見もの・読みもの日記

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特別な週末・大唐皇帝陵展(橿原考古学研究所附属博物館)

2010-05-21 22:58:49 | 行ったもの(美術館・見仏)
奈良県立橿原考古学研究所附属博物館 平城遷都1300年記念春季特別展『大唐皇帝陵展』(2010年4月24日~6月20日)

 唐王朝の皇帝と皇族の陵墓にスポットを当て、陝西省考古研究院を中心とする最新の考古学的成果を紹介する展覧会。この日は、飛鳥資料館でキトラ古墳壁画を見たあと、畝傍御陵駅前にある同博物館を訪ねた。日曜というのに周囲にあまり人影がなく、場所を間違えたかと思ったが、館内では、かなり大勢のお客さん(年齢層高し)が、列品解説ツアーに参加していた。

 第1室は「唐十八陵」の写真パネル展示。私は2006年の夏に、昭陵(李世民の墓)と乾陵(高宗と則天武后の墓)に行っている。他の御陵も観光客に公開されているのかしら?と興味深く眺めた。同室の壁には、超巨大な「青龍図」と「白虎図」(体長、約6メートル)。恵陵(玄宗の兄・李憲=追諡皇帝の墓)の墓道の両側に描かれた壁画の模写だ。陽炎のように揺らめき、湧き上がる瑞雲の迫力は半端でない。

 第2室は、神道の石刻、出土品など。「世界帝国」大唐の皇帝にふさわしく、昭陵には14の周辺国の王・君長の石像が立てられた(十四国蕃君長石像)。台座の題記から14の国名・君長名も判明している。于闐(うてん)国とか亀茲(きじ)国とか、国名を見るだけで胸が躍る。展示品は背中に五条の弁髪を垂らした突厥人の石像らしい。2002年出土。正倉院御物を思わせる美麗な銀製品や螺鈿の鏡、唐美人の豊満な女子俑、精悍な加彩馬などが並んでいたが、驚くのは、ほとんどが2000年以降の発掘品であること。中国の「国宝級」文物のリストって、どんどん書きかえ(書き加え)られているんだろうなあ、と思う。こんなふうだから、何回中国に行っても、見るべきものを見尽くせないのである。

 第3室に入ると、いたいた。本展のポスター等でさかんに宣伝されている跪拝俑だ。展示ケースが高い位置にしつらえてあるので、机の上に腹這っているようで可笑しい。恥じらっているような、福々しい丸顔もよく見える。胴長に見えるのは、帯を腰高に結んでいるのかな。私はこいつと会うのは三度目である。最初は2005年、江戸博の『新シルクロード展』。2回目は西安の陝西省考古研究所(※)で、防護ケースも柵もなく、生身の人間みたいに展示室のじゅうたんの上に腹這っていたのが印象深い。『新シルクロード展』では、李憲墓出土の「拝跪文官俑」という名前で展示されていた。解説によれば、衣服に赤色の顔料が残ってることから、四品か五品の官人と分かるそうだ。靴を脱いでおり、衣服に裸足の足のかたちが透けて見えていることには、初めて気づいた。非常に珍しいものなので、お客さんが少ないのは本当に残念。関西圏の方は、ぜひ見に行ってほしい。

 もうひとつ、おすすめは『馬球図』。高祖献陵の陪葬墓、李邕(りよう)墓の壁画で、三人の男性が馬球(ポロ)に興ずる図(全体像が見えるのは二人)を迫力ある大画面に描く。馬球図といえば、章懐太子墓の壁画(1971年出土)が有名だが、あちらが牧歌的な絵本の世界だとしたら、こちらは汗の飛び散る劇画の世界。熱い! 迷いのない、力強い描線に惚れる。考古学ファンよりも、美術ファンにこそ見てほしい作品。こんな熱い壁画を書かせた被葬者は、どんな人だったんだろう。2005年出土。

 第3室には、日本国内の出土品(三彩、白磁など)を意識的に(?)唐皇帝陵の遺物と混ぜて並べてあって、唐の出土品か、と思って眺めていると国内の出土品だったり、その逆だったりした。最後に、十二支俑との関連で、日本の隼人石(はやといし)が紹介されていたのも興味深かった。これ、今でも現場にあるのかー。今度、見に行かなくては。

 展示図録は解説が詳しくて満足。ところどころに挟まれた現地写真が(風景も人も)いい。売店で、橿原考古学研究所編『南朝石刻』(2002年)という図録(中国南朝石刻の踏査記録)の写真が、あまりにも楽しくて、併せて購入してしまった。

※陕西省考古研究所→2007年2月、陝西省考古研究院に改称(中国語:百度百科)。この前年、発掘した古墓が1,172ヶ所、類型遺跡が1,157ヶ所、出土文物が3万件という数字がネットで出てきた。すごい…言葉を失う。

[5/22補記]図録の解説をよく読んだら、跪拝俑は単体で墓道の入口に顔を向けて置かれたと推定されている。ちょっと意外。被葬者に尻を向けていいのか?!


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