最も多く漫画化されたミステリのキャラクターとも 呼べる、シャーロック・ホームズ。 90年代半ばにはホームズ漫画のブームが生じている。 「多様なホームズ・コミカライズ」 1970年代後期の〈TOMOコミックス 名作ミステリー〉は画期的なシリーズだったが、翻訳ミステリの漫画化を広めるには至らなかった。しかし(前講までに触れた)わたなべまさこや花村えい子の諸作からも解るように、主に女性向けの漫画誌において、ロマンティック・ミステリには安定したニーズがあり、翻訳ミステリが原作に使われることもあった。名香智子が85年に『ASUKA』(角川書店)に発表し、88年に同題の短篇集に収められた「レディに捧げる殺人物語」(原作=フランシス・アイルズ)もその一つだ。田舎の富豪の娘「わたし」ことリナが貴族の息子ランディ・アスガースと結婚し、彼が殺人者であることに気付く──というストーリーは批判を浴びたが、著者は2
