Ｙ　「学問の入口」は、学問の面白さを伝えようという趣旨の人気フェアだそうですが、今回は「LIVE 東大人気講義」というキャッチがついてますね。

それは「熱血」にして「純情」な勉強会

澤畑　3・4・5月は、入学者と、「新しく学問を始めよう」という方がいらっしゃいますので、毎年「学問の入口」フェアを開催しています。特に今回は、東大の教科書や講義録を集めたのですが、こちらの新刊（『高校生のための東大授業ライブ 熱血編』と『高校生のための東大授業ライブ 純情編』）が刊行されたので、フェアをそれにあわせたというところですね。

澤畑　これらは教科書・参考書ではなく、高校生を対象に行われた東大の授業をベースにしたものです。

Ｙ　「地球温暖化問題とはどんな問題か」「『星の王子さま』と外国語の世界」「モバイル・メディアと意味のエコロジー」「韓国の社会と教育制度」……いや、すごいですね。これをいまどきの高校生は東京大学の現役の先生から、授業として受けられるんですか。うらやましい！

澤畑　毎週金曜日に東大が「高校生のための金曜特別講座」という講座を開いているんです。参加者は高校生が中心ですけれども、どなたでも参加できるので、熱心に通ってくださる社会人の方も多いです。

Ｙ　なんと、社会人も参加できるんですか。17時30分開講というのがちょっと厳しいけれど、これはいいですね。リンク先からぜひ講義予定を見ていただきたいのですが、哲学、文学、歴史、地理から生物、物理、数学などなど、すごいバラエティ。

澤畑　大学生ならばシラバスを通して、大学でどんな授業があるのかわかりますけど、そうでなければなかなか知る機会がない。でも東大に限りませんが、大学の授業はとても面白いものが多いんですよ。

Ｙ　今回のフェアは、書籍を通してそれをお伝えしよう、ということなんでしょうね。

授業中に村上春樹がマジでやってくる

澤畑　そうなんです。実際に東大で授業をされている／されていた先生方の書籍を通して、その内容や雰囲気をお伝えすることができたら、というのがこの企画の狙いです。たとえば新書館の『翻訳教室』がいい例で、これは、東大の授業をベースにして、柴田元幸先生と学生のやりとりを本にしたものです。そして、授業の最中にいきなり村上春樹さんが登場したりして。

Ｙ　うわぁ（笑）。

澤畑　まあ、それはちょっとレアなケースでしょうが、そういった、東大の授業の面白さを体感できるような本を広く集めよう、というのがフェアのコンセプトです。

Ｙ　個人としてうれしいのは、東京大学出版会に限らず、いろいろな出版社の本がリストに並んでいることですね。

澤畑　そうですね。東大出版会の本はもちろんですが、いずれも東大の授業にゆかりのある、東大の授業を体感できる本をセレクトしたつもりです。

Ｙ　繰り返しになりますけれど、大学の授業って本当になんでもやってますよね。今回出てくる本のタイトルを斜め読みしても、心理学、近現代史に、安全保障に、美術に、『赤毛のアン』、科学、建築、論理に、翻訳、政治、経済学に、構造デザイン、遺伝子、天文学と、いやはや、本当に幅広いです（笑）。

澤畑　わたし自身も、選書の過程で初めて「これは面白そうだな」と思って読んだ本が何冊もあります。いろいろ興味の幅が広がって、選書をしてよかったなって思います。

「とっつきがよくて、読みやすくて、面白い」10冊を

Ｙ　わかりました。じゃあ、日経ビジネスオンラインの学びたがっている読者さんに、面白さを伝えるように頑張りましょう。

　…で、今回は、東大のシラバスを読み込んでセレクトされた澤畑さんご自身に、なかなか時間が取れないビジネスパーソンのために「とっつきがよくて、読みやすくて、面白い」本を10冊、選んでいただきました。

澤畑　個人的な好き嫌いはもちろんあるでしょうが、以下は、わたし自身が実際に読んできた本ばかりですので、ある程度の自信を持っておすすめできます。

Ｙ　で、まず取り出された本は……

Ｙ　ずいぶん使い込まれて、ああ、澤畑さんの私物なんですね。

澤畑　そうです。大学で哲学を専攻するきっかけになった本です。これも授業で出会いました。

Ｙ　『論理学』（野矢茂樹）。

澤畑　自宅から持ってきたんですけど、何回も読んだ本で、たくさん書き込みもしてあります。

Ｙ　いつお読みになったんでしたっけ。

澤畑　これは大学1年の、かれこれ12年前になりますか……

Ｙ　すると澤畑さんはいま31歳ですか、若い！　その年で哲学というのも、よほど面白そうに見えたからなんでしょうね。

澤畑　野矢先生の授業は本当に面白くて、こちらも思わず考えさせられてしまうところがあります。それどころか、ご自身も考えるんですよ、その場で。授業ではどんな質問もウエルカム、知的好奇心が刺激されました。

Ｙ　なるほど。ひとつ具体例をお願いします。

澤畑　たとえば、最初の授業で先生が黒板にこう書くんです。「この文は『偽』である」と。

Ｙ　あれ、「偽」だったらこの文は正しいことになりますね。

澤畑　そうなんです。でも、正しいとすると偽であるから、正しくはなくなってしまう。

Ｙ　ぐるぐると。

澤畑　こういうシンプルな謎掛けから始まる、とても頭を使う授業でした。論理学はすべての学問の土台でもありますので、喰らいついてみる価値ありではないかと。

Ｙ　なるほど。本のレベルとしてはいかがですか。

「論理」を学問として学ぶか、スキルとしてトレーニングするか？

澤畑　初学者にとって一番いい論理学の教科書だといまでも思っています。これは対話形式で書かれていて、野矢先生ご自身と、初学者の代表として「無門」と「道元」という禅僧が登場します。禅問答ではないですけど、疑問をぶつけあったりするようすを読みながら、彼らといっしょに成長できる本なんですね。偉い先生が上から一方的に教えるスタイルではなく、初学者と一緒に一から、土台から勉強していこうというスタイルです。

Ｙ　ぱらぱらっと見ただけでも、すごく読みやすく作っているのがわかりますね。

澤畑　ええ。とはいっても、終わりの方までいくとかなりレベルの高い話になりますが。

Ｙ　あっ本当だ、数式が出てくるぞ。

澤畑　論理式も扱っていますので、もしアレルギーがあるという方でしたら、こちらの野矢先生の本がおすすめです。

Ｙ　『論理トレーニング〔新版〕』。

澤畑　先ほどの論理「学」に対して、こちらは論理「トレーニング」です。ロジカル・シンキング的な要素もあります。人を説得するための技術を養うためにも使える本ですね。ビジネス上のプレゼンテーションやロー・スクール受験にも役立つと思います。

Ｙ　より実用的というわけですね。

澤畑　仕事をされている方には、こちらの方がとっつきやすいはずです。『論理学』は、まったくの初学者でも十分対応できるものですけど、先ほど見たように、論理式なども出てきますので。

Ｙ　ちょっとびびるところはありますね、正直。

澤畑　でもこれが途中から快感に変わってくるんです。パズルみたいな感じで。

Ｙ　へえ。

澤畑　噛んでも味の出る本です。さて、次はどれにしましょう。ちなみにYさんは結構本を読まれますか？

Ｙ　数は読みますね。ただ、何冊も併読して、いつの間にか読み切らずにフェイドアウト、みたいな感じになる本がわんわん増えています。

澤畑　どんな本を読まれるんですか？

Ｙ　ちょうどいま、「村上春樹長編最初から読もうキャンペーン」中で、『ノルウェイの森』を間もなく読み終わるところです。

澤畑　お、わたしはいまこれを持っているんですよ。

Ｙ　あ、『ねじまき鳥』（『ねじまき鳥クロニクル』）。

澤畑　じゃあちょうどいいので（笑）、そこから入っていいでしょうか。去年『1Q84』が出たじゃないですか。

Ｙ　出ましたね。ただいま第三巻『BOOK 3』が大ヒット中。

澤畑　お恥ずかしい話ですが、わたしはそれまで村上春樹をまったく読んだことがなくて。