黒沢清『スパイの妻』は、戦前戦中の建物や室内館内の耽美世界、という感じだった。
夫婦が渡米する日に自宅の洋館を車で発つシーンは最も見入ってしまったところ。
予算の関係かもしれないが、街路の風景は浅草を除いて出てこない。満州旅行も行き帰りの港の、しかもレンガの壁面などが映るだけで成立。
浅草のシーンでは主人公たちの動きと軍隊の行進が交錯する。『愛のコリーダ』でそんな光景がもっとあからさまに挿入されていたかなと思い出した。
夫婦が洋館を車で発つシーンで思い出したのは、映画『流れる』で、置屋の日本間に山田五十鈴がキセルを手に座っているシーン。その構図や角度や切り取った領域が、絶妙で完璧に思えた。
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