リスク・テイカー 危険覚悟の挑戦者

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氷河から気象を読み解く

ロニー・トンプソン

文=パット・ウォルターズ 写真=マルコ・グロブ

ロニー・トンプソンは38年にわたりペルーや中国などの高山で氷河のサンプルを採取し、気象データを集めてきた氷河学者。厚さ数百メートルにもなる氷河には、数千年分の情報が詰まっているのだ。標高5400メートル以上の場所で過ごした期間は合計1099日間。トンプソンのデータによると、現在、地球温暖化はかつてないペースで進み、氷河が解けている。彼の調査は重要性と緊急性を増すばかりだ。次の目的地、チベットでは100万年前の地球最古の氷河が見つかる可能性がある。

――標高5400メートルを超す山で何週間も過ごすのですか?

ヒマラヤ山脈のダスオプ氷河の調査では、標高7160メートルに6週間いました。

――苦労もあったことでしょう。

総重量6トンのキャンプ用品や氷河の掘削機材を運び上げるのは大変でした。雷も問題です。掘削ドリルが山の上の避雷針になってしまうので、わずか3メートル先に落雷したこともあります。雪崩や嵐、強風が発生して、3~4日身動きがとれないこともあるんです。64歳まで生きてこられたのは、運が良かったからでしょう。

――昨年、心臓の移植手術を受けたそうですね。

私の父は41歳の時に心臓発作で亡くなりました。私も心臓に問題がありますが、もしかすると山に登っているおかげで、父より長生きしているのかもしれません。

――なぜまだ仕事を続けているんですか?

ペルーのケルカヤ氷冠には26回行っていますが、最近は末期がんの患者を見舞っているような気分になります。希望がないんです。氷が解けていくのをただ見ていることしかできない。今では、私の仕事は“回収作業”に変わってしまいました。氷冠が消える前に、そこに秘められた気象の歴史を集めたいんです。

――データを発表しただけでは人は行いを改めない、と発言していますね。

目先のことにしか対処しないのが、人間のさがです。火事や干ばつ、竜巻で家や作物を失うなど、何かが起きて初めて人々は真剣に考え始めます。まるで一晩で問題が起きたかのようにね。でもそのときには、事態はすでに進行しているのです。

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