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巨大な写真で世界を変える
JR
男の名は「JR」。この春は米ニューヨークのタイムズ・スクエアで3週間を過ごした。移動販売車風のトラックで提供したのは、食べ物ではなく、特大サイズにプリントしたポートレート。被写体はニューヨーカーの老若男女で、自分の写真を家に持ち帰ってもよいが、刷毛と糊で街角の壁面に貼ってもよい――これがJRお勧めの方法だ。
フランス人のアーティスト、JR(本名は公開していない)はこれまで13年間にわたり、さまざまな形で、世界各地の屋外に肖像写真を掲示してきた。ヨルダン川西岸の壁に住民たちの大きな顔写真を貼ったプロジェクトでは、パレスチナとイスラエルのそれぞれから同じ職業の人を対にして並べ、両国を隔てる壁の両側に掲げて話題を呼んだ。ケニアの首都ナイロビのスラムでは、女性の顔写真の上半分を列車の車体に貼り、下半分はトタン板に貼って線路脇の土手に置いた。列車がそこを通過する瞬間、女たちの顔が像を結ぶというわけだ。
――いつも意外な場所に作品を展示しますね。
「どこにでも出現できる」のがアートの醍醐味です。思いがけない場所に写真があるって、おもしろいでしょう? 美術館なんて行かないような人々が、自分の写真を突拍子もない場所に貼り、それを誰もが楽しめるんです。展示プロジェクトの舞台はどこも、その年に何かが起きた場所ですね。暴動があったケニアやニュースにいつも出てくる中東など、まずテレビで知り、自分の目で確かめたくなって出かけます。
――失敗した経験はありますか?
北朝鮮へ行ったときは、何もできずに帰ってきました。社会体制によってはアートが歓迎されないこともあると、時には思い知らされます。法を破るのは私の目的ではありません。作品の性質上、時として法に触れてしまうことはありますけどね。
――昨年はキューバにも行っていますね。どうでしたか?
キューバの人たちは、カストロ兄弟やチェ・ゲバラ以外の肖像写真を見たことがないようでした。おずおずと近づいてきて、「これはカストロをいつもと違うアングルで撮ったものかい?」と尋ねるんです。だから、こう答えました。「いや、これはパブロです。すぐそこに住んでいる男性ですよ」