経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

アベノミクス・崖に連れて行かれるのか

2019年04月28日 | 経済(主なもの)
 これは、かなり厳しい結果だ。連休前に公表された3月の経済指標は、景気が「悪化」していることを如実に表すものとなった。どうも、政権側近が言う「崖に向って連れて行く」展開になってきたようである。こうした状況に至っても、中国の景気対策による輸出の回復に望みをつなぐ向きもあるが、他国に寄りかかる経済運営で良しとするのは、無責任ではないか。自分の城は、自分で守らなければならない。運次第の外需に身を任せ、成長より財政を可愛がる愚は、平成で終わりにしたい。

………
 設備投資の動向を示す資本財出荷(除く輸送機械)は、1-3月期の前期比が-8.2と大きく崩れた。これで、1-3月期GDPでは、設備投資が相当なマイナス要因となることは避けられない。一応、生産予測では4,5月にV字回復する形だが、季節調整が上手く掛かってない可能性があり、3月に在庫が急増し、先行する機械受注も落ちていることから、当てにならない。輸出と建設投資に続き、設備投資も陥落したのだから、景気は「悪化」しているとしか言いようがない。それは5/13の3月景気動向指数で明らかにされる。

 他方、消費や雇用は、堅調と言われたりするが、GDPに近い消費総合指数の1.2月平均の前期比はマイナス圏にある。3月の商業動態・小売業が前月比+0.2にとどまったことからすると、1-3月期の消費は横バイ程度と考えられ、マイナスになっても、おかしくない。また、雇用についても、3月の完全失業率は2.5%に戻り、一進一退が続く。男性の就業者と雇用者は、1-3月期はマイナスとなった。3月の新規求人は、2.24倍に低下し、頭打ちの状態である。産業別では、製造業はフルタイムでも減り始めている。

 住宅と公共は、1,2月の建設業活動指数の動向からすると、1-3月期は底入れのように見受けられる。ただし、鉱工業出荷の建設財は、1-3月期の前期比が-1.8に落ち、特に土木用は-3.9と著しく、楽観を許さない。住宅については、消費増税前の駆け込みがあっても良い時期なのだが、1-3月期の着工数はマイナスとなった。以上のとおり、内需の状況をまとめるならば、1-3月期GDPで総崩れとなる可能性も否定できない。景気動向指数が「悪化」に移行するとは、こういうことなのである。

 本コラムは、1-3月期のGDPは前期比-0.1と若干のマイナス成長になると予想している。設備投資の激しい落ち込みなど、内需の不調にもかかわらず、ほぼ横バイで済むのは、ひとえに輸入急減のお陰であり、たまたま前期が高かったからだ。輸入減は、輸出と消費の衰えも意味し、喜べるようなものではない。こんな状況にあっても、消費増税ありきの見地からは、さしずめ、「景気は、このところ輸入以外に弱さも見られるが、緩やかに回復している」とでも表現されるのだろうか。

(図)


………
 日本は、GDPの190%にもなる公債等残高と超低金利が同居するため、MMTの理想の地と言われたりするが、こうした財政上の「奇観」は、不況下で財政出動をしても、景気が少し上向くと、すぐさま緊縮をかけ、成長の芽を摘んでしまうという、非常に特異な「摘芽型財政」の繰り返しで生じたものである。リーマンショック後、欧米で似たような長期停滞が見られたのも、早々と財政再建に移った同様の事情による。

 おまけに、日本は、失業率2.5%と、完全雇用に近い人手不足の状態にあり、特に、公定価格で賄われる介護職の高い求人倍率からすれば、就業が保障されているとも言える。しかも、就業が容易な反面、賃金があまり良くなく、結婚したら、「寿退社」して転職せざるを得ないともされ、他業種のバッファー的な位置にある。あたかも、MMTのジョブ・ギャランティが実現しているかのようだ。確かに、これならインフレの心配はなかろう。

 だからと言って、日本人は幸せというわけではあるまい。せっかく、就職難は過去となり、ようやく、賃金が上がり始めたのに、輸出の減少で成長が失速したにもかかわらず、緊縮に加え、消費増税もぶつけてくる。こんな経済運営では、超低金利だけでなく、低物価と低成長、そして、低出生までもが、まだまだ続きそうである。大切なのは、自国の成長の可能性に賭け、必要な需要を算出し、適切にコントロールすることである。


(今日までの日経)
 日米「為替条項」で火花。生産の動き 停滞続く 景気指数悪化の公算。

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4/26の日経

2019年04月26日 | 今日の日経
 景気を先導する輸出と建設が昨年後半から後退を続ける一方、消費と設備投資は好調を保ってきたが、ここに来て、資本財出荷が大きく低下した。3需要の下落に追いつくがごとくの崩れ方である。残る支えは消費ということになるが、どこまでもつか。これから、駆け込み需要が始まり基調が読めなくなってくる。小康で安心していると、増税後の下げがきついかもしれない。増税で消費を圧殺してしまって、どうやって成長させるつもりなのだろう。中国の景気回復に賭け、一蓮托生というわけかね。

(図)



(今日までの日経)
 中国企業、なお回復途上 消費力強さ欠く。韓国、輸出・投資 急ブレーキ。
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子守り互助会の二分法的な経済学

2019年04月21日 | 経済
 困ったときに子守りをし合う互助会を作り、サービスを受けるばかりにならないように、会が利用券を発行して、サービスがなされた都度、受け渡しをするルールとする。この場合、会を円滑に運営するコツは、利用券を実施量より多めに発行することだ。なぜなら、いざというときに備えて、利用券を退蔵しておこうという性向があるからだ。ここで重要なのは、利用券と実施量は、二分される別の存在になるということである。

………
 むろん、以上は、現在の経済が貨幣経済と実体経済に二分されていることの比喩である。運営の難しさは、退蔵の性向が需要の動向によって変化するところだ。企業が需要にリスクを感じ、お金を貯め込み設備投資を抑えると、資本も人材も十分に使われない不合理な状況に陥る。これが不況であり、その処方箋は、財政を使って貨幣を膨らませ、需要を補うことによって、企業の不合理な行動を癒すものである。

 子守り互助会であれば、利用券をより多く配るようにする。券は「無限」に刷ることが可能だし、会の負債と会員の債権は、会計的にバランスしているから、何の問題もないとするのは、MMT的な見方かもしれない。ただし、配り過ぎによる利用の拡大で、子守りの提供者が見つけ難くなり、「券を2倍渡すからウチに」となれば、インフレの発生である。つまり、MMT的な見方の貨幣上の絶対的な正しさと、実体への影響の度合いは別の問題になる。

 MMT的な見方の本当の価値は、財政の無限性やインフレの惹起といった極端にあるのではなく、実施量に対する利用券の倍率は一定以内でなければならないとか、倍率の増大傾向は発散に結びつくゆえに忌避すべきだとか、硬直的な「財政規律」は無益だというところにある。倍率が増大するに従い、管理には細心の注意が必要になるが、退蔵の循環的、あるいは構造的な度合いによって、柔軟に対応すべきなのである。

 結局、経済運営の上のポイントは、利用券を増大させたときに、どれだけ実施量が動くかの見極めになる。ケインジアンが昔から悩んできた財政出動の質と量の問題である。財政の使い方も様々で、法人減税をするのと、貧困層に給付するのでは、需要への影響の度合いが違う。また、急激な執行をすると、消化し切れず、価格上昇を招くばかりになる。そして、見失ってはならないのは、「需要リスクを癒し、合理的行動を導く」という本質である。

………
 リフレ派の失敗は、貨幣を膨張させれば、実体も良くなると、ナイーブに考えたところにある。どのような経路で実体につながるかの政策論が不十分だった。もっとも、金融緩和による円安が飛躍的な輸出増に結びついていたら、成功を収めていたかもしれない。実際は、かつて円高で苦しんだ企業は踊らず、大して輸出が伸びない一方、緊縮財政によって需要を削り取ったから、アベノミクスは、内需が伴わない弱々しいものになった。

 MMT派も、実体へのつながりを政策論として緻密に考えないと、リフレ派と同じ過ちをすることになる。理論的に財政上の問題はないから、政策論は適当で済むものではあるまい。また、実態として、日本の財政は、きつめの緊縮なので、財政規律派とは、緩めの緊縮という政策的妥協をする余地もある。よりマシな政策の実現には、多数派の形成が必要なので、理論的な純化路線を歩んでも、政権トップの心でもつかまない限りは、実現性は乏しくなる。

 しかも、MMT派とて、なぜ財政出動が効くかまで分かっているとは思えない。本質は需要の変動に対する不合理な行動だから、緊縮で需要を抜くと経済のパフォーマンスが悪くなるのと同様、膨らませた需要で行き過ぎた設備投資がなされ、禍根となる場合もある。そうした状況にとどまる観念論は脇に置き、実用的な政策の知見を広めようとするのが本コラムの趣旨である。もっとも、「非正規への育児休業給付を実現するために7000億円の歳出拡大をしよう」といった尖がってない提案は、刺激が求められる政治談義で耳目を集めたりはしないわけだが。


(今日までの日経)
 75歳以上世帯が1/4 2040年推計。増税延期発現、憶測呼ぶ。ベビーシッター予約2倍。経団連、通年採用に移行。「隠れ増税」限界に 保険料増、賃上げ効果4割圧縮。

※金曜に3月の全国のCPIが出たが、サービスの上昇が衰えて来たように見える。ここにも景気後退が及びつつあるのかもしれない。さて、今度の週末は、3月指標の公表だ。1-3月期GDPがプラスで踏みとどまれるか注目だ。

(図)



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4/18の日経

2019年04月18日 | 今日の日経
 昨日、3月貿易統計が公表された。輸出が下げ止まらないというのは深刻で、1-3月期GDPには大きめのマイナス寄与になるだろう。ただし、輸入も、前期の急増の反動もあって、更に大きな減少になるので、差し引き、外需全体では、プラス寄与になる見込である。1-3月期は設備投資が崩れそうだから、あとは消費がどれだけ粘るかだ。輸入がこれだけ減ると、消費や在庫にマイナス要因が出るかもしれない。

 今期の消費は、2月までの動向は、若干のプラスくらいで、賃金が増えている割には鈍い。その要因としては、所得が増えている世帯の偏りがある。これについては、大和総研の是枝俊悟さんが「家計の実質可処分所得の推計(2011~2018年) なぜ、マクロでは実質可処分所得が増加しているのに実感がないのか」(4/12)という、とても良いレポートを出している。こうした動向は、家計調査(勤労者世帯)でもうかがわれるところだ。

(図)



(今日までの日経)
 日米、TPP水準で一致 貿易交渉 農産品関税下げ巡り。対中貿易減速、主要国で続く 3月、日本は9.4%減。日銀、日本株最大株主に。厚生年金加入、70歳以上も。値上げの春 上げるなら今しかない。

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MMT論議と将来世代の負担

2019年04月14日 | 経済
 MMTは、貨幣論としては新しいのかもしれないが、マクロ経済の調整に財政を使う以上、「いつ、何を、どれだけ」という議論は避けられない。これは、古くからケインジアンを悩ませてきた問題である。MMTという新しい理論を用いれば、荒っぽい財政をしても、金融政策で長期金利や為替レートを完全にコントロールできると言うのなら別だが、そうではあるまい。また、ある程度は可能にしても、広くコンセンサスを得るよう、有効に財政を使うのに越したことはない。むろん、それには説明上の工夫もいる。
………

 MMTの前提は、インフレにならない程度に財政を使うというものだが、その物価上昇率が2~3%なのか、もっと高くても良いのか、消費者物価が安定していても、資産価格が高まったらどうするかなど、設定は簡単ではない。これは、失業率や賃金上昇率にも言えることだし、各指標で方向やスピードが揃わないこともある。これらは、理論的に決まるものではなく、状況に応じて、プラグマティクに対処するよりほかない。

 もし、賃金上昇率を高めることで、平等化まで実現しようと思えば、日本の高度成長期のような高い物価上昇率も、覚悟する必要がある。それは、当時でも批判の的だったのてあり、強い政治的な信念がなければ貫けない。中国は、高度成長には成功したが、高い物価上昇率は政治的に危険であり、貧困の削減はできても、平等化を進めるには至らなかった。それに成功した日本とて、田中角栄政権下では、為替と石油という外的ショックに対処し切れず、暴走させてしまっている。

 今の日本の状況であれば、多少、財政出動をしたところで、長期金利が跳ねるとかは、杞憂でしかないが、物価上昇率は鈍いにせよ、既に失業率は低く、賃金は上昇しつつあるから、「既に人手不足の完全雇用にある」とか、「外国人労働者を増やすだけ」といった批判は出るだろう。歳出拡大をするなら、「いつ」はともかく、「何を、どれだけ」は問われる。そして、真の問題は、日本が、地方や社会保険も含む全体で、どのくらい緊縮しているかも計測することなく経済運営をしていて、需要管理をする以前の段階にあることだ。

 しかも、「歳出拡大は社会保障の自然増分5000億円のみ」という単純なルールを敷いた結果、0.8%ほど成長するだけで、歳出増を上回る税収増になり、収支が改善する一方、成長には緊縮のブレーキがかかる構造になっている。おまけに、税収の上ブレを、補正予算によって、そのとき限りのバラマキで還元しがちであり、国の持続可能性を失わせている少子化対策にさえ十分に充てようとしない。歳出圧縮のためなら、経済成長も、社会維持も犠牲にして顧みない病的な状態だ。MMTの下での財政の限界という答の出難い問題に考えを巡らすのも良いが、政策論としては、まずは病の治療に当たるべきかと思う。

………
 昨今、財政赤字というと、「将来世代の負担」になるという一知半解の言説が蔓延するようになった。そんなに気になるんだったら、今の若い世代について、彼らが将来的に受け取る年金を前倒しし、今の時点で給付することで、「乳幼児給付」でも実現してはどうか。自分の年金を若いうちに得るだけだから、誰の負担にもならない。将来の年金は減るかもしれないが、その分、余計に働いて取り戻す道もある。今の高齢者の年金を削って、自分たちの子育てへ回してもらおうと画策するより、遥かに政治的にも倫理的にも楽なはずだ。

 実は、もし、今が人材、資本ともに完全利用の状況にあるとすると、前述のような方法を取ったとしても、将来世代の負担になる。その意味は、「乳幼児給付」で消費が増える一方、それで押し出された投資が減って、将来の生産力が小さくなり、将来の消費が減らざるを得なくなるという点において「負担になる」のである。結局、個々人の会計的な意味と、社会全体の実物的な意味では、「負担」の意味は異なるものなのだ。そのポイントは、ある施策による影響によって、足下の投資が減るかどうかにある。

 今の日本において、「乳幼児給付」を実現したくらいで、長期金利が飛び跳ね、設備投資に悪影響が出るとは、誰も思うまい。むしろ、消費の増加が国内の設備投資を刺激し、逆に伸ばす可能性の方が大きい。しかも、「乳幼児給付」は、結婚確率と出生率を向上させ、将来の労働供給力を強めるとともに、納税者と保険加入者を多くし、財政と公的年金の収支を改善することにもなる。ありていに言えば、ケチるしか能がなく、将来をドブに捨てている日本人に、将来世代の負担にならないという「理屈」をくれてやり、目を覚させようというわけだ。

 財政赤字が将来世代の負担になるか否かは、実物的な意味では、とりあえず、設備投資に悪影響が出るかどうかを考慮し、「パイ」が大きくなるのなら、それで足りる。会計的な意味では、国内で国債を消化する限り、持てる人と持たざる人の扱いをどうするかだけのことである。いわば、貧富の格差の問題であり、「パイ」への請求権の管理だ。問題を小さくするには、利子課税を強め、相続税で回収するようにする。むろん、持てる人をイジメ過ぎて、資金力を振り回されないようにする穏健さも必要だ。しょせん、使うべき時に使わず、退蔵して実質的購買力が損なわれている「カネ」であったとしてもね。


(今日までの日経)
 在庫が隠すBrexit危機。若手・技術者 賃上げ手厚く。外国人材16.5万人増。財政赤字容認、米で論争激しく 異端「MMT」左派・若者が支持。中国の対米輸出1-3月9%減。離脱、10月末まで再延期。勤労者皆保険を提唱・自民PT。機械受注、減少の公算 1~3月。

※1-3月期の機械受注もマイナスになりそうだ。設備投資が衰えているのだから、増税と緊縮で「カネ」を余らせてもしょうがないだろうにね。

(図)


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4/10の日経

2019年04月10日 | 今日の日経
 新元号と新紙幣の公表で、世間は御祝気分だが、3月の景気ウオッチャー、消費者態度指数とも底割れしてしまった。2月に少し戻して、底入れしたかと期待していたのだが残念だよ。景気後退と言っても、今のところ2016年並みではあるが、これでは、3月の消費が心配になる。所得は上向きにあっても、マインドが落ちていて、消費性向が下がっている。食料は10月の消費増税の対象外と安心していたら、先取り的に春の値上げが相次いだ。増税の影響は、早くも始まっているというところかな。

(図)



(今日までの日経)
 新紙幣24年度から、20年ぶり。
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平成の経営から見るマクロ経済

2019年04月07日 | 経済
 伊丹敬之先生の『平成の経営』を読ませてもらったが、実に楽しかったね。基本的な問題意識を切り口に、産業の変遷をたどる「伊丹研究室シリーズ」が好きで、次々と読み継ぎ、一区切りとなったときは寂しく感じたものだった。新著は、平成の30年間における産業の移ろいを俯瞰するのに最良の一冊だろう。その切り口は「疾風に勁草を知る」である。この間、日本の経営は、何を変え、何を変えなかったのか。

………
 伊丹先生の指摘する「疾風」とは、低成長と為替変動である。経営は、これらへの対応を強いられたわけだ。平成の間、日本の実質GDPは、米国が1.9倍になったのに、1.4倍にとどまり、世界経済でのプレゼンスは大きく低下した。また、日本の実効為替レートは上昇傾向をたどりつつ、米、独、韓と比べ、大きく振幅した。この二つへの対応が経営の課題だったのであり、答としての海外生産への適応の差が電機と自動車の明暗を分けた。

 そもそも、なぜ低成長と為替変動が生じたのか。マクロ政策的には、緊縮財政と金融緩和の組み合わせによる。1997年の大規模な緊縮財政のショックによって、日本経済は大幅な需要不足に陥り、そこから少し浮上しようとすると、財政再建を焦る緊縮のブレーキがかかるようになった。成長は、極端な金融緩和による円安での輸出拡大に依存した。そして、低物価と低金利は、他国要因による円高への対応力を失わせてしまったのである。

 こうした経済運営の下での企業経営の答が海外生産であった。それも、単に生産拠点を海外に移すのではなく、技術の蓄積と開発の場として国内生産を維持しつつ、基幹部品の輸出を受容する海外生産拠点を築くことであった。これに最も成功したのが自動車であり、トヨタだった。他方、かつて自動車を上回る基幹産業だった電機は、これに対応しきれずに衰退するはめとなる。

 自動車は国内に「軽」という牙城があったが、電機はスマホに攻め込まれ、リーマン前後の国内需要の変動も、地デジやエコポイントもあり、極めて激しいものだった。また、輸出と現地法人売上の動向も対称的である。リーマン後、輸出が失速して伸び悩んだのは、自動車も電機も同じだったが、自動車が現法で復活したのに対し、電機は低迷を続けた。異次元緩和の空振りは輸出が飛躍したかったゆえだが、自動車は海外で成長を果たしたのである。

………
 伊丹先生は「人本主義」で知られるが、今回の雇用と資本の分析も興味深いものだった。平成の間に非正規雇用が広がり、かつてと同じではないにせよ、基盤は変わっていないとして、米国と比べ緩やかに変動した失業率と、危機に跳ね上がる労働分配率を挙げている。最近、労働分配率の低下が言われるが、平成を通してみれば、危機を抜け、かつての水準に戻ったと見ることもできる。

 また、資本に関しては、2000年代以降、株主分配率が上昇しているけれども、その原資は、実は銀行へ分配が低金利と借入金抑制で大きく下がったことで得られたものとし、従来、配当金は、銀行の利息のように固定的支払いのように考えられてきたとする。そして、ROEと労働分配率は、見事な逆相関があることを指摘し、全体としては、従業員への分配が優先され、株主主権メイン的経営には変わっていないと評価している。

 残される課題は、増えない投資である。伊丹先生は、「設備投資/償却前経常利益比率」が30年間一貫して下落し続けているとする。これでは、低成長になるのは当然で、内部留保が貯まり、自己資本比率も上がる。日本企業は、リスクに慎重になったのである。ただし、これは、マクロ政策の反映でもあろう。国内では、景気が上向くと緊縮であるから、需要に応じて設備投資をする以上、するにしても海外となる。

 国内消費は、いつもの図で示せば、下のとおりで、2014年の消費増税で落ち込んだ水準を取り戻すのに5年近くかかった。これでは、国内需要向けに設備投資せよと言われても無理である。結局、成長は、外需次第、それも直接の製品輸出ではなく、海外生産の伸びに合わせた自社工場への中核部品の供給という形になる。これに成功した自動車が地歩を保ち、電機は没落したのであった。

(図)



………
 伊丹先生の指摘で、改めて感じ入ったのは、海外投資の先である。自動車に言えることだが、米国、中国、アセアンでバランスが取られていると言うのである。それは、政治的なリスクを写すものだ。まさに、トランプ政権からは中核部品を含む現地生産を求められ、中国は貿易摩擦による打撃で需要が急減している。そんな難しい中で、生き残っていかなければならない。「勁草」の自動車と言えど、既に日産と三菱は外資のものとなった。成長より緊縮を優先するマクロ政策の下、日本企業の内需を諦めざるを得ない経営は続く。


(今日までの日経)
 景気指数 「悪化」ひとまず回避。バイトにも賞与・手当。介護保険料、200億円不足 厚労省外郭団体が誤計算。厚生年金、156万人加入漏れ。全世代型社会保障の論点・田中拓道、相馬直子。
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4/4の日経

2019年04月04日 | 今日の日経
 4/1に新元号「令和」とともに、3月日銀短観が発表され、大方の予想どおり、大企業製造業の業況判断は-7の大幅低下となり、更に先行きは-4となっている。非製造業については、大企業が-3となり、中堅・中小はプラスにととまるも、先行きはマイナスだ。全体として、景気後退への危機感が表れていると言えよう。これを背景に、2019年度の設備投資計画の前年度比は、製造業、非製造業ともに、全規模では2017,18年度を下回るスタートとなった。その中で、大企業製造業が高めにあるため、今後の下ブレの心配がある。

 国の税収については、2月分が出て、14か月移動平均は60.2兆円となった。12月までの増収の勢いが失われた形である。野村、日興の3月企業業績見通しも、大きく下方修正されており、2018年度の経常利益の増加率の平均は、12月時点の8.2%から4.8%となっている。最新の本コラムの2018年度税収の予想は60.5兆円であり、12月時点から0.5兆円程少なくなった。その分、緊縮幅は小さくなっているわけだが、景気が陰ると、ブレーキの強さが緩むというだけのことである。

(図)



(今日までの日経)
 若手争奪、攻めの賃上げ。景気警戒域に迫る 3月日銀短観 6年3か月ぶり悪化幅 設備投資は底堅く。ローソン全店 セルフレジ。小売り現場の景況感は? 消費変調 長引く恐れ。
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