見もの・読みもの日記

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肥前早春紀行(4):運慶流(佐賀県立美術館)

2009-02-12 23:55:26 | 行ったもの(美術館・見仏)
○佐賀県立美術館 特別展『運慶流』(2009年1月1日~2月15日)

http://www.pref.saga.lg.jp/at-contents/kanko_bunka/k_shisetsu/hakubutu/

 長崎のホテルで目を覚まして、え!と時計を見直した。セットしたモーニングコールが鳴らなかったのである。そこで、午前と午後の予定を入れ替え、佐賀に直行と決める。特急かもめで約1時間。

 美術館に入り、チケットを買って、大きな荷物をコインロッカーに預けていたら、遠くからこの展覧会を見に来た客だと分かったのだろう、チケット売り場の女性が、わざわざ寄って来て「あの、もし図録を買われる予定でしたら、先に買われたほうがいいですよ。もうすぐ無くなりますから」と教えてくれた。お礼を言って、まず売店で図録をGET。テーブルの上の残部は10部程度だった。2時間ほどして、私が会場を出たときはもう「完売」になっていたから、アドバイスがなかったら、完全に買い逃していたと思う。感謝々々。

 私が会場に入るとまもなく、竹下さんという学芸員さんによるギャラリートークが始まった。この展覧会は、「慶派」という名前で括られることの多い仏師一門のうち、端正で貴族たちに愛好された「快慶流」は置いといて、溌剌とした生命感、力強さで武士たちの支持を得た「運慶流」に焦点を絞ったもの。12世紀の「初代」運慶以下、14世紀の「六代」までの世代を紹介する。

 第1室は、京都・六波羅蜜寺の運慶像、栃木・光得寺の大日如来像など、全国から集められた優品が並ぶ。後者は、東京国立博物館の常設展でお馴染みのもの。運慶作品として、厨子・台座・光背・仏像が、制作当時の姿を完備している、きわめて珍しい例だそうだ(もう1例は、興福寺北円堂の弥勒像の試作品とおっしゃったかしら?)。金泥と金箔の光りかたの違い、蓮の花びらからこぼれる水晶の露、高く結い上げた髷の後ろの特徴的な表現など、初めて教えられたことが多かった。京都・佛光寺の聖徳太子像は、角髪(みずら)の少年だが、凛々しいというより、怖いくらいの威圧感がある。

 13世紀後半に活躍した「四代」湛康は、九州に作品を残している。佐賀・円通寺の持国天・多聞天像は、いかにも「運慶流」らしい重量感と力強さ漲る作。ぐるり四方をまわってみて、破綻のない立体感に感嘆する。佐賀・三岳寺の薬師・大日・十一面の三尊(こんなセットあり?)も湛康の作。どちらも、永仁2年(1294)千葉宗胤の菩提を弔うために作られた。千葉宗胤は関東の千葉氏の傍流だが、蒙古襲来に備えて九州に下向させられ、そのまま土着してしまった九州千葉氏の祖である。この時代、日本各地の武士たちが九州に集結した結果として、武家好みの運慶流の仏師たちが、九州にたくさんの作品を残すことになった。なるほど、美術史の展開って、実はさまざまな社会変動と密接にかかわっているんだなあ、と納得。

 どうしてこの『運慶流』展が佐賀に巡回したのかも、解説を聞いて、よく分かった。でも、昨年の山口県立美術館では『運慶流-鎌倉・南北朝の仏像と蒙古襲来』というタイトルだったのに、佐賀ではどうして副題を取っちゃったんだろう? 副題があるほうが、テーマが明確だったと思うのに。

 「五代」康誉作の如意輪観音像(福岡・大興善寺)も、かなりこわもてである。如意輪観音といえば、色っぽい仏像の代表なのに、襤褸(ぼろ)をまとった夜盗の親分みたいだ。これが「六代」(14世紀中葉)になると、一転して、繊細で貴族的な造形になる。とりあえず亡国の危機が去り、室町幕府が開かれた時期のことだ。康俊(東寺大仏師)作の宮崎・大光寺の地蔵菩薩像は、しどけなくて色っぽいなあ(※山口の展覧会では「セクスィー地蔵さま」と呼ばれている)。同寺の文殊五菩薩像は、「プニプニした」(学芸員さん)白い肌の善財童子をはじめ、手堅い造形なのに、どこか愛らしさがこぼれる。獅子の背後にまわると、ガニマタの股間がリアルで可笑しい。

 兵庫・慧日寺の釈迦三尊像は、今回が寺外での初公開。目元涼しい美形トリオだが、彩色が見えないほどのホコリをかぶっていたそうだ。苦労話はこちら(佐賀新聞)で。両脇侍の銅製の光背・宝冠の細工が素晴らしく、本尊の木製光背もいい。ちょんと片足を揚げた迦陵頻伽が魅力的。この美しい仏像をつくった康俊(東寺大仏師)が、実は傍系から「のし上がった」仏師であるという図録の解説を読んで、私は長谷川等伯のイメージと重なるように思った。

 まだまだ語れば話題は尽きない。九州各地の仏像の名品をまとめて見ることができ、メリハリのあるギャラリートークも楽しかった。大満足。

■『運慶流』学芸員ブログ(山口県立美術館)
http://www.yma-p.jp/blog/index.php

■ひびのスタイル(佐賀新聞)『特別展 運慶流の世界』
http://www.saga-s.co.jp/life/photos_top/unkeiryu_top.html
コメント (2)
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