「あちらに到着したら、君はきっとショックを受けるよ」 オタワ空港の近くにある洒落たステーキ・バーで、ビールのグラスを傾けながらナイジェルは言った。明日の早朝の便で私たちは、カナダ北極圏の町、クライドリバー(Clyde River)に飛ぶ。北極の海に住む不思議な深海ザメ、ニシオンデンザメの調査をするためだ。 「ショックを受ける!?」 私はサーロイン・ステーキをナイフで切りながら、信じられないという顔をした。なるほど私にとって、カナダの北極圏は人生初めての場所だ。けれども私は――自慢でもなんでもないけれど――孤立した観測基地に滞在した経験は豊富にあり、僻地には慣れている。それにノルウェーの北極圏の島、スバールバル諸島にも行ったことがあるから、だいたい北極の雰囲気は想像できる。ショックを受けるようなことは、何もないはずだ。 「まあ、明日になればわかるよ」 ナイジェルはニヤリと笑ってビールを飲み干