スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

若年者の失業対策のために・・・(2)

2008-03-31 07:54:51 | スウェーデン・その他の経済
では、失業対策のためにスウェーデンではどのような政策が考えられているのだろうか?

まず (a) 失業者自身の能力を高めること。現在の初任給の水準において、なかなか雇ってもらえない若者がいるとすれば、じゃあ、その若者の能力を高めることで限界生産性を向上させ、その給与水準を上回るレベルに持っていってやればよい、という考えだと説明できるであろう。そのため、90年代以降は大学教育の拡大や、高校教育の再チャレンジ、高卒後の労働市場訓練に力をいれ、彼らのエンプロイアビリティー(employability:就業能力)を高める政策が採られてきた。

それから、(b) 試用雇用の期間を設けたり、期限付きの雇用形態を取り入れることで、雇用者が若年者を雇いやすくする制度も導入されている。若年者もこの雇用の間に、経験や職歴を積んだり、人的ネットワークを広げることで、その後の求職活動に生かすことができるし、その職場で認められれば、その後、正規の従業員として雇ってもらえる可能性もある。ちなみに、雇う側はこの制度を繰り返し使うことはできない。

これらの政策がどこまで効果を発揮したのかを計るのは難しいが、大学教育の中でも職業技能養成の性格が強い教育を受けた大学生や労働市場訓練を受けた一部の人たちの就職率はいいという。一方で、若年者の失業率が高いのは実際の職業経験が少ないことが主な原因であるから、教育によっていくら能力を高めたところで企業がどこまで雇おうとするのか、疑問の声もある。他方で、試用雇用や期限付き雇用などの制度は、これらの雇用形態を足がかりにしながら、最終的に正規雇用にたどり着くルートが定着しつつあるようなので、それなりに効果を発揮しているようだ。若年者(25歳以下)の失業率が高いとはいえ、このような形で25-30歳になるまでには多くの人がそれなりに労働市場で自らを確立させているのだと思う。

それから、今後実施される予定の政策として、(c) 若年者を雇った場合、企業負担の社会保険料(pay-roll tax)を半額にする、というものがある。通常、企業は従業員に支払う給与の額の約32%を給与とは別に国に納めることになっている。つまり、企業にかかる従業員の金銭的コストは、給与だけでなくこの部分も合わせたものなのだ。この社会保険料(pay-rolle tax)のうち半分を免除することで、若年者の労働コストを下げ、企業が雇いやすくしようとする政策だ。

ただ、社会保険料の半分免除、とはいえ、免除された部分は国庫から補填される。つまり、若年者の健康保険や年金保険料はちゃんと支払われる、ということ。だから、企業にとっての労働コストを下げたことで、雇われる側にしわ寄せが来ることはない。

と、スウェーデンはこのような形で失業対策を行っているのである。

特に(3)の企業にとっての労働コストは下げるが、それは賃金の切り下げによってではなく、また、雇い主の社会保険料免除によって、そのしわ寄せを雇われる側に押し付けることはしない、という点は大変面白いと思うがどうだろう?

若年者の失業対策のために・・・

2008-03-27 23:45:49 | スウェーデン・その他の経済
スウェーデンの経済が好調であったことを書いてきた。ここ3年ほどを見ても、輸出産業の国際競争力が強く、輸出が拡大し、また伸びる賃金に伴って国内消費も大きく拡大してきた。また、90年代半ば以降の傾向を見ても、90年代初めの経済危機から順調に回復して、他の北欧諸国とともにヨーロッパの中でも優等生と捉えられるようになってきている。

ただ、なかなか解決しない問題も抱えている。その一つが「若年者(25歳以下)の失業」だ。計測の仕方によっていろいろな数値があるが、13-20%くらいだと言われる(例えば、現在勉強中の大学生のどのくらいの部分を潜在的な失業者とカウントするか、などの違い)。好況のおかげでここ2年ほどは若干減少したものの、それでも高水準にとどまっているといわれる。

主な原因は2つ考えられる。
(1) 厳格な雇用保護制度
(2) 初任給が比較的高いこと(言い方を換えれば、年齢間で賃金格差が比較的小さい、とも言える)

雇用保護というのは、解雇を行う際の事前通達期間の長さや、解雇の順番に関する規定。事前通達期間は勤続年数とともに長くなっていくし、「Last in, first out」と言われるように、勤続年数が少ない人ほど優先的に解雇される規定がある。結果としては、後者の規定のために若者が不利を被っているという指摘がある。また、前者の規定のために、中年以上の層の転職率が低く、労働市場の流動化を妨げているといわれる。そうすると、これから労働市場に入ろうとする若者になかなかチャンスが与えられないのではないか、と指摘されている。

しかし、それ以上に問題なのは、厳格な雇用保護制度のために、一度雇ってしまうと下手に解雇できなくなることだろう。雇う側も人選びに慎重になる。好況で人手不足だから、新たに人を雇いたいけれど、誰を選ぼうか…? 若者、それとも30代以上の人?

もう一つの原因としてあげた高水準の初任給のために、若年者の労働コストも、30代・40代の人の労働コストに比べて、そこまで低くない。そうなると、まだ職歴が少なく、企業側にとってリスクが高い若年者を雇うよりも、履歴書によって経験や技能がある程度、判断できる30代以上の人を雇おうか、ということになる。結果として、若年者が労働市場になかなか取り込まれない、という問題が発生しているようだ。

(ただ、厳格な雇用保護制度とはいえ、フランスやスペインなどはさらに厳格な制度を持っているという)

さて、この問題にどう対処していくべきか?

スウェーデンでは、日本のように労働法制を緩くして労働コストの安い非正規(派遣・アルバイト)を多用したり、賃金水準を切り下げることで、働く側に大きなしわ寄せをし、それによって問題解決をはかることは論外と考えられている。

(注:スウェーデンにも非正規の雇用形態はあるが、雇い主は正規・非正規に関係なく、支払う給与に応じて社会保険料を国に納める必要がある。そのため、正規と比べた場合に労働コストが大きく変わるわけではなく、労働コスト圧縮のために非正規を多用するということはない)

では、失業対策のためにスウェーデンではどのような政策が取られているのだろうか?(続く…)

「中国・チベット」がどのように伝えられているのか?(2)

2008-03-25 17:01:15 | コラム
そういえば、スウェーデンのヨンショーピン大学で2001年から修士プログラムを始めたとき、同じクラスのスウェーデン人の学生の中にチベット系の女の子がいた。外見はずいぶん日本人に近かった。親しくなってから話を聞いてみると、1950年代終わりの独立運動が中国に弾圧された際に、両親や親族がチベットを追われ、インドにまず亡命。その後、スウェーデンへ政治難民として移住し、彼女自身はスウェーデン生まれとのことだった。スウェーデンのほか、アメリカにも親類がいるらしい。彼女の父親はスウェーデン移住後もインドへよく“里帰り”をしていると言っていた。

彼女の家族のようなチベット難民はスウェーデンに数百人いると言われている。

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前回、中国について書いたけれど、何も中国をすべて批判的に見るべき、と言いたいのではない。近年の目覚しい経済成長のために多くの人々が貧困から抜け出していることや、この流れの中で先進国も大きな恩恵を受けていること、そして、中国の大規模な投資のおかげでアフリカの貧困国が大きな資本を手にできていることなどは評価できる部分もあるだろう。ただ、それと同時に、それらの背後にある影の部分にもしっかり目を向けるべきだと思う。物事の両面に着目することは、親中・反中だとか左派だの右派だのということに関係なく、物事を判断する上での基本だと思う。

中国の問題点を指摘するスウェーデンでの報道では、「中国」をすべて一括にするのではなく、強権的な一党独裁の政府、民主化を推し進めようとする活動家、政府の手足となってそれを阻止しようとする人々、操作された情報しか知らされない一般の人々、少数民族、・・・などというように、様々な主体をいろいろな角度から描いていているように思う。多角的であり、読んでいて面白い。

興味深いことに、チベットの騒動が本格化して世界的に報じられる前の3月8日、日刊紙Dagens Nyheterはチベット僧に焦点を当てたルポタージュを写真つきで1面に掲載していた。「ダライラマの名は口にすることすら禁止されているが、いくら抑圧があろうと、彼に対する信仰はチベット人の心から消え去ることはない」という内容だった。また、それと前後して、チベットへ鉄道が開通した後のチベット社会の現状を描くルポも掲載され「鉄道開通の恩恵を漢民族を中心とする一部の人が受けている一方で、多くのチベット人が取り残され、貧富の格差の拡大とともに民族間の軋轢も大きくなりつつある」と伝えていた。


チベットの騒動は、始めのうちはジャーナリストや現地に居合わせた旅行客が撮った映像が世界に発信されたものの、中国の警察や軍の厳しい統制のもと、情報が極端に減ってしまった。

スウェーデンの公共テレビの特派員は、厳しい統制にあるチベット近隣の地域で、裏道を辿ったり、隠しカメラを使うなりして、チベット人の状況を伝えようとしていた。また、日刊紙Dagens Nyheterの特派員も、中国政府の統制を受けた中国メディアがどのような偏った報じ方をし、それがいかに中国人(漢民族)の民族意識を煽っているのか、を伝えていた。

中国国内の現状で恐ろしいのは、偏ったわずかな情報しか流れないために、一般の人々は根拠の無いことをいくらでも言え、噂が噂を呼ぶ事態になっていることだろう。閉ざされた社会がいかに危険かがよく分かる(ギョウザ事件でも然り)。

チベットの騒動を受けて、ストックホルムの中国大使館前では小規模ではあったが在スのチベット人などを中心に抗議活動が行われた。また市内の広場でも一般の人々の関心を集めるための集会が開かれた。

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さて、スウェーデンとしてどのような対応をすべきか・・・? オリンピックを使って圧力を掛ける、という手もある。それから、スウェーデンは中国政府の招待を受けて、4月に首相をはじめ環境大臣や産業大臣が訪中することになっているので、この機会を積極的に利用する、もしくは、それをキャンセルするという手もある。(ちなみに、スウェーデンの首相や環境大臣はその足で日本も訪れる予定)

オリンピックのボイコット訪中のキャンセルを要求する声は、既にいくらか上がっている。スポーツと政治を切り離すべき、という主張もあるものの、オリンピックという晴れ舞台は、時の体制にとっては絶好のプロパガンダの機会であり、1936年のベルリン五輪や1980年のモスクワ五輪ではナチス政権や共産党政権に利用されたという見方がよくされている。北京五輪も同じと考えてもいいのではないかと思う。そうであれば、政治的な理由から各国がボイコットという「脅し」を掛けることは、中国政府にとって大きな効果を持つと思う。また、対話が必要という声もあるが、2001年に開催地が決定して以来、7年もの時間が中国政府には与えられていた。なのに約束が守られるどころか、政治的な状況はますます悪化する一方であることを考えれば、もう時間切れではないだろうか・・・?

私がクロアチアの国際機関でインターンシップをしたときに、スウェーデン人の研修生に出会った。彼はクロアチアでのインターンシップの後、旧ユーゴのモンテネグロのEU代表部で働いていた。その彼と、今日は食事をする機会があった。彼がチベット問題に関してはどう考えているのか聞いてみると「対話も重要だと思うが、今回の問題に関してはボイコットもやむを得ない」との見方をしていているとのことだった。「経済が豊かになれば民主化は自ずから達成される、という楽観論があったが、大多数の中国人は、自分たちの置かれた社会状況やチベットの現状など、ほとんど知らされていないし、関心すらあまり無い。国際舞台における中国の振る舞いや今のチベットの状況に対して、他の国々が強く危惧していることを、一般の中国人に知らせるための手段としても、ボイコットは意味を持つのではないかと思う。」との見方だった。
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ともあれ、スウェーデンのオリンピック委員会やスウェーデン政府の内部で、オリンピックのボイコットや訪中キャンセルを主張する声はまだ無い。今後の状況の進展で、どうなっていくのか注目したいと思う。

「中国・チベット」がどのように伝えられているのか?

2008-03-23 08:52:23 | コラム
チベットの僧侶や民衆のデモを、中国政府が治安部隊や軍隊で封じ込めている。ビルマ(ミャンマー)でも昨年秋、僧侶を中心とする大規模なデモがあり、中国の後ろ盾を受けているビルマの軍事政権が武力で抑え込んでしまった。あの時は国連が動き、特使が派遣されたりはしたが、どうも軍事政権の思うままにされ、そのうち国際ニュースの陰に隠れてしまい、うやむやになった感がある。今回のチベットや他の地域におけるチベットの人々の動きも時間と共にうやむやにされるのではないかと気になっている。

スウェーデンでは今回の事件がどのように伝えられているのか、とのご質問を受けたので、私の感じる範囲でまとめてみたい。

日本で判明したギョーザ事件のことは、スウェーデンでは全く伝えられなかった。一方、昨年アメリカで大きな問題になった玩具塗料の毒性毒物の混入したペットフード事件についてはある程度、取り上げられていた。

「中国」というと、スウェーデンではこれまではポジティブな捉え方が大勢を占めていたように思える。未知なる文化と文字に対する羨望、高い成長を遂げる経済への関心、急激に増える中国人観光客の歓迎、優秀な中国人留学生を獲得したいという焦り。さらに、これまで貧しかった人々が急速に所得を上昇させ、購買力をつけているから、この巨大な市場にスウェーデン企業も遅れを取らず参入していくべき、などを含めた、文化面や経済面でのポジティブな捉え方がメディアでは大きく伝えられてきた。

他方で、人権侵害や報道・言論の自由の欠如、といったネガティブな面は、新聞やテレビでも取り上げられてきたものの、ポジティブな報道の影に隠れてきた感じがする。ビルマの軍事政権北朝鮮の独裁政権を中国が支援してきたことや、アフリカ・スーダンのダルフール地方における紛争においても中国が武器・資金供与の形で暗躍していることはスウェーデンでも伝えられている。経済力と政治力を着実に蓄えつつあるこの大国に、どうやら影の部分がたくさんあることはスウェーデンの人々も気づいてはいるのだろうが、とはいっても、長期休暇には中国に旅行に行って文化を味わってみたいし、影といわれる部分もこれから中国が経済発展をさらに遂げるにしたがって、次第に解決されるのではないのか?、それに、以前に比べれば自由な社会になってきたではないか!、という楽観論が強いようにも思える。

これは私の見方に過ぎないが、中国に対する羨望や期待、そして楽観視は、スウェーデン人が従来持ってきたアメリカに対する懐疑心・反感の裏返しではないかと思う。世界の覇権がこれまでアメリカに一極集中し、彼らの思うがままにされてきた。おかしな根拠によってイラク戦争も推し進めてきた。しかし今、そのアメリカが軍事的にも経済的にも覇権的な力を失いつつある。そしてまさに今、興隆しつつあり、アメリカの一極集中を崩そうとしているのが中国なのだ! という注目の仕方。

ただ、残念ながら「敵の敵」が必ずしもいい奴とは限らない。もしかしたらもっと危険な存在かもしれない。アメリカにしろ、ヨーロッパの国々にしろ、植民地化の時代から今にかけて、世界で様々な罪を犯してきたのは確かであろう。しかし、これらの国々が現在は民主主義国であり、言論や報道の自由が保障されている以上、社会を構成する様々な人々・団体・報道の監視の目により(原則として)悪はいずれは暴かれる、という「自浄能力」がシステムの中に組み込まれていると思う。しかし、そうではない中国ではこれが機能しているとは思えない。この危険性が果たしてどこまでスウェーデンにおいて認識されているのか・・・?

とはいえ、オリンピックが近づくにつれ、真面目な日刊紙などは、中国の影の部分にもより強い光を当てるようになって来た。アムネスティ・インターナショナルの情報をもとに、中国において政治犯に仕立て上げられたり、人権侵害を受けたりした人々を毎日一人ずつ取り上げている。殺人事件の犯人に仕立て上げられ、明確な根拠もないまま死刑に処され、あとから真犯人が見つかったという出来事。民主化運動に関するメールを国外のジャーナリストに送ったために逮捕され、行方が分からなくなった人。住民デモと警察の争いの場にたまたま居合わせ、携帯のカメラで現場を撮影したために警察に殴り殺された若者。留置所で看守に暴行を受けて死亡した民主活動家・・・。


一ヶ月にわたり毎日一人ずつ紹介したあと、最後のまとめとして「独裁政権の被害者」という社説を日刊紙Dagens Nyheterが掲載している

オリンピックについても、中国がそもそも開催国に選ばれたことを大きな過ちだったとする意見が強くなりつつあるようだ。開催国を選出する段階で、中国政府が国際オリンピック委員会に約束したのは「大会に向けて民主化や政治的自由の拡大に段階的に取り組んでいく」というものだったが、現実はむしろ逆行している。オリンピックを大成功させ、自国の政治的リーダーシップや国力を世界に見せつけるために、負の要素を徹底的に排除しようとする動きが取られている。また、民主化運動の弾圧や不当な土地収用、出版やインターネットに対する検閲の強化がここ数年、どんどん強まっている。ただ、中国のこのような傾向に対し、オリンピックのボイコットで対処すべきかどうか、については意見が分かれている。

「民主主義を目指す闘争」 これはDagens Nyheterのネット版から


そして、今チベットで大変な事態になっている。
(続く)

フィギュアスケート世界選手権

2008-03-21 20:52:42 | コラム

フィギュアスケート世界選手権が、ここイェーテボリ(ヨーテボリ)のScandinaviumで開かれています。

高橋大輔ショートプログラム(21日)
フリーのほうは残念ながらネット上で公開されず。

浅田真央が金メダル(20日)
インタビュー
ショートプログラム(19日)

開会式(18日)


<スウェーデンの選手>
Adrian Schultheiss(ショート) 解説者をアッと言わせたスウェーデンの星
Adrian Schultheiss(フリー) 彼の最後のパフォーマンスに注目!!!
世界選手権初出場の彼は13位になるが、これからが期待されるとか。

Viktoria Helgesson(ショート)
Viktoria Helgesson(フリー)

Kristoffer Berntsson(ショート)
Kristoffer Berntsson(フリー) 残念ながら彼は思うように実力が出せず

学内セミナーでの発表

2008-03-20 08:17:59 | Yoshiの生活 (mitt liv)
最近は忙しくて、更新が滞っています。

忙しかった理由の一つは、これまで取り掛かってきたプロジェクトの発表が、学部内のセミナーで今日あったから。学内では毎週いろんなテーマのセミナーが開かれ、出席者の数はまちまちなのだけど、今日のセミナーには指導教官のほか、数人の教授や教官、それから研究生仲間が来てくれた。

博士課程の研究生にはたいてい一人の指導教官が付くようなのだけど、私の場合は指導教官を決定する前の段階で二人の教授と研究の相談をしていたところ、そのままこの二人がともに指導教官になってくれることになった。

うち一人はアメリカやノルウェーに頻繁に足を運ぶ忙しい教授。もう一人のほうは「自分はサブ的な指導教官として、論文を読んでコメントする程度ならできる」と言って指導教官の役を引き受けてくれた人だった。この人はあんまり感情を表に出さず、無愛想な感じのする教授で、最初のうちは取っ付きにくい感じがしたのだけど、それから時間が経つにつれ、実は自分のためにいろいろと世話を焼いてくれていることが分かった。むしろこの人のほうが自分のメインの指導教官っぽくなりつつある。交流が始まって今では2年程が経つけど、実は無表情の裏にもとてつもない愛嬌が秘められていたこともだんだん分かってきた。

スウェーデン人のメンタリティーは? と日本の方に尋ねられることがたまにあるけれど、私が思うに、最初はとっつきにくく親しくなるまでに時間はかかるのだけど、そのハードルを越えられればかなり親密になれる、ということじゃないかと思う。これはこの指導教官に限らず、今親しくしている同年代の友人にも大概当てはまると思う。

それからこの数ヶ月は、イギリスのオックスフォード大学帰りの若いスウェーデン人研究者も指導を手伝ってくれるようになった。

最初は30分以内に収めたいとおもっていた今日のプレゼンテーションは、途中で出席者との議論があったりして、1時間を超えてしまった。いろいろと突っ込まれたおかげで、セミナー後はちょっと落ち込んだけれど、上記の若い研究者が会議室を後にする直前に「It looks promissing.」と英語で声を掛けてくれた(英語でのセミナーだったので)。上記の指導教官も後で「Det ser bra ut.」(It looks good.)と声を掛けてくれた。本心からなのか、慰めようとしてくれたのか分からないけれど、こんな一言でも私にとってはとても有難い言葉だった。このタイミングでこの言葉。自分も見習いたいと思う、気遣いだった。


忙しくしているうちに気がつくともう春がやって来た…。と思ったら、ここ数日は寒波のおかげで雪になった。ポカポカと暖かかったおかげでクロッカスなどが早々と花を付けていたのだけど、どうなったのかな?

花瓶の交通公社? 悲劇の交通公社?

2008-03-18 21:01:10 | コラム
バスや路面電車の時刻を調べるときには、Västtrafik(西ヨータ県の地域交通公社)のホームページにアクセスする。

Västとは「西」の意味であり、西ヨータ県やスウェーデン西部のことを指していると思う。それからtrafikはご推測の通り「交通」。
でも、ホームページのアドレスは、ウームラウトを取って
http://www.vasttrafik.se/



しかし、たまにタイプミスをすると、別のページにたどり着くこともある。
http://www.vastrafik.se/

Vasとは「花瓶」の意。そうすれば、写真の意味も少しは理解できるかも。

良心的なのは、このページがちゃんと本物のページにリンクを貼っており、時刻表の検索もできるようにしてあるところ。ただ、誰でも書き込みができる「フォーラム」が併設されているのだけど、ウソのページと知らない人が「バス停に待合小屋を作ってほしい」と交通会社に対する要望・苦情を書いたりしているから笑ってしまった。

こういう遊び心は好きだけどな。

別の日には、こんなページにもたどり着いた
http://www.vasttragik.se/

tragikとは「悲劇」の意。(tragediともいう。発音はtrafikにかなり近い)
それと掛けたジョークのページかと思いきや、公共交通をバリアフリーにして、車椅子の利用者がもっと公共交通を使えるように運動を起こしているまじめなサイトのようだ。

以前に注目を集めたらしく、新聞にも取り上げられているようだ。
http://www.kaustik.com/vasttragik/press.htm

交通公社であるVästtrafikのほうは、このドメイン名を巡って訴訟を2004年に起こしたようだが、勝てなかったらしい。

市民の「鍵による抗議」

2008-03-16 07:46:36 | スウェーデン・その他の社会
スウェーデンにも極右組織がいくつかあり、若者を中心にメンバーを募っている。これは最近の新しい傾向というわけではなく、スウェーデンを不況が襲い、失業率が急激に上昇した90年代前半は今以上に勢力を持っていたようだ。移民・難民の阻止反イスラム、そして国粋主義反ホモセクシャルなどを主張している。武器の違法所持や脅迫、暴行などの犯罪に関わっているメンバーが多いと言われる。(ここ数年、徐々に勢力を増しつつある極右政党・スウェーデン民主党は、これらの団体との関連はない、と自ら表明してはいるが、過去にこれらの団体に関わっていた党メンバーも少なくないとか)

全国的に見ても勢力は大きくないのだけど、各地に支部や支援グループがあり、街中で時折、集会を開いたり、デモを行ったりする。このような団体でも、警察に事前に届出をすれば他の団体と同じようにデモや集会を開くことができる。このような時、たいていはこれまた若者からなる極左グループ“対抗デモ”を行う。両者がぶつかると大混乱になるので、警察は両者の間に入って、隔離しようと頑張っている。本当にごくろうさま。一般市民は、たいてい知らぬ顔をして、近寄らないようにしている。

しかし、ストックホルムから100kmほど南西に位置するニューショーピン(Nyköping)では、ちょっと珍しいことが起きた。

人口27000人ほどのこの町では、最近、毎週土曜日極右団体が町の広場で集会を開いてビラを配ったり、プラカードや横断幕を掲げて行進したりしている。時にはストックホルムなどの他の町からメンバーが応援に来ることもある。数は多くないのだけど、振る舞いや態度、音声で存在感を見せつけている。これに業を煮やしたのは、この町の住民

誰が声をかけて始まったのかは分からないが、住民として見過ごすことはできない、という不満をこの団体メンバーに対して意思表示するために、毎週土曜日になると彼らと同じ広場に集まり、ブーイングの代わりに自分たちが持っている鍵の束をジャラジャラと鳴らす運動が始まった。平和的なこの「鍵による抗議(nykelupprop)」が毎週、少しずつ注目を集めていき、この土曜日は300~400人ほどの一般市民が集まったという。

写真の出展:Dagens Nyheter

この日は最初は静かで、この極右団体のメンバーは姿を見せなかった。しかし、市民が広場を離れようとしたそのとき、横断幕を掲げたデモ隊が広場に行進して来た。いったんはおのおのの家に戻ろうとした市民らは踵を返し、再び広場に集まって、いつもの通り、鍵をジャラジャラと鳴らした。デモ隊はガラス瓶を地面に叩きつけて、周りの人々を威嚇したという。警察はその場に居合わせず、数分後にやっと到着。デモ隊と市民との言葉の応酬が続いたが、デモ隊はまもなく広場を後にし、立ち去っていったという。

集まった一般市民というのは、普通のスウェーデン人のおじいさん、おばあさん、中年の人、若者、子供、そして移民系の人など幅広い人々だったそうだ。自分たちの住むニューショーピンを極右・ネオナチの集会所にしたくない、という願いで一致していた。広場に集まっていた若い夫婦は、この出来事の後、「ニューショーピンの住民として誇りに思う」と新聞のインタビューに答えている。「じゃあ、次の土曜日にまた会おう!」という言葉を残し、人々は家に帰っていった。

スウェーデン、首位の座を奪われる!

2008-03-13 17:44:04 | スウェーデン・その他の経済
何のことかって? 税金の高さのこと。

税金国民所得と比較してどれだけ高いかを見てみると、これまで1位だったスウェーデンが2位に下落したことが分かった、とデンマークのある新聞が伝えている。2007年において、デンマークが48.4%に対し、スウェーデンは47.8%

スウェーデンを時系列に見てみると、この前年2006年の時点ではスウェーデンは49.1%、これが2007年には47.8%に下がり、2008年には47.2%にさらに低下すると見られている。

2006年秋の総選挙以来、新政権である中道右派が段階的な減税を進めてきたが、その効果がマクロの指標にも現れてきた、ということだろう。実際、2006年から2007年にかけての1.3%ポイントの低下は、420億クローナ分の減税に相当するが、このうち400億クローナ分は労働所得に対する所得税が引き下げられたことによるものらしい。

労働所得税減税は今年2008年もさらに行われる予定だ。さらに、これまでこの減税対象となっていなかった年金生活者に対しても減税を行いたい、との方針を政府が示しているので、上に示したように、税金の割合はさらに下がっていくものと見られている。

首相は喜ぶ。「減税というと、たいていは国家財政を不安定にさせ、福祉が削減される、という悪影響を伴うものだ。しかし、今スウェーデンが経験しているのは、それとはまったく逆で、減税が財政黒字増や雇用増とうまく結びつけられていることに注目してほしい。」と語る。

もちろんこれは、首相や政府の見解であり、一方には福祉や社会保険の低下を懸念する声もある。それに、これまでは好景気だったから良かったものの、世界的な景気がこれから下向きになるにつれ、今後予定されている減税が果たしてうまく行えるのかどうかも気になるところ。


<注>
上に示したのは、税金が国民所得と比較してどれだけ高いか、の指標。それに対し、一般に国民負担率といわれるのは、税だけでなく社会保険料も含めたものである。国民負担率はスウェーデンは70%前後のようだ。

スウェーデン高速鉄道計画、ついに

2008-03-11 04:10:58 | スウェーデン・その他の社会
以前、現在の博士課程を始める前に、ヨンショーピン大学の経済学部にてリサーチ・アシスタントとして働いていたことがあった。スウェーデンの様々な公的機関や自治体から経済調査の依頼が経済学部のほうに寄せられるので、情報収集や統計処理などのアシスタントをするのが役目だった。

そのときに取り組んだ調査プロジェクトの一つは「スウェーデン高速鉄道計画」。ストックホルムからヨーテボリの間、それからストックホルムとヘルシンボリの間に高速新線を敷設して、350km出せる高速鉄道を走らせようという計画。そして、さらには、デンマークやドイツまで延伸させ、ヨーロッパ大陸の高速鉄道網と接続させるという壮大なビジョンだ。

この高速新線は、現在、X2000などが走っている幹線鉄道とは別のルートに敷設予定なので、予定される地域の自治体が集まって「推進協議会」を組織している。そして、高速鉄道によってもたらされるであろう経済効果や旅客・通勤量の変化などの調査を、それまでも何回かヨンショーピン大学の経済学部に依頼してきたのであった。

ただ、「推進協議会」はその調査結果をもとに政府に対して働きかけを行うものの、なかなか予算が付くことがなく、数年経つとキャンペーンを再び盛り上げるために、再び大学のほうに同じテーマで調査を依頼してくる、という繰り返しがここ10数年続いたようだ。

私が関わったのは、それらの一連の調査の一つ。沿線の人口や時間短縮効果などを推計モデルに当てはめて、計算したりした。

しかし、いつまで経っても政府の側で、積極的な動きが見られなかった。
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でも、ついに実際の建設に予算が付くことになりそうだ!

第1ステージは、ストックホルムの南の集落Järna(ヤーナ)からLinköping(リンショーピン)の区間と、Göteborg(ヨーテボリ)からその東のBorås(ボロース)までの区間。


計画の全体像は図の通り。Stockholm(ストックホルム)からJönköping(ヨンショーピン)まで線路を引き、そこからさらにGöteborg(ヨーテボリ)とHelsingborg(ヘリシンボリ)のそれぞれに伸ばすというもの。現在、在来線を走るX2000で3時間かかるStockholm-Göteborg間が2時間に短縮され、5時間以上かかるStockholm-Köpenhamn(コペンハーゲン)間は2時間半に短縮されるという。

しかも、スウェーデンとデンマークの間は、2000年に完成した大橋と海底トンネルを使うのではなく、Helsingborg(ヘルシンボリ)とHelsingö(ヘルシンゴー)の間に海底トンネルを新たに建設する予定。

さらに言えば、デンマークからドイツの間は20km近くの海峡があるが(最短距離をとる場合)、ここにも海峡大橋を架ける計画が昨年、実際に動き出したところだ。

ただ、お金のかかる大きな計画のため、スウェーデン国内の部分の全線開通だけでも2025~2030年になりそうだと言われている。

この新線ができると、スウェーデンはストックホルム以南の国内航空路線が鉄道に取って代わられる、と言われる。なので、温暖化対策としての論拠もある。また、ストックホルムやヨーテボリ周辺の市がスムーズに結ばれることで、通勤・通学圏が拡大することも見込まれる。さらに、新線は旅客だけでなく、高速貨物列車にも利用される予定なので、トラック運輸からの鉄道運輸の切り替えが促進されるという期待もある。

気の長いプロジェクトだけれど、なんだか楽しみ。


(X2000の車内LANを使って書き込みをしていますが、画像が重くて、アップできない・・・)

EUの新しい温暖化対策目標 - 訂正と追加

2008-03-09 19:24:23 | スウェーデン・その他の環境政策
EUが今年1月に新しい温暖化対策プログラムを発表したことを、このブログでもお伝えしたけれど、どうやら間違いがあった。
20、20、20・・・ 。EUの新しい温暖化対策 (2008-01-26)

2020年までにEU全体で温暖化ガスの排出量を20%減、というのは、1990年比ではなく2005年比のようだ。(この点は、メディアでも情報が錯綜していたようだ)

さらに、この大枠の中でスウェーデンに課せられた2020年までに17%減、という目標も1990年比ではなく2005年比になる。そのため、1990年比での削減目標はこの数字よりもさらに大きくなる。

つまり、スウェーデンは2005年段階で1990年と比べて7.1%の削減を達成してきた。EUの課した新たな目標は、2005年レベルから17%減なので、1990年比では22.9%減になる。(計算が間違っていたら指摘してください。スウェーデンの新聞の中には、7.1%+17%=24.1%という単純計算をしているものもあったけど、これは明らかに誤りですよね)


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スウェーデンの「温暖化対策準備委員会」では、2020年までに1990年比で38%の削減を行っていくことが国独自の目標として定められることになった。(うち8%分は国外における削減)

EUが課している22.9%減よりもさらに厳しい目標をなぜ自らに課そうとするのか?

それは、おそらく温暖化問題が急を要するという認識が、政策決定者や一般市民の間で幅広く共有されているためであろうし、経済と温暖化対策が両立できうることを先進各国に示したいという、よい意味での「メンツ」があるのだろう。それから、環境技術を国内でさらに発展させて、この部門での国際競争力を高めたいという狙いもあるだろう。

先日、スウェーデンの環境省で政策秘書をやっている昔の同級生とストックホルムで食事をしたけれど、彼が言うには

「2009年のコペンハーゲン会議において排出抑制に向けた合意が世界レベルで達せられるなら、EUは20%減という目標を30%減へとさらに厳しくする用意があるが、そうなった場合に、EU加盟国各国にどう分担させるかはまだ決まっていない。スウェーデンとしては、今よりもさらに厳しい削減目標がEUから課せられてもいいように、独自の取り組みをしておきたいと考えている」

という狙いもあるようだ。

公共交通の重点投資

2008-03-05 17:08:37 | スウェーデン・その他の環境政策
(今週はずっと忙しくしており、頂いたコメントへの返事が滞っていますが、ちゃんと目を通させてもらっています! ありがとうございます)

月曜日の新聞に面白いルポが載っていた。

利用客を大幅に増やすことに成功したスコーネ地方の公共交通の話。(スコーネ地方とは、ヘルシンボリ、マルメ、ルンド、イースタドなどがあるスウェーデン南部の地域)

この地方の公共交通は、人口に対しての利用客の数が全国平均よりもはるかに低かった。ストックホルム地域やヨーテボリ地域などの都市に比べると、4分の1ほどでしかなかった。

しかし、90年代にこの地域の2つの県が1つに統合されるに伴い、この地域全体を統括する新しい地域交通公社(Skånetrafiken)が1999年に誕生。ここから大きな改革が始まった。それまでは県が二つに分かれていたため、県を跨いだ地域全体の公共交通のビジョンが立てにくかった。しかし、この新しい地域交通公社のもとで、その障壁がなくなった。

その結果、地域の各都市を結ぶ電車の利便性の改善に力が注がれ、利用者が大きく増えることになった。さらに、マルメとコペンハーゲン(デンマーク)との間に橋が架かったことによって、電車でそのままコペンハーゲンまで通勤できるようになった。そのため、鉄道の利用客は1999年時点と比べ3倍も増えたという。

上の地図は、2003年からこれまでの利用者の増加を示している。赤は25%以上の増加、青は15-25%の増加、黄色は0-15%までの増加


さらに、町の中における公共交通の利用者増にも力が入れられた。例えば、ヘルシンボリ市などは2本の市内幹線バスを日中は10分おきにし、晩から夜にかけても30分おきに走らせるようにした。それから、バス車両も一新させ、バイオガスによって動くバスを56台新規に購入し、市バスの交通システムが新しくなったことが市民に一目で分かるようにした。その結果、利用客が1年で30%も増えたという。目標は10年で利用者を倍増させることらしい。

公共交通の利用者増のカギは、まず、地域交通公社の努力だ。地域内のそれぞれの市の公共交通をうまくコーディネートし、市を跨ぐ公共交通の利用を容易にする。そして、ゾーン制の料金システムも簡潔にする。さらに、鉄道-バスやバス-バスなどの乗り換えを同じ料金システムによって行う。(それ加えて、お得な定期券制度なども)

しかしそれだけでなく、市の都市計画課が明確なビジョンを持って、その目標を達成しようとしたことも重要なようだ。つまり、市内の道路にバス専用レーンを作って、自家用車よりも公共バスが優先されるようにしたり、市内の密集地域の乗用車の最高速度を大幅に制限したり、駐車料金を高くしたりすることで、自家用車を使うよりも公共交通を使ったほうが利便性が良くなるようにした。

「市内の密集地から自家用車をなるべく外に押しやるような街づくり計画を考えた」とヘルシンボリ市の都市計画課の課長は言っている。また「市民が市内のどこかへ行こうとするときには、“公共交通を使おう”、とまず考えてもらい、それが難しい時に限って、自家用車を使ってもらえるようにしたい。自家用車よりも、歩行者、サイクリスト、公共交通を優先させたい」と説明する。

新しいしバスに乗車する、ヘルシンボリ市都市計画課の公共交通プランナー

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このルポを読んで思ったのは、日本の地方の町でも、地域の政策決定者がしっかりと長期的なビジョンを持って公共交通の促進に取り組めば、マイカーから鉄道・バスへの利用転換を進めていけるのではないか、ということ。

日本での環境税を巡る議論では、「地方ではマイカーが絶対必要だから、ガソリンは安くあるべき」との声も多いけれど、ビジョンのない、場当たり的な街づくり計画の繰り返しで現状を容認してしまうのではなく、到達したい目標をまず決めて、それを達成するためにはどうすべきかを具体的に考えていくやり方が必要ではないかと思う。そのためには、政策決定者のリーダーシップと、市民を巻き込む建設的な議論が欠かせないと思う。

ヨーテボリ市議会 - 子連れ議員・若手議員

2008-03-03 09:17:03 | スウェーデン・その他の政治
ヨーテボリ市市議会を見学したが、市議会において多数を構成する社民党+環境党と、それ以外の党との論戦がなかなか面白かった。

議会で論議したいテーマについてはあらかじめ提出されている。まず、その提出者(多くの場合、野党側)がその主張を述べた後は、どの議員でも議論に参加できる。発言したい者は机上のボタンを押す。早い者勝ち。ボタンを押した順番に議場前の大きなスクリーンに議員の名前と所属政党が表示される。一人ひとりの発言は3分以内でなければならないが、一つの議題を議論する制限時間は無いようだ。何人もが何度も発言するので、いつまでも続く。順番待ちの発言者があと3人、あと2人と減っていくと思ったら、急に議論が白熱しはじめ、5人くらいが一斉にボタンを押して、順番待ちが再び膨れ上がることもある。興味ないテーマのときは聞いている側はかなりシンドイ。

前回の記事から分かるように、女性議員の割合も多いし、20代や30代の議員も多い乳児を議場に連れてきて、論議に参加している30代の女性も見かけた(社民党のAnna Johansson議員。前回の記事参照)。


子連れの議員

子供がたまに泣き出すと議場にそっと出て行く。他の議員も議場へ盛んに出入りしているので、見ている側は特に気にならない(市議会は17:15スタートなので、ちょうど夕食時でお腹がすく。一方で議会のほうは休憩なし。なので、各自適当に時間を見つけて議会食堂で何か食べているのだと思う)。この彼女は自分の発言の番になると席に戻ってくる。発言の時は最初は子供を抱えながらだったが、そのうち主張に力がこもってくると、子供を隣の席の男性議員に預けて、発言を続けていた。その間、男性議員が「ヨシヨシ」と子供をあやしている光景が、とても和やかで他の議員にも傍聴席の市民にもほのぼのとした笑いを与えた。

子供をあやす男性議員。発言中の女性議員が隣にいるが、ランプの影になっている


一番白熱した論戦は、25歳のAxel Darvik(自由党:野党)が、市執行部議長(市長)である63歳のGöran Johansson(社民党:与党)に食いかかって、善戦していたときのこと。議題は「未成年の暴力事件」について。件数の増加を懸念し、「市としてもっと予防措置をすべきだ」と主張するAxel Darvikに対して、「市もできることはしている。それに統計によれば増加はしていない」と防戦する市長のGöran Johansson。


Axel Darvik(25歳) 対 Göran Johansson(63歳)

その日は、2007年のヨーテボリ市統計年鑑が全議員と傍聴者に配布されていたので、市長はそれを片手に反論する。それに対し「この統計は物事のある一面しか捉えていない。それに増えたか増えてないかが問題ではなく、そのレベルが問題なのだ」と盛んに突っ込みを入れる。

最初のうちは、Axel Darvik(若いほう)も「市執行部議長であるGöran Johanssonに見解を求めたい」と姓名で呼んでいたのだが、そのうち「Göran(ヨーラン)、その意見には俺は賛成できないぞ」と下の名前で呼びだす(いくら年の差はあれ、このこと自体はスウェーデンでは別に珍しいことではない)。それに対し、Göran Johansson(年配のほう)も「Axel(アクセル)よ! お前は現実ももっとよく見なきゃならん!」と、まるで祖父が孫をたしなめようとするような口調で反論していた。議論の内容から判断すれば、この論戦では若いAxelに軍配を上げたい、と私は思った。


反論する市執行部議長(市長)Göran Johansson

ちなみに、このAxel Darvik(アクセル・ダルヴィーク)。2006年9月の選挙でヨーテボリ市の市会議員となったときは24歳で、地元の工科大学の大学生だったのだが、実はその前には、国会議員をしていたのだ。

小さいときから政治や社会問題に関心があり、活発に活動していた彼は、2002年の総選挙で自由党の立候補者名簿に名を連ね、20歳にして自由党の国会議員に選出される(この選挙では自由党が大躍進を遂げたため)。その後、任期の4年間に、学生や若者に関する問題を国会や委員会で積極的に取り上げ、若いなりに活躍したのだった。

議員職はあくまでも社会奉仕(2006-07-05)


国会にしろ、地方議会にしろ、幅広い年齢層の議員がそれぞれの立場から、政治に参加をしている。たとえ若かろうが、一人前に扱ってもらえ、自分で経験を積んでいける。(ナントカ・チルドレンなんて呼ばれる必要もない)

早いうちから訓練を重ねて、若くして成熟した政治家がちゃんと生まれ、これが政治や社会的議論に活力を生み出している要素の一つではないかと思う。