リーダーは目標を達成する方法を部下に明確に示すと同時に、そのことを通じて、部下にできるという自信を持たせるようにしなければなりません。
ここまで、リーダーが1人で行うべきことを申し上げましたが、さらにリーダーは、自分のみならず、幹部社員をはじめ、全従業員と目標を共有し、シミュレーションした目標達成に至るプロセスを説明した上で、それが必ず成功するのだということを、全員に信じ込ませなければなりません。それだけの雰囲気を、社内に醸成していかなければならないのです。
部下の熱意のレベルを引き上げる
リーダーが強烈な願望を持ち、高い目標を掲げても、その集団のメンバーがその目標の実現を自分のこととして捉え、懸命に努力してくれなければ、決して目標は達成できません。
そういう意味では、リーダーは集団の心を捉えることができなければなりません。自分が設定した目標を、集団の全員が「何としても達成しよう」と思わせることができなくてはなりません。つまりリーダーは、集団に生命を吹き込み、全員のベクトルを合わせ、目標に邁進(まいしん)させることができなくてはならないのです。
目標を共有する具体的な仕組みとしては、会社全体の経営目標を組織ごとにブレークダウンし、組織の最小単位に至るまで明確な目標数字を示し、一人ひとりの社員にとって明確な指針となるように細分化することが考えられます。経営目標を、社員一人ひとりが具体的に理解できるように、細分化して指示しなければならないということです。
また、年間の目標のみならず、月次の目標も設定し、各人が月々の、また日々の目標を正確に認識し、着実にその目標を果たすことができるようにしなければなりません。そうすることで、一人ひとりのメンバーが「自分の目標はこうであり、自分は今、その目標に対して、どの程度進捗している」ということが明確に分かるようになり、自主的に、また自信を持って目標達成に邁進することができるようになっていくはずです。
同時に、部下と目標を共有し、目標達成への熱意を経営者と同じレベルにまで引き上げ、部下に心底から目標の実現を信じてもらうようにすることが大切です。そのためには、リーダーが自分の持つ情熱やエネルギーを、部下に注入することが何よりも大切です。
「エネルギーを注入する」とは、相手の心、気持ちを「励起(れいき)」させることです。励起というのは、「励ます」に「起こす」と書いて「励起」と読むのですが、物理現象の1つであり、外部からエネルギーを与えて、そのエネルギーレベルを上げることです。相手のエネルギーレベル、つまり気持ちを高揚させる。それも相手のエネルギーでなく、外部から自分のエネルギーを注入することで高めるのです。
自分の部下、自分の周囲の人たちの気持ちを高揚させて、「分かりました、一緒にやりましょう。どんな困難があろうとも、何としてもこの目標を達成しましょう」と言ってくれるくらいの心境になってもらわなければなりません。
私は会社を創業して以来、このことに努めてきました。京セラ創業期のメンバーにも、仕事の背景、目的、意義をこと細かに繰り返し説明してきました。
仕事の意義と方法を示してきた京セラ
当時、東京に出張しては客先回りをしていました。例えば、東芝、NEC、日立などの研究所に行き、新しい真空管に使う絶縁材料の注文を取ってきます。「他社ができないような難しいものはありませんか」と言って、あえて難しい注文をもらって帰ってくるわけです。
出張から帰ってきた私は、「こんな注文を取ってきた」と言って、従業員たちに安易に渡すようなことはしていませんでした。
当時は従業員も少なく、大変忙しい毎日を過ごしていました。それでも夜、出張から帰ってくれば、皆に「集まってくれ」と集合をかけます。そして「今日、日立に行ってきたら、真空管の技術者からこういう話があって、こういうものができませんかと言われた」というふうに、商談の様子をこと細かに手に取るように話していきました。
「この絶縁体は、日立が作る放送局用送信管のこの部分に使われる。形状が複雑で、今持っている技術で作るのは難しいので、新しい方法で加工すべきだと私は考えている。この送信管は、放送局が完成を一日千秋の思いで待っており、またこの技術を応用することで、もっと幅広い事業展開も可能になるだろう」
会社に帰ってきた後、ただ部下にこれを作れと指示することは、ありませんでした。その製品がどのような完成品に組み込まれ、どういう用途に使われ、さらには社会でどういう役割を果たし、社会がどう変わっていくのかということまで話しました。
この仕事を成功させることは、社会的にも会社にとっても大変大きな意義があると、こと細かに説明した上で、その重要な製品をこういう方法で作ろうと具体的な話をしていきました。
それでも顔を見れば、「まだ難しい」という顔をしています。「こうすればできるんだよ。こうすれば俺はいけると思うんだ」と方法まで示し、部下がその気になるまで一生懸命に話しました。まさに部下に対して、「エネルギーを注入する」ことをしていたのです。
ただ単に「やれ」「頑張れ」と言うのではありません。なぜ頑張らなければならないのか、なぜそれは頑張るに値するのかという、社会的意義、会社にとっての意義、お客さんの立場までよく話した上で、こと細かく具体的な方法を説明していきました。
そのように「エネルギーを注入する」くらいの気持ちで部下を説得して、やる気を出してもらい、情熱を燃やしてもらうようにすることが必要です。
よく「これをやってくれ。分かったな」と部下に言うと、「分かりました」と、すました顔で返事をしてくる場合があります。「分かったな」と言うくらいで、できるようになるわけがありません。顔を見ればだいたい分かります。自分自身は、何としてもやらなければならないと心に誓っているが、部下もそういう顔つきをしているかどうかということです。
これが大事なのです。そういう顔をしていなければ、私は「ちょっと待て。まだだ」と、その人が私と同じくらいのレベルになるまで、2回も3回も繰り返し繰り返し話を続けました。また顔を合わせれば、その都度呼び止めて再度話をしました。
仕事をしていれば、みんなそういう体験があると思います。「分かりました」と簡単に返事をしてくる程度で難しい仕事ができるわけがありません。仕事を成功させるには、部下にエネルギーを注入して、自分と同じくらい燃え上がらせることが絶対に必要なのです。
部下の意見を聞き全員参加経営を目指す
次に、目標を達成するための方法について部下の意見を聞き、それが正しければ採用するということも大切なことです。これは、良いアイデアを採用すると同時に、部下に経営への参画意識を持たせるということです。
すでに話したように、目標設定にあっては、目標達成に至るプロセスも含めて、リーダー自身がその中心とならなければなりませんが、同時に、幅広く部下の意見を聞き、衆知を集めなければなりません。
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