加えて興味をそそられるのが、同時開催の「所蔵作品展 渡邊版―新版画の精華」だ。なんだ所蔵作品展か、などと高を括っては損をする。巴水の木版画のほとんどをプロデュースした版元・渡邊庄三郎の仕事を回顧する、というテーマの下に集められた作品群は渡邊による新版画の、見方によっては巴水よりさらに「大胆」な成果を見ることができるからだ。 たとえば渡邊が深水や巴水以前に刊行したのは、なんとオーストリア人のフリッツ・カペラリによる木版作品だ。白地にくっきりと映える描線はクリムトやエゴン・シーレを連想させずにはおかないが、抑えた色数や題材は紛れもなく浮世絵のもので、観る者に不思議な衝撃と感興を抱かせずにはおかない。あるいはロンドン、パリで水彩画とエッチングを学んだイギリス人、チャールズ・バートレットの《ベナレス》は、一見すると広重かと思わされてしまうほど「浮世絵ライク」な、水辺とその向こうに見える陸地がグラデ