『私をくいとめて』(2020)は、ひとり暮らしの部屋へ帰る女性についての映画です。あるいは、大九明子監督の撮ってきた映画はどれも「誰もいない、しんとした部屋へ帰ってくるひとり暮らしの女性にまつわる物語」だと言えるかもしれません。大九作品においては、外に出ていった女性が何を経験したかと同等に(あるいはそれ以上に)、部屋に帰ってきた女性がどのように生活しているかが重要なためです。 物語のあらすじは以下です。主人公である会社員のみつ子(のん)は、オフィスでは「プチお局」の位置にほどよく収まりつつ、休日はおひとりさまライフを満喫する31歳の独身女性。ひとりカフェ、ひとり焼肉、ひとり温泉旅行と各種ソロ活動に邁進しています。みつ子の脳内には、相談役のAと呼ばれる存在がおり、彼女とAは普段から会話を繰り広げつつ、日々のできごとに対処していました。また、みつ子は多田くん(林遣都)という歳下の男性が気になっ