地道な練習を続けていると、ある日を境にどんと筋肉がついたりする。音楽家にもそんなことがあるようで、シンガー・ソングライターの柴田淳の音楽は今年、一気に力をつけた。 シングル「愛をする人」、アルバム「親愛なる君へ」(いずれもビクター)の発表、東京国際フォーラムをはじめとする大コンサート……。そういった目に見える成功はもとより、音楽的変化が著しい。 「昨年まで『私はただの人』だった。今年になって『私はシンガー・ソングライター』と言えるようになった」 柴田は自信をつけ、そう語った。 これまでは、仕事のたびに落ち込んでいくタイプだった。 「この1年もプレッシャーと苦悩の中にいました。その中にこそ居場所がある、と見えてきたんです」 薄い霧がかかったようなはかなげな声と、静かで憂いに満ちたメロディーはそのままに、人に共通する悲しみを的確に描写できるようになった柴田。騒々しい時代に求められる音楽である。