昔の人は地下に住んでいる大鯰が体を動かすと地震が起こると考えていた。安政二年の江戸大地震の後に出版された錦画には鯰の画が沢山かいてある。「昔の人」と言ったが、地震を鯰のしわざと考えるようになったのは、昔は昔でも大昔ではなさそうである。 静岡県加茂郡松崎のある寺で唐紙を張りかえた時、下張(したばり)に使われていた古い暦が発見された。この暦は建久年間(西暦一一九〇―一一九八)のものだったが、それに「地震の虫」という奇怪な動物が印刷されてあると言う。私はこの画をみたことはない。しかしジョン・ミルンの書いた本に、「大きな地中に住む蜘蛛、すなわち地震虫」と記してあるところから推測すると、多分江戸時代の書物にのっている、得体の知れぬ怪物が日本全国を背負っている画と同じものであろう。これによると鎌倉時代には地震を鯰のしわざと考えていなかったことが分かる。 茨城県鹿島(かしま)神社の境内に要石(かなめいし