今、あなたは生まれる前の世界にいるとしよう。そして、生まれた後の社会で権利や富、地位がどのようなルールで分配されるべきかを決める会議に出席しているとしよう。あなたは自分が何者として生まれるのかを知らない。男性として生まれるのか女性として生まれるのか、裕福な家庭に生まれるのか貧しい家庭に生まれるのか、健常者として生まれるのか体や心に障害をもつ者として生まれるのか、何も知らない。 こうした「無知のヴェール」に包まれた状況で、あなたは、男性は政治に参加できるが女性はできないというルールに賛成するだろうか。貧しい家庭の子どもは教育を受ける機会が少なくても仕方がないと考えるだろうか。体や心に障害をもつ人が健常者から何の気遣いも受けないまま放置されることに一票を投じるだろうか。あなたは、どのようなルールであれば合意するだろうか。 この問いこそ、20世紀アメリカを代表する哲学者ロールズが、40年前、本書