京セラ創業者の稲盛和夫氏が自身の言葉で「経営12カ条」を解説する本連載。第10条では「常に創造的な仕事をする」ことの大切さを説く。改良改善を絶え間なく続けることが独創的な経営につながっていく。
米国を代表するジャーナリストで、ピューリッツァー賞も受賞したデイビッド・ハルバースタムさんは、その著書『ネクスト・センチュリー』(阪急コミュニケーションズ)で1章を割いて私について執筆してくれています。その冒頭で彼は、「次にやりたいことは、私たちには決してできないと人から言われたものだ」という私の言葉を引用しています。
実際に京セラは、ファインセラミックスという新しい素材をいち早く取り扱い、従来は工業用材料となり得なかったファインセラミックスを工業用材料として確立させ、さらに何兆円という規模を持つ産業分野として成長せしめた、いわゆるパイオニア企業と言っていいかと思います。
つまり、ファインセラミックスが持つ素晴らしい特性を生かしてICパッケージを開発し、勃興する半導体産業の成長を促したことをはじめ、人工骨などの生体用材料にもいち早く取り組み、現代のファインセラミック分野の開拓者として社会に貢献してきたのです。
このような独創的な事業展開ができた理由を、多くの人々は京セラの技術開発力にあると考えています。そして自社を顧みて、「わが社にはそのような技術はない。だから発展しないのはやむを得ない」と嘆いておられるのです。
しかし、そうではないと私は考えています。傑出した技術力を最初から持っている中小企業など、ひとつもないはずです。常に創造的な仕事を心がけ、今日より明日、明日よりも明後日と改良改善をしているかどうかで、独創的な経営ができるかどうかが決まってくるのです。
創造的な仕事に大切なこと
新しい開発をするには、「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」ことが必要です。これは一見矛盾しているようですが、そうではありません。
まず、「こういうものをやりたい」と思うときは、楽観的に考えるのです。「それは難しい、それは困難だ」というように悲観的に考えてはいけません。
しかし、実際に具体的な開発計画を立てるときには、非常に厳しい現実を直視し、開発のどこが難しいのかを認識して、悲観的になるべきです。
そのうえで、「よし、これでやろう」と開発を始めたときには、難しいことは考えず、「絶対やれるはずだ」と非常に楽観的に進めていくことが、開発をするときの心構えです。
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