○国立劇場 2月文楽公演『女殺油地獄』
3年ほど前から、また文楽公演を見に行くようになったが、なかなか時間が取れない。1年に1回がいいところ。2月公演は、近松物を中心によく知られた人気作品が並ぶので、やっぱり強く心が惹かれる。
『女殺油地獄』は、近松最晩年の作。放埒無頼の不良青年河内屋与兵衛が、親に勘当され、借金を断られて油屋の女房お吉を殺し、金を奪って逃走するという、救いようのない物語。最後には悪事が露見し、捕らえられるという結末がついているのだが、あまり上演されない。実母お沢と番頭あがりの養父徳兵衛それぞれの、与兵衛に対する屈折した愛情が聴きどころだが、心理の陰影が複雑すぎて(近代的すぎて)素直に感情移入できない恨みもある。
享保6年(1721)に初演されたが不人気で、江戸時代にはこの1回の上演記録しかない、というのを今回の公演パンフレットで初めて知った。明治以降、坪内逍遥らに再評価されて、人気作品になったらしい。私たちが「江戸の伝統」だと思っているもので、実は近代につくられたものって、けっこう多いんだよなあ。
人形は与兵衛を桐竹勘十郎、お吉を桐竹紋寿のベテランコンビ。悪くなかったけど、与兵衛を吉田蓑助、お吉を吉田玉男(逆ではないのです!)という圧巻の舞台を見たのはいつだったかなあ…。今日は端から4列目の席で、大夫さんと三味線弾きを横から眺めるようなポジションだった。「河内屋の段」の奥(与兵衛が家を追い出される場面)で床にのぼったのが、豊竹呂勢大夫さんと鶴澤清治さん。私は舞台を見るのを忘れて、ポカンとして鶴澤清治さんの手元を凝視してしまった。そのくらい、すごい演奏だったのである。撥(ばち)を持った白い手(ちょうど照明が当たっていて)の神々しくも色っぽかったこと。
3年ほど前から、また文楽公演を見に行くようになったが、なかなか時間が取れない。1年に1回がいいところ。2月公演は、近松物を中心によく知られた人気作品が並ぶので、やっぱり強く心が惹かれる。
『女殺油地獄』は、近松最晩年の作。放埒無頼の不良青年河内屋与兵衛が、親に勘当され、借金を断られて油屋の女房お吉を殺し、金を奪って逃走するという、救いようのない物語。最後には悪事が露見し、捕らえられるという結末がついているのだが、あまり上演されない。実母お沢と番頭あがりの養父徳兵衛それぞれの、与兵衛に対する屈折した愛情が聴きどころだが、心理の陰影が複雑すぎて(近代的すぎて)素直に感情移入できない恨みもある。
享保6年(1721)に初演されたが不人気で、江戸時代にはこの1回の上演記録しかない、というのを今回の公演パンフレットで初めて知った。明治以降、坪内逍遥らに再評価されて、人気作品になったらしい。私たちが「江戸の伝統」だと思っているもので、実は近代につくられたものって、けっこう多いんだよなあ。
人形は与兵衛を桐竹勘十郎、お吉を桐竹紋寿のベテランコンビ。悪くなかったけど、与兵衛を吉田蓑助、お吉を吉田玉男(逆ではないのです!)という圧巻の舞台を見たのはいつだったかなあ…。今日は端から4列目の席で、大夫さんと三味線弾きを横から眺めるようなポジションだった。「河内屋の段」の奥(与兵衛が家を追い出される場面)で床にのぼったのが、豊竹呂勢大夫さんと鶴澤清治さん。私は舞台を見るのを忘れて、ポカンとして鶴澤清治さんの手元を凝視してしまった。そのくらい、すごい演奏だったのである。撥(ばち)を持った白い手(ちょうど照明が当たっていて)の神々しくも色っぽかったこと。