某クラウドソーシングサービスを見ていたら、「【10記事3900円/1記事800文字以上】恋愛・女子力系/ブログ記事」という仕事があった。
800字というのがどういうボリュームかというと、夏目漱石の「我輩は猫である」で言えば、以下の引用部分に相当する。
どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めて人間というものを見た。しかもあとで聞くとそれは書生という人間中で一番獰悪な種族であったそうだ。この書生というのは時々我々を捕つかまえて煮て食うという話である。しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかった。ただ彼の掌てのひらに載せられてスーと持ち上げられた時何だかフワフワした感じがあったばかりである。掌の上で少し落ちついて書生の顔を見たのがいわゆる人間というものの見始であろう。この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。第一毛をもって装飾されべきはずの顔がつるつるしてまるで薬缶だ。その後猫にもだいぶ逢ったがこんな片輪かたわには一度も出会でくわした事がない。のみならず顔の真中があまりに突起している。そうしてその穴の中から時々ぷうぷうと煙けむりを吹く。どうも咽せぽくて実に弱った。これが人間の飲む煙草というものである事はようやくこの頃知った。
この書生の掌の裏でしばらくはよい心持に坐っておったが、しばらくすると非常な速力で運転し始めた。書生が動くのか自分だけが動くのか分らないが無暗に眼が廻る。胸が悪くなる。到底助からないと思っていると、どさりと音がして眼から火が出た。それまでは記憶しているがあとは何の事やらいくら考え出そうとしても分らない。
ふと気が付いて見ると書生はいない。たくさんおった兄弟が一疋ぴきも見えぬ。肝心の母親さえ姿を隠してしまった。その上今いままでの所とは違って無暗に明るい。眼を明いていられぬくらいだ。はてな何でも容子がおかしいと、のそのそ這はい出して見ると非常に痛い。吾輩は藁わらの上から急に笹原の中へ棄てられたのである。
さて、上のボリュームをこの依頼者は以下の条件で依頼したがっている。
【応募条件】
※何も理由がないのに3日以上連絡がとれなくなる方はご遠慮させて頂いております
・納期を守って頂ける方
ブログのひとつでも運営していれば、「完全オリジナルの800文字以上の記事」の執筆に、いかにテクニックが必要かわかるだろう。
少なくとも30分やそこらで書けるものではない。まして、10本違うテーマで書けというならなおさら。
まともな文章を書く人間なら1本390円では絶対に引き受けない。
ろくに文章を書いてこなかった人間だから、390円などというはした金で請け負うのだ。