間もなく3年ぶりのニュー・アルバム『Velvet Velvet』をリリースする、カーネーションの直枝政広さんに、新作について、そしてその新作に先駆けた「さみだれ」のHQD配信について語って頂いた。『Velvet Velvet』の詳細についてはリリースの際にまたお伝え出来るはずなので、あまりここで僕が多くを話すべきではないと思っている。ただ一言だけ。このカーネーションというバンドの『EDO RIVER』という作品と出会ってから15年が経った今、再びこのバンドの新作に興奮させられているという事実に、僕は胸を震わせている。
インタビュー&文 : 渡辺裕也
INTERVIEW
—まず、アルバム1曲目にしてタイトル・トラックの「Velvet Velvet」について聞かせてください。一気に視界が開けていくような、バンドが新しい展開に突入したのを告げるような鮮烈なオープニング・ナンバーですね。
まだ歌が乗っていない状態の時から突き抜けている感じがこの曲にはありました。歌の譜割が少なめなので、日本語を乗せるのがすごく難しいんですよ。そこでかなり根を詰めて詞を書いていったら、広大な精神世界というか、大きなイメージの曲になって。非常に深遠な始まりになりましたね。かなりオープニングっぽい曲だよね。序章というか、走り抜ける感じだよね。
—このタイトルにはどういう思いが込められているのですか?
曲の中から探り当てたイメージですね。広大なインナー・スペース、暗闇を突き破って星空のもとに辿り着くようなイメージです。サウンド自体が何か目的を持って生まれてきたものだと思うので、その中にもう1度入り込んでいって、歌詞を練り上げるんです。そこでよりその世界を大きく、はっきりした形にするためにもがき回った結果、最終地点がここだったというか。夜のトンネルを抜けたら、この世界が目の前にバッと広がっていました。だから序章には本当にぴったりだった。
—直枝さんと大田さんの2人の編成になってから初めてのアルバムなのですが、その辺りも作品を作るに当たって影響はありましたか?
気持ちとしては、昨年末に「ジェイソン」をライヴでやり始めた頃から、もう開き直っていたね。もうこれでやっていこうと。矢部君の脱退もあって、去年の夏辺りから何ヶ月か精神的に厳しい時期があったんだけれど、カーネーションを続けていく事には最初から何の迷いもなかったので、これからのカーネーションをどうしていくかを考えていくのは楽しみでもありました。そこで、矢部君のおすすめもあって、中原由貴さん(タマコウォルズ)をサポートに迎えてライヴ活動を再開したんです。やっぱりライヴありきだから、どうなっても僕達二人はライヴをやっていくんです。
—作品の青写真も、ライヴを続けながら出来上がってきたものなのですか?
そういう曲もあります。「Willow in Space」は昨年末から真っ先に披露していたし、もちろん「ジェイソン」もそう。2008年正月の段階でメンバーに聴かせていた曲もこの作品の中には入っているんですけど、それからいろんな事があったから大田くんも曲を忘れていたみたいで、今回の制作にあたって改めて取り組み始めた感じですね。ある意味僕が精神的な鉄砲玉みたいなところもあって、どんどんアイデアを投げていく中で大田君が楽しそうにやっていたら、もう問題はないなと。まず僕がデモ・テープを作り込んでからみんなに提示するというのが、僕らの基本的なやり方なんですけど、それはあくまでもガイドであって、一旦スタジオに入ったら、もうデモ・テープ通りにはやらないでくれと言っています。各々のセンスでもう一度曲に向き合ってもらう。今回も参加メンバー全員がその時のフィーリングで演奏してくれればいいと思っていました。「メンバーを選んで誘う=アレンジ」だと思っていますから。その場での思いつきや気持ちの高まりを残したい。だから今回はセッション的なものになったし、「この悲しみ」と「Songbook」で参加してくれたドラマーの宮田繁男君(ex ORIGINAL LOVE)も、ちょっとみんなで音を出しただけなのに「バンドっていいよねぇ」と言ってくれた。始めからもうバンドになったんだよね。僕らの気持ちが最初からそうなっているから。非常にラフな状況の中でポイントを見定めていくやり方というか、よりフィーリングが重視されるようになってきたね。「あなたを呼んで、ここに来てくれたらもうこの作品は完成しているんです」という事をみんなに伝えながらやってきたから。今回もそんなに時間はなかったし、「とにかくスピーディに」「絶対止まらない、考え込まない」という事をポリシーにやっているから、作業は早いんです。そこでびびるような人は呼んでいないから。そこも想像力だよね。自分の勘を信じて誘っているからね。スタジオも暗い雰囲気にはまったくならない。
—先程すごく晴れやかな作品だとお話しましたけど、その一方で今回の作品の中には<悲しみ>あるいは<雨><空>という言葉が数多く現れてきますよね。
今回、僕は作詞家として作品の中に入り込んでいった時期があるんですけど、イメージに引っ張られて出てきた言葉がたくさんある中で、歌にジャストにはまったものには自分でも納得させられる力があるんですよ。すごく不思議な体験ではあるんですけど、そうじゃないと自分がOKを出せませんからね。あとは「それは自分なのか、誰なのか」という事も問題になります。どこかに住んでいる誰かについて書いているのかもしれないし。曲の力を借りて旅に出ているような感覚もいくらかありました。逆に私小説のように「私」にどれだけなり切れるかというのも重要だし、かと言ってそれだけでも面白くないので、ランディ・ニューマンのように、別のキャラクターを借りて物語を作っているような感覚もありました。最後の「遠い空 響く声」なんかは特にそう。これはスタジオで色彩的、風景的なイメージを伝えながら直感で作り上げていって、その後にそのイメージ通りの詞を書き上げた。この曲は親が子供に残す言葉だったり、その親が子供の頃の話だったり、そういった心象風景が交差していく中で、「時間」を感じるような世界が描けて、超納得がいきましたね(笑)。
—その作詞家として挑戦していく姿勢は、今までにはなかったものなのでしょうか?
もちろん今までもずっとそういう感じでやってきていたんですけど、自分の気持ちがうまく描けるようになってきたのは、92年か94年辺りからだと思います。それも時間をかけてゆっくりと今の状態になってきた感じですね。ジャッジの基準は上がってきていますよ。曲が出来たらその場ですぐに思いついた言葉を乗せる面白さももちろんあるけど、敢えて一度曲から離れてじっくりと考えながらそこに乗せていくという挑戦も歌には必要だと思う。言葉の強度を高めていく作業だね。
—高音質配信についても伺わせてください。直枝さんは作り手としてもリスナーとしてもたくさんのメディアと直に接してきていますよね。音楽の受け取られ方の変遷も実感なさっていると思うのですが、現在の配信や音質面に関してはどうお感じになっているのでしょうか?
音質に関して単純に考えてみれば磁気のアナログ・テープだね。カセットやオープン・リールのテープ。それがメディアとして最高のものだと思っている。昔アナログ・レコードと同時に出ていたオープン・リールのミュージック・テープというものがあるんですよ。例えば昔は30センチのLPとオープン・リールがどちらも必ず売っていて、そのどちらを買ってもよかったんです。でも確実に磁気の方がよくて。いや、僕は確実にそっちの方が好きでね。
—どういうところに惹かれるんですか?
もう音の深さが全然違うんだよ。それは経験しないとわからないことだけど。そこで配信の話だけど、それはそれでいいと思っている。僕はアナログ盤も最高だと思っているし、CDだってすごくいいと思っている。でも、僕らがスタジオの中で感じている音をそのままダイレクトに聴きたいと思っている人も確実にいるはずだから、今回の高音質配信は最高だと思っています。僕らが聴いているものに限りなく近い状態を確かめたいという気持ちは、僕がオープン・リールのミュージック・テープの音を聴きたいという気持ちと同じだと思う。そういう気持ちのリスナーは確実にいるはずだしね。それは最高の楽しみ方だと思う。
—音質に対する価値観はミュージシャンである以上各々が持って然るべきものだと思います。その一方で音楽の聴き方もリスナーの数だけ様々ありますよね。例えば携帯の着うたのみで音楽を享受している人に対してはどう思われますか?
何も思いません。その人の好きなように聴けばいいし、選べばいい。いくら小さなスピーカーで聴かれようが、作品が良くなければいけないんだよね。作品の強さが重要。僕らが注意しなければならないのは、最終的な音質、音響の説得力であって、それを求めなければならない。その小さなスピーカーで聴いているみなさんのために僕らが基準を下げていく事はないです。その代わり、いろんなレンジで聴いてもらっても大丈夫なように作るのがプロだと思うんです。今後PCのメディアを中心に考えていくことになると、いろんなチャンスもあるわけじゃない? 今、WAVファイルが聴けるようになったり、ipodもそれに対応するようになったりね。そういうチャンスがあるんだったら、体験してみたらいいし、そのためのツールの入口ですよね。それが出来る以上、僕らはどんどんチャレンジしてきたいし、だからといって「全員こっちに来い」なんてことを僕は言いませんよ。ただ、チャンスは作っていかないと面白くないからね。一方で僕の曲は原始的なテープ・レコーダーの「ガッチャン! 」で録音するところから始まっている。つまりなにをやるにも大事なのは説得力ですよ(笑)。僕らが「これが強い」と思う事をちゃんと続けていければいい訳で、「あれはだめ、これはだめ」なんてことは言いたくない。そこで今回、今までMP3配信が一般化していた中で、よりよいものが出てきたんだから、それは本当にいいと思うよ。
—直枝さん自身は、現在どのように音楽を聴いて楽しんでいらっしゃるのですか?
ipodでも聴くし、家でレコードやオープン・リールをかける事もあるし、CDも専用の別のスピーカーで楽しんでいます。未だに昔のミュージック・カセットを探しているし、8トラックでも常に聴けるようにしている。あらゆるチャレンジをしていますよ。バカだよね(笑)。未だに8トラを持っていたり、ポール・マッカートニーの1stのオープン・リールを大事にしていたりさ、本当におかしいと思うよ(笑)。だって8トラまでも愛せるんだよ? あれ本当に1番音が悪いメディアだと思うし、すぐ壊れるんだけど、それすらも愛してるんだよ。例えばここでテープ・レコーダーを「ガッチャン」と回して録った会話の音質ですら、僕は愛せるんだよね。録音とか音響の世界って、本当に素晴らしいと思うんだよね。昔のSP盤をただCDに移したクラシックの音源とかもね、それがSPで聴かなければいけないなんて思わないんだ。そうじゃなくて、それがCDに移植したものだとしても、僕は最高の旅が出来るし、そこに本物のSP盤があるなら、もちろんそれも最高だしね。音響を伝えるためのメディアについては何のこだわりも僕はないな。この前も最高の音を鳴らすために何千万もお金がかかったオーディオがある場所に行って、ビートルズとかを聴いてきたんですけど、それはもちろん凄いんですよ。でも、ジャンク屋で拾ってきたオーディオを組み合わせて、いろいろと工夫していい音を作るのも同じく最高なんだよ。この前もジャンク屋でナカミチのカセット・デッキを2000円で買ったんだけどね。2000円のジャンク品だよ? でもこれが最高の音がするんだよ。そういうこと。いい音ってどこにでもあるんだよ。何でも自分が興奮する音に工夫しなきゃ。今まで出てきたメディアそれぞれに面白さがあるから、「これはない」なんて思った事はなかったよ。でも、僕はこんな事を今まで話しましたけど、所謂機材オタクかというとそうではないんです。貸スタジオとかもあまり好きじゃないし。
—(笑)。なんでですか?
だって変な機材がいっぱいあるじゃない? キーボード・スタンドとかさ(笑)。思い入れの持ち方が人と少し違うんだよ。この前も壊れた8チャンネルのMTRをオークションで買って、修理に出して、結局使えるようにはならなかったんだけど、そういうのはOKなんだよね(笑)。僕が触るといい音がなるような気がしてさ。でもスタジオのそういう機材とかはさ、個性がないじゃん。みんなが同じものを使うしさ。それがちょっと気持ち悪いんだよね。とにかくキーボード・スタンドだけはもう我慢ならないよ。だって、あれダサいと思わない? 足をクロスさせたりしててさ(笑)。もうそれは感覚的なものだけどさ。だから、所謂機能性を重視したものが一番苦手かもしれない。足をクロスさせてキーボードを支える、みたいな発想が許せないんだよ。そこにあるパイプ椅子なんかもすごく気になるんだよ。なんか大人の考えが入ってるような気がしてね(笑)。こんな変なバンド・マスターがいるから、回りの人達は困っちゃうんだけどね(笑)。
—(笑)。つまり音響というメディアにはある種の無邪気さがあるからいいんですね。
そう。だからひとつの作品をいろんなメディアで聴きたいという欲求が生まれるんだよ。だから今回の配信だって僕がカセットにダビングしたものを売ったっていいんだと思う。僕が納得のいくリミッターがかかってさえいれば、それだってばっちりだよね。「このアルバムはカセット盤で聴くのが最高だよ」って言う人もきっといるはずだからさ。今回もやっていいのなら、アナログ盤も出したいよ。でも、そんな事ばかり言ってるとスタッフが泣いちゃうからね(笑)。
カーネーション、3年ぶりのニュー・アルバムをリリース!
NEW ALBUM 『Velvet Velvet』
2009年11月25日(水)発売
発売元 : P-VINE RECORDS / Cosmic Sea Records
販売元:バウンディ株式会社
【収録曲】
1. Velvet Velvet
2. さみだれ
3. 田園通信
4. Annie
5. この悲しみ
6. Willow in Space
7. ジェイソン
8. For Your Love
9. 砂丘にて
10. Songbook
11. Dream is Over
12. 遠い空 響く声
PROFILE
カーネーション
1983年12月耳鼻咽喉科を前身にカーネーション結成。当時からのオリジナル・メンバーは、直枝ひとり。 1984年シングル「夜の煙突」(ナゴム)でレコード・デビュー。以降、数度のメンバー・チェンジを経ながら、時流に消費されることなく、数多くの傑作アルバムをリリース。練りに練られた楽曲、人生の哀楽を鋭く綴った歌詞、演奏力抜群のアンサンブル、圧倒的な歌唱、レコード・ジャンキーとしての博覧強記ぶりなど、その存在意義はあまりに大きい。2008年に結成25周年を迎え、2009年1月、ドラマー矢部浩志が脱退。現メンバーは、直枝政広(Vo.G)と大田譲(B)の2人 に、サポート・ドラマー中原由貴(タマコウォルズ)を迎えて活動している。
カーネーション web :http://www.carnation-web.com/
『CARNATION tour 2009 "Velvet Velvet"』
12/11(金)@大阪 Shangri-La
open19:00 start19:30
前売り¥4,500 +ドリンク代
12/12(土)@京都 拾得
OPEN:17:30 START:19:00
前売り¥4,500 +ドリンク代
12/23(水・祝)@東京 渋谷O-WEST
OPEN:18:00 START:19:00
前売り¥4,500 +ドリンク代
ツアー・サポート
Drums:中原由貴(タマコウォルズ) / Keyboards:渡辺シュンスケ