、この偏った報道の問題は、ウナギの稚魚が少ないために養殖の生産量が減少したのが、あたかも今年に限ったことだという印象を与えている点だ。しかし、現実にはウナギの稚魚(シラスウナギ)の漁獲量はすでに1980年の時点で、最盛期の漁獲量(200トン前後)の4分の1を下回るようになり、それから早くも10年後には1980年時点の漁獲量のさらに4分の1という非常に低い水準に達し、それから現在まで低迷している。だから「今年はウナギの稚魚が不漁」と言っても、それは昨年の超低水準からさらに減ったということに過ぎない。
朝日新聞(2010年7月1日付)より
では、10年以上前から続くこの低水準の原因は何か、というと稚魚の獲りすぎ、つまり「乱獲」ということになるだろう。ウナギは日本のはるかに南方のグアム島付近の海山で生まれ、海流に乗って日本に流れ着く。そして、川を上って湖や沼に達し、そこに10~20年くらい棲む。その後、再び海に出て、もともと生まれた場所に戻り、産卵をし、一生を終える。
水産総合研究センターの資料より
卵が産み落とされ、新たな仔魚が生まれ、それが再び日本にやってくるためには、成熟した親ウナギがちゃんと産卵場所に戻って産卵できなければならない。しかし、現在では小さな稚魚(シラスウナギ)が日本や台湾、中国近海にたどり着くやいなや、ごっそりと漁獲され、養畜場に入れられ大量の餌を与えられて、わずか1年もしないうちに丸々と肥えて食卓に運ばれる。さて、人間の手を逃れて自然界で成長し、数年後、十数年後にちゃんと南方の海に戻ることができるウナギはどのくらいいるのだろうか? ウナギの稚魚の減少はそれでも、地球環境や海流の変化だけが主な原因だと言い続けるのだろうか?
そもそもウナギの生態についてはまだ分からないことが多い。産卵場所もわずか数年前に特定された。毎年どれだけの量の親ウナギが産卵場所に戻っているのかもデータがない。そうだとしたら、ウナギ枯渇という問題の背景にあると考えられる原因は、一つではなく複数だろう。日本のメディアはそれを多角的にしっかり伝えるべきだろう。NHK・民放とも全くダメだった。
それから、日本近海で減った稚魚の漁獲を補うべく、ヨーロッパから大量のウナギ稚魚が中国経由で日本の市場に入ってきたが、そんなヨーロッパウナギも資源量の激減のために、ワシントン条約で国際取引が規制されることになった(この理由としてももいろいろ挙げられているが、獲りすぎが大きいようだ)。その事実を知っている日本人がどこまでいるのだろうか? ヨーロッパからの輸入量が減ればそれは価格に反映される。日本のメディアは、消費者への影響として価格のことばかりを書くが、実は私たちの食文化が海外の資源の枯渇にも寄与しているという責任を、もっと論じても良いのではないだろうか?
<参考>
ウナギについては、共同通信社の科学担当記者である井田徹治氏が『ウナギ - 地球環境を語る魚』(岩波新書)にまとめています。井田記者には、7月3日に慶應義塾大学で開催したシンポジウムで、パネル・ディスカッションのモデレーターをしていただきました。