見もの・読みもの日記

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吉備大臣の帰還/大遣唐使展(奈良国立博物館)

2010-05-05 21:04:18 | 行ったもの(美術館・見仏)
奈良国立博物館 平城遷都1300年記念『大遣唐使展』(2010年4月3日~6月20日)

 連休最終日は、迷った末に奈良へ。3日前(5/2)の夕方、ちらっと奈良市内に寄ったとき、あまりの人出に辟易して、ずいぶん迷ったのである。しかし、覚悟を決めて早起きし、9時より前に奈良博に到着した。『大遣唐使展』は本館で行われてる由を聞いていたので、本館に並ぶのかと思ったら、行列はいつもの東新館にできていて、ちょっと慌てた。入場券を持っている人と持ってない人は別に並ぶので、私は前者の4人目を確保。9時半の開館までに並んでいたのは、あわせて100人くらいだったろうか。例年の正倉院展に比べれば、ものの数ではない。よかった。

 この展示で、私の「見たいもの」はただひとつだったので、入館するとすぐ、2階ロビーの会場図で『吉備大臣入唐絵巻』の所在を確認。すると、予想に反して東新館の第1会場に展示されている。慌てて、第1会場を出口の側から逆まわりして、絵巻の展示ケースに張り付く。ああ、とうとう! 10年来?20年来の念願がかなった瞬間である。元来、1巻本で伝来したこの絵巻は、4巻本に改装されており、今回は第1巻と第4巻が「里帰り」している。

 第1巻は、まさに唐の港に到着した遣唐使船を、緊迫した雰囲気で待ち受ける唐人たちの場面。船上の吉備真備の姿は、画面の損傷でほとんど見えない、と思っていたが、現物を見ると、なんとか顔立ち(表情)が分かる気がする。唐の宮廷に急を告げに走る官人たちの装束が美しく、2匹の馬の鞍が虎皮(縞模様)と豹皮(斑模様)であるなんて、細かいことにも気づいてしまう。

 第4巻は物語の最終局面で、高楼に続いて、囲碁をうつ真備。これは表情がはっきり見える。きらびやかな装束の唐人たちの間にあって、黒装束の真備は逆目立ちする。続いて、その黒い束帯を脱がされ、しどけない下着姿で悠然とたたずむ真備と、地面の排泄物を覗き込む唐の官人たちのユーモラスな場面。下剤が入っていたのであろう、細首の水瓶と耳(花弁みたいな膨らみ)付きの酒器が、さりげなく唐ふう。あ~いいなあ。開館から10分くらいは絵巻をひとり占めだったが、次第に周囲に人が増えてきたので、名残り惜しい展示ケースを離れ、あらためて冒頭から展示を見ていくことにする。

 冒頭には、中国で見つかった和同開珎1枚と、法隆寺献納宝物の香木でソグド文字の焼印、パフラヴィー文字の刻印があるものを展示。これらは東西交流の確固たる証拠であるわけで、少し想像力を働かせれば、ため息の出る逸品である。しかし、見た目が地味なので、観客はあまり滞留せず、次の観音菩薩像2体の対比展示に流れる。続いて、井真成墓誌も、中国から久しぶりの里帰り。なるほど、冒頭から「目玉」展示品が目白押しで、これは『吉備大臣入唐絵巻』まで、なかなか人が流れてこないはずである。

 こんなものまで持って来たか!と興奮したのは、陝西省考古研究院所蔵の『仕女図』と『仕女調鳥図』。もとは墳墓の壁画。奈良博の『刺繍釈迦如来説法図』は、これだけ奈良に通っているのに初見かもしれない。正倉院の時代を、正倉院宝物でなく、類似の工芸品(白鶴美術館って、いいもの持っているんだなー)で見せる構成も面白かった。

 もともと古代史好きなので、時代を細かく区切った解説プレートを、じっくり読み込んでしまう。人名も地名も、ひたすらに慕わしい。白村江(はくすきのえ)、行ったなあ。ほかにも「南詔」や「渤海」の文字を見ると、雲南省の南詔徳化碑、黒龍江省の上京龍泉府址など、一度きりの旅の記憶がよみがえる。

 『大遣唐使展』と言いながら、日本-中国の二国間関係だけではなくて、朝鮮半島の果たした大きな役割はもちろん、大唐帝国の周縁国家にも広く目配りがされていて楽しかった。そのへんが「大」遣唐使展なのかもしれない。もしかすると。

↓レストランの期間限定メニュー「真備炒飯セット」。
濃いめの味付けが美味。定番メニューに加えてほしい。


公式サイト(こういうのは凝らなくていいのに…)(5/7記)
コメント (4)
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