稲盛和夫氏は経営者の先輩である松下幸之助氏から多くのことを学んだ。中でも強く影響を受けたのは「思い」の大切さについてで、このエピソードはたびたび講話の中で語られている。8月31日に開催予定の「稲盛和夫研究会シンポジウム」を前に、今回は「特別編」として、稲盛氏が松下氏について語った講話(抜粋)を2つ紹介する。
「なんとしてもやり遂げる」という「思い」を抱く
私たちはあらゆる物事を行う上で、まずは「こうありたい」「こうしたい」といった「思い」を抱きます。そのほとんどは、心の中にフッと浮かんだ「思いつき」ですが、それを「なんとしても成し遂げたい」という強烈な願望によって、信念にまで高められたものにしなければなりません。
自分のやろうとしていることが、誰がどう見ても不可能と思えるようなものであれば、「そんなことできるわけがない」と、誰もが言います。そのような声になど動かされることなく、「いや、それでも、私はなんとしてもやりたいのだ」という信念を伴った「思い」が、まず先に来なければならないのです。その上で、今度は一生懸命頭を使って、「では、どうすればやり抜くことができるか」と、具体的な戦略・戦術を練っていきます。
経営者にとって一番の課題は、「強く思う」ということです。多くの経営者は心の中で「こうしたい、ああなりたい」と軽く思うだけで、無理難題があるとわかるや否や、「いや、こういう条件があるから、これはやはり難しい」と、すぐ頭で考えてしまいます。それは、我々が長い間学校で学び、社会で働き続ける中で、まず頭で考えることが習慣になっているからです。頭で考えて、できると思えるのであればやるのでしょうが、そうでなければ、いろいろな困難を目の前にすると、頭で考えて挑戦をやめてしまいます。結局、困難を乗り越えて大きな成功を収めることが、なかなかできないのです。
そうではありません。まずは、「なんとしてもやり遂げるのだ」という信念を伴った、強烈な「思い」を持つのです。経営者のやりたいことが難しいことであれば、「こんな障害もありますし、きっと不可能ですよ」というような反論が、部下から寄せられることもあるでしょう。それでも、経営者がほんとうにそれをやりたいと思うならば、部下の反論などはねのけて、「いや、我々はなんとしてもこれを成功させるのだ」と、強く訴えることです。
そしてその後は、「思い」に任せて猪突猛進するのではなく、「みんなが難しいと言うのもわかる。だから今からは、これを成功させるためにはどうすればいいのかを考えよう」と言って、戦略・戦術を徹底的に考えていきます。もちろん、自分だけで考えるのではありません。優秀な部下を集めて会議を開き、さまざまな知恵を出してもらい、困難を乗り越えるためにはどうすればいいかを、全員で考えていくのです。
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