福島では原発事故以降子供の甲状腺ガン発生の疑いのために全員に対しての甲状腺検査を実施していますが、その結果の解釈についての毎日新聞記事をFOOCOM.NETの松永編集長が批判しています。
両論併記の罪〜東日本大震災5年に思う | FOOCOM.NET
実は我が家も毎日新聞を購読しており、その記事も目にし「ちょっと困った記事か」という思いがしていたのですが、さすがに松永さんはその問題点を的確にしておられます。
甲状腺がん検査というのは、チェルノブイリ事故でも見られたように放射線の害が特に子供の甲状腺に対してガン化という形で現れるという現象が知られていたことから、福島県の全児童生徒に対して実施されているものなのですが、その検査でガンがかなりの数見つかっており、その解釈について諸論あるというものです。
私もその実施を報ずる記事を読んで、「こんな検査をしても比較すべき対照群もないのでは解釈に困るだろう」と思っていたので、その結果をめぐるドタバタも想定の範囲内でしたが、松永編集長はこれを独自の切り口で解説しています。
松永さんは現在のようにフリーの食品ジャーナリストとして活躍する前は毎日新聞で記者をされていたので、記者根性とでも言うべきものを熟知しています。
そこから見ると、今回の記事の問題点は「両論併記をしたがる記者根性」であるとしています。
記者というものは記事執筆の対象となる事象を完全に理解することはできませんので、どうしても複数の意見を目にした時にどちらかだけを取り上げるということはしづらいようです。松永さんもこの癖から脱するまでにはフリーになってからかなりの時を要したと書かれています。
しかし、今回の甲状腺検査結果解釈では、両論といっても1対99、いや1対999くらいの大差のある「両論」であり、これを拮抗しているかのごとき書き方は非常に読み手に誤解を与えやすい(というか、それを狙った)ものではないかということです。
具体的には、一方の岡山大学教授の津田俊秀さんは福島では甲状腺ガンの発生が増加しておりこれは放射線による障害であるとしていますが、国立がんセンターの津金さんは陽性率が高いがこれは「擬陽性」であるとしています。
津田さんの主張は論文にもされているということですが、国立医薬品食品安全研究センターの畝山智香子さんが紹介されているように、
サイエンス誌でも特集されており、その中で津田さんの主張を厳しく批判されている論文がいくつも紹介されているそうです。
どうも「甲状腺がんの検出率が30倍に増えた」と主張しているのがその元の数字は「異常があって受診した子供の中での発生率」であり、福島については「全ての子供の検査中での発生率」と、本来比べるべきものではない数字をならべたもののようです。
実は津田敏秀さんの著書は何度か読んでおり、
「医学と仮説 原因と結果の科学を考える」津田敏秀著 - 爽風上々のブログ
医学の中でも「疫学」というものの重要性を主張している極めて科学的な姿勢を持った方と感じていただけに、今回のこのような騒動は残念でなりません。
疫学の重要性というものは間違いなく存在しているのは確かですが、それに疑念を持たせるようなことにならなければ良いのですが。