アメーバ経営の二番目の要諦は「アメーバ間の値決め」です。工程ごとにアメーバ組織ができますと、それぞれのアメーバが売買を始めるので、各アメーバ間で売値を決めなければなりません。しかし、各アメーバは少しでも採算を上げようと必死になっていますから、アメーバ間の売値を決めることはアメーバ経営にとってたいへん重要な問題であるとともに、非常に難しい問題でもあります。その理由は、アメーバ間の売値が客観的な値段ではないからです。お客様に売る最終的な価格はありますが、工程間の売買価格がいくらであるべきだという客観的な基準はありません。

 では、どのようにしてアメーバ間の売値を決めていけばいいのでしょうか。まず最終的な売値から遡って、各工程の値段を決めていかなければなりません。ある製品の受注が決まれば、その製品をつくるのに必要な各工程で大体同じような採算が出せるように、アメーバ間の売値を決めます。この製品は客先にこの価格で売るのだから、最終の検査部門ではいくら、加工部門ではいくらというふうに原料部門まで遡って売値を決めて、各工程間の値段を決めていくのです。

社会的な常識を踏まえ フェアに判断する

 このとき、ある部門では労力も大してかからないのに高い売値をつけて簡単に採算が上がるけれど、ある部門ではいくらがんばっても採算が合わないというのでは、経営はうまくいきません。アメーバ間の売値を判断する人が常に公平であり、みんなを説得するだけの見識を持ち合わせていなければ、必ずアメーバ間でケンカが始まります。売値を判断する人は、どの部門にどのくらいの費用が発生するのか、どのくらいの労力が必要なのか、どのくらい技術的に難しい製品なのかなどをよく把握し、それに見合う時間当りの付加価値が出せるように値決めをしなければなりません。つまり、値段を決めるトップは非常にフェアな判断をしなければならないのです。

 また、このようにフェアな判断をするためには、労働の価値に対する社会的な常識を兼ね備えていることも必要となります。例えば電子機器を販売するには粗利が何%くらい必要だとか、建設現場の日雇い労働者の日当はいくらだとか、この作業を外注したら手間賃はいくらだとか、そういったことをよく知っている必要があるのです。要するに、アメーバ間の値決めは、各アメーバのことをよくわかっているリーダーが、そのアメーバにかかる経費や労力を社会的な常識から正しく判断し、それに見合う付加価値をつけて、フェアに決めていかなければならないという非常に難しい行為であり、それだけにたいへん重要なことなのです。

(写真=アフロ)
(写真=アフロ)

エゴの激突、利害の対立が 会社全体を疲弊させる

 このようにアメーバ間の値段を決めても、アメーバ同士の利害が対立し、争いが起こることがあります。例えばある製品を受注し、最初はアメーバ間で公平に売値を決めたとします。ところが2カ月もたたないうちに同業者と競争になり、最終的な売値が1割下がってしまった。そのような場合、全工程で売値を1割下げることができれば、それでうまくいくかもしれません。しかし、アメーバの中に、その製品の採算は合わないのだと、値段の是正を前々から求めていたところがあるとすれば、一律1割の値下げと言われた場合には採算がさらに悪化するので、「製造する意味がない、もうその注文は要らない」と言い出すかもしれません。そうなれば一律1割の値下げができなくなり、アメーバ間でケンカが始まるわけです。

 また、営業と製造の間でも対立が起こる場合があります。普通の会社では、売り切り、買い切りで製造・営業間の取引を行っているケースが大半です。営業が製造から商品を買い取り、全責任を持ってお客様に売る形態です。この場合、営業は製造からなるべく安く仕入れて、できるだけ高く顧客に売って儲けようとしますから、自分の才覚で商売ができます。いわば独立した商社のような妙味があります。しかし、京セラのようなメーカー直販営業の場合には、売り切り、買い切りを行えば、営業はできるだけ安く買おうとし、製造はできるだけ高く売ろうとします。ですから営業と製造の間で利害が対立し、会社全体として利益が損なわれることになります。もし、製造、営業のどちらかエゴの強いほうが得をするということになれば、両者の対立は激しさを増し、会社全体を疲弊させてしまうことにもなりかねません。

 そこで私は、営業と製造が対立しないように、当初、営業が売上を上げれば、その10%の口銭を自動的にもらえるようにしました。この形態なら、営業が自分の才覚で儲けることはできませんが、その代わり売上さえ上げれば10%の手数料がもらえるので、営業と製造が仕切値でケンカをすることはなくなります。

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