薬剤師の法律のイロハ|赤羽根弁護士

【第五回】調剤過誤 と刑事責任 -薬剤師が知っておくべき調剤過誤にかかる法的知識

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薬剤師にとって、日頃の業務と法律は深く関わっています。本シリーズでは、薬剤師が知っておくべき法律のイロハについて、赤羽根弁護士から講義形式でお伝えいたします。動画は5分程度ですが、講義内容を文章で閲覧されたい方は、こちらの記事で内容をご確認ください。

調剤過誤と法的責任

今回は、薬剤師が知っておくべき、調剤過誤にかかわる法的知識についてお話ししていきたいと思います。

薬剤師の方にとっては嫌な話だと思いますが、現実に調剤過誤は起こり得ます。ミスをしてしまって、患者さんが入院してしまったなんていうこともあり得ます。調剤過誤が起こると皆さん非常に不安になります。例えば、こんな質問を受けることがあります。「私、何かの罪になりますか?」「薬剤師免許なくなってしまいますか?」などと、自分が今後どうなっていくかわからずとても不安になってしまうことが、よく見受けられます。不安になるのはやむを得ませんが、過度に不安になり過ぎると今後患者さんとやり取りをしていくなかで、よくありません。「過誤を起こしたときにどういう責任を問われるのか」を事前に理解しておく必要性があります。、今回は、調剤過誤を起こしたときの法的責任の内容がどういったものなのかについてお話ししたいと思います。

調剤過誤には法的に3つの責任があると言われています。1つ目は“刑事責任”です。刑事責任とは“国家から刑罰を受ける責任”です。懲役刑であったり、禁固刑、罰金刑など、“業務上過失致死傷罪”という罪に問われる可能性があり得るということです。場合によっては刑務所に行かなければいけないというような重大な責任です。冒頭の「何かの罪になりますか?」という質問ですが、結論から言うと、調剤過誤すべてが刑事責任に問われるわけではありません。社会的に見て重大だというものでなければ、やはり刑事責任までは問われません。何をもって重大だと言えるのか?過失の態様が悪かったり、被害が重大、社会的影響が大きいといった総合判断によって決まってくると言っていいかと思います。

刑事責任が問われた事例

有名なのが「ウブレチド事件」です。自動分包機でマグミットを分包していたところ、設定を間違えてウブレチドと入力をしてしまい、毒薬であるウブレチドが間違って患者さんに分包されてしまった。そのまま患者さんにそれが渡ってしまうという運用になっていて、二十数日間で2,700錠のウブレチドが二十数人の患者さんに誤って渡ってしまったという事案があります。二十数日後に気付いたのですが、管理薬剤師が「社長に怒られるのが嫌だ」というような理由で放置してしまい、結果として患者さんの一人が亡くなってしまった。この事件は過失の態様、単純ミスだけでも悪いと言われるなかで、放置しているのでより悪く、さらに、被害は患者さんが亡くなっているという点で重大でした。報道されたことにより社会的影響も大きかったということで、この事件は刑事責任に問われました。禁固1年、執行猶予3年という判決だったと記憶していますが、これほどの重大な事件ではないと刑事責任はなかなか問われづらいのです。他の事件では、ワーファリンの4倍量を誤って処方してしまって、患者さんが亡くなってしまった例や、ジゴシンを10倍量処方してしまって、患者さんが亡くなってしまった例などがあります。この2つの事例は、罰金50万円という刑になっています。

ミスをしたらすぐに刑事責任を思い浮かべるのは少し行き過ぎで、それぐらい重大なものの場合のみ刑事責任に問われると理解をしておいてください。一方で、薬剤師というのは、やはり非常に重い責任を負っていて、万が一重大な過誤を起こしてしまうと、刑事責任も問われかねないということも意識をしておくことは重要であると思います。

今回のまとめポイント

・調剤過誤を起こした際の法的責任は3つある。
・1つ目は、刑事責任で、場合によっては懲役刑になるほど重大な責任である。
・過失の態様が悪く、被害が重大で社会的影響が大きい場合は、刑事責任に問われる。

赤羽根 秀宜(あかばね ひでのり)
中外合同法律事務所パートナー, 薬事・健康関連グループ代表
弁護士・薬剤師
薬剤師の勤務経験がある弁護士として、薬事・健康・個人情報保護等にかかる問題を多く取り扱う。主な著書に「医薬品・医療機器・健康食品等に関する法律と実務」(日本加除出版株式会社)、「赤羽根先生に聞いてみよう 薬局・薬剤師のためのトラブル相談Q&A47」(株式会社じほう)等がある。
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この記事を書いた人

薬プレッソ編集部

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「薬プレッソ」の「プレッソ」はコーヒーの「エスプレッソ」に由来します。エスプレッソの「あなただけに」と「抽出された」という意味を込め、薬剤師の方に厳選された特別な情報をお届けします。

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