経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

MMT論議と将来世代の負担

2019年04月14日 | 経済
 MMTは、貨幣論としては新しいのかもしれないが、マクロ経済の調整に財政を使う以上、「いつ、何を、どれだけ」という議論は避けられない。これは、古くからケインジアンを悩ませてきた問題である。MMTという新しい理論を用いれば、荒っぽい財政をしても、金融政策で長期金利や為替レートを完全にコントロールできると言うのなら別だが、そうではあるまい。また、ある程度は可能にしても、広くコンセンサスを得るよう、有効に財政を使うのに越したことはない。むろん、それには説明上の工夫もいる。
………

 MMTの前提は、インフレにならない程度に財政を使うというものだが、その物価上昇率が2~3%なのか、もっと高くても良いのか、消費者物価が安定していても、資産価格が高まったらどうするかなど、設定は簡単ではない。これは、失業率や賃金上昇率にも言えることだし、各指標で方向やスピードが揃わないこともある。これらは、理論的に決まるものではなく、状況に応じて、プラグマティクに対処するよりほかない。

 もし、賃金上昇率を高めることで、平等化まで実現しようと思えば、日本の高度成長期のような高い物価上昇率も、覚悟する必要がある。それは、当時でも批判の的だったのてあり、強い政治的な信念がなければ貫けない。中国は、高度成長には成功したが、高い物価上昇率は政治的に危険であり、貧困の削減はできても、平等化を進めるには至らなかった。それに成功した日本とて、田中角栄政権下では、為替と石油という外的ショックに対処し切れず、暴走させてしまっている。

 今の日本の状況であれば、多少、財政出動をしたところで、長期金利が跳ねるとかは、杞憂でしかないが、物価上昇率は鈍いにせよ、既に失業率は低く、賃金は上昇しつつあるから、「既に人手不足の完全雇用にある」とか、「外国人労働者を増やすだけ」といった批判は出るだろう。歳出拡大をするなら、「いつ」はともかく、「何を、どれだけ」は問われる。そして、真の問題は、日本が、地方や社会保険も含む全体で、どのくらい緊縮しているかも計測することなく経済運営をしていて、需要管理をする以前の段階にあることだ。

 しかも、「歳出拡大は社会保障の自然増分5000億円のみ」という単純なルールを敷いた結果、0.8%ほど成長するだけで、歳出増を上回る税収増になり、収支が改善する一方、成長には緊縮のブレーキがかかる構造になっている。おまけに、税収の上ブレを、補正予算によって、そのとき限りのバラマキで還元しがちであり、国の持続可能性を失わせている少子化対策にさえ十分に充てようとしない。歳出圧縮のためなら、経済成長も、社会維持も犠牲にして顧みない病的な状態だ。MMTの下での財政の限界という答の出難い問題に考えを巡らすのも良いが、政策論としては、まずは病の治療に当たるべきかと思う。

………
 昨今、財政赤字というと、「将来世代の負担」になるという一知半解の言説が蔓延するようになった。そんなに気になるんだったら、今の若い世代について、彼らが将来的に受け取る年金を前倒しし、今の時点で給付することで、「乳幼児給付」でも実現してはどうか。自分の年金を若いうちに得るだけだから、誰の負担にもならない。将来の年金は減るかもしれないが、その分、余計に働いて取り戻す道もある。今の高齢者の年金を削って、自分たちの子育てへ回してもらおうと画策するより、遥かに政治的にも倫理的にも楽なはずだ。

 実は、もし、今が人材、資本ともに完全利用の状況にあるとすると、前述のような方法を取ったとしても、将来世代の負担になる。その意味は、「乳幼児給付」で消費が増える一方、それで押し出された投資が減って、将来の生産力が小さくなり、将来の消費が減らざるを得なくなるという点において「負担になる」のである。結局、個々人の会計的な意味と、社会全体の実物的な意味では、「負担」の意味は異なるものなのだ。そのポイントは、ある施策による影響によって、足下の投資が減るかどうかにある。

 今の日本において、「乳幼児給付」を実現したくらいで、長期金利が飛び跳ね、設備投資に悪影響が出るとは、誰も思うまい。むしろ、消費の増加が国内の設備投資を刺激し、逆に伸ばす可能性の方が大きい。しかも、「乳幼児給付」は、結婚確率と出生率を向上させ、将来の労働供給力を強めるとともに、納税者と保険加入者を多くし、財政と公的年金の収支を改善することにもなる。ありていに言えば、ケチるしか能がなく、将来をドブに捨てている日本人に、将来世代の負担にならないという「理屈」をくれてやり、目を覚させようというわけだ。

 財政赤字が将来世代の負担になるか否かは、実物的な意味では、とりあえず、設備投資に悪影響が出るかどうかを考慮し、「パイ」が大きくなるのなら、それで足りる。会計的な意味では、国内で国債を消化する限り、持てる人と持たざる人の扱いをどうするかだけのことである。いわば、貧富の格差の問題であり、「パイ」への請求権の管理だ。問題を小さくするには、利子課税を強め、相続税で回収するようにする。むろん、持てる人をイジメ過ぎて、資金力を振り回されないようにする穏健さも必要だ。しょせん、使うべき時に使わず、退蔵して実質的購買力が損なわれている「カネ」であったとしてもね。


(今日までの日経)
 在庫が隠すBrexit危機。若手・技術者 賃上げ手厚く。外国人材16.5万人増。財政赤字容認、米で論争激しく 異端「MMT」左派・若者が支持。中国の対米輸出1-3月9%減。離脱、10月末まで再延期。勤労者皆保険を提唱・自民PT。機械受注、減少の公算 1~3月。

※1-3月期の機械受注もマイナスになりそうだ。設備投資が衰えているのだから、増税と緊縮で「カネ」を余らせてもしょうがないだろうにね。

(図)


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1 コメント

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Unknown (bnm)
2019-04-14 14:17:57
> まずは病の治療に当たるべき

病とはなんでしょう。財源は有限という事実と異なる見解こそが病ではないのですか。その見解があるからこそ、限られた財源への配慮のためなら国民は苦しめられても良い、とされてしまっているのではないですか。そうではないですよ、政府は財源問題などありませんよ、という事実を受け入れることこそが病の治療ではないのですか。

> 「何を、どれだけ」は問われる

当然です。というかそんなのMMTじゃなく筆者さんの従来の反緊縮論だって問われます。MMTだから問われるのだと仰りたいのであればそれは筋違い。
むしろ財源問題という存在しない問題から解き放たれることでようやく「何を、どれだけ」の議論に入れる部分があるかと思いますが。

ちなみにMMTerによる政策論議では、賃金上昇率を高めるとか総需要管理とかそういう発想はしません。「平等化まで実現できない」と仰る通り、そういった発想で改善を図るとあぶれる者が出るし、余分な部分への貨幣供給なども起こるからです。それ故、もっと直接的に国民を豊かにすべく、政府が労働意欲ある者を全員直接雇用することで完全雇用達成と賃金水準の底設定をするJGPという政策が推奨されています。

結局、筆者さんはまだまだ全然MMTについて勉強せず論評しているなあと感じます。おそらく政府日銀や金融機関の国債の扱いについて実際に仕訳してみるとか、そういうこともやってないかと思います。でもそれでは理解するのはなかなか難しいと思いますよ。
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