2025-04-04

Kyashの件

【重要】6ヶ月以上ご利用のないお客さまへの再利用のお願いについて

この件が予告通り施行されたやつね。

自分アカウントはなぜか停止されていなかった(おそらくお遊びで作られた共有口座に入金があったからだと思うが)(まあ67ポイントしか持ってないので止まっても別に良かった)が、いくつか気になることがあったので調べていた。資金決済に関する法律結構好きなのだ

KyashバリューとKyashマネー

どちらも資金決済法に基づいて提供されるサービスだけど、Kyashバリューは前払式支払手段で、Kyashマネー資金移動業に係るサービス性格が異なる。後者銀行が担っていた業を一部解禁するものであり、前者よりかなり厳格なもの。わかりやすいところで言えば利用者保護のための供託金の額は、前者は未使用残高の50%以上、後者100%以上となるなど保護の度合いが異なる。今回の件では、アカウントが削除されるのでどちらも消滅したこととなった。本記事ではKyashマネーについて記載する。

Kyashにおける「資金決済法に基づく表示」について

資金決済関係問題でまず見たいのは「資金決済法に基づく表示」。

Kyashバリューの資金決済法に基づく表示 ( www.kyash.co/legal/description-subject-to-psa/psa-prepayment ) には以下のように書かれている。

Kyashバリューの有効期限無期限
※6ヶ月以上にわたりバリュアカウントの利用実績(残高変動)がない場合バリュアカウントを閉鎖する場合がございます
バリュアカウント閉鎖に伴い、利用者>保有しているKyashバリューおよび特典等はすべて消滅します。

続いて、Kyashマネー資金決済法に基づく表示 ( www.kyash.co/legal/description-subject-to-psa/psa-transfer ) を見てみる。

6.Kyashマネー有効期限はありません。

9.Kyashマネーアカウントの削除等の理由により、Kyashマネーアカウントが終了した場合には、Kyashマネーアカウント、Kyashマネーアカウント内のKyashマネー、その他これらに関しての利用者権利は、全て、理由を問わず消滅するものします。

と書いてある。9条有効期限関係なくない?と思われるかもしれないが、Kyashマネーアカウント利⽤規約の第24条 (マネーアカウントの閉鎖)の(8)には以下のように書かれていて、

6ヶ⽉以上にわたりマネーアカウントの利⽤実績がない場合

実はめちゃくちゃ関係ある。

Kyashバリューについては、※注釈ではあるものの利用実績基準有効期限も書かれているので、今回の消滅別にいかなと思うが、後者については何のための「資金決済法に基づく表示」なのかなと感じる。利用規約と組み合わせないと読み解くことができないし、そういう状況でありながら有効期限を無期限と書くのはミスリーディングだと思う。

資金決済法に基づく表示」の意義

そもそも資金決済法に基づく表示」を表示する意義に立ち戻って考えてみると、”前払式支払手段”に関する規定ではあるが以下の内閣府令に書いてある。

法第十三条第一項各号に掲げる事項は、前払式支払手段一般に購入し、又は使用する者が読みやすく、理解やすいような用語により、正確に情報提供しなければならない。

これは消費者保護観点、つまり「いちいちサービスを利用するのに利用規約など関連規定を全部読んで理解するのは大変すぎるし、消費者のためにわかやす情報提供しなさい」と解釈している。私もそうあるべきだと思う。ちなみに前払支払手段では、残高に有効期限がある場合はそれも掲載してねという規定がある(なお、これは内閣府令ではなくて資金決済に関する法律13条の3にかかれている)。

下記の資金移動業者に関する内閣府令においても情報提供規定はあるが、「読みやすく、理解やすい」みたいな表現はなくなっている。確かに資金移動業に関する基づく表示を読んでみると、いきなり銀行等が行う為替取引でない宣言など、利用者保護からちょっといかもなあという条文が並んでいると感じる。とはいえ本質的目的としては消費者保護だろうと思う。

資金移動業者に関する内閣府令29条 ( laws.e-gov.go.jp/law/422M60000002004#Mp-Ch_2-At_29 )

なお、前払支払手段と違って資金移動の方には有効期限を書けという規定はないので、書いてないことがまずいわけではない。もちろん各自任意で書いてもいい。

類似サービス規定

続いて同様の資金移動業の残高の規定を見てみる。

楽天キャッシュプレミアム型)

楽天キャッシュには前払式支払手段である「基本型」と資金移動業に係るサービスであるプレミアム型」がある。Kyashマネーアカウント類似するのは「プレミアム」の方。プレミアムの「資金決済法に基づく表示」には有効期限の記載はない。一方、利用規約には以下のような規定がある。

第9条(失効)

サービスの利用により最後楽天キャッシュプレミアム型】又は楽天キャッシュ【基本型】の残高に変動があった日から10年を経過した場合、当該会員の保有する楽天キャッシュプレミアム型】は当然に失効するものとし、現金による払戻し等は行われません。

これをどう評価するかという話になるが、民法においても消滅時効は「権利行使できる時から10年」だから、まあそこまで目くじら立てなくてもいいと個人的には思った。

PayPayマネー

PayPayにも色々ポイントがあって(PayPayマネー,PayPayマネーライト,PayPayポイント)わかりにくいけど、PayPayマネー比較対象になる。

を見ると、

(1)PayPayマネー有効期限はありません。

(3)閉鎖されたPayPayマネーアカウントおよび、ビジネスアカウントにPayPayマネーの残高が残っていた場合には、当該残高は失効するものします。当社は、失効したPayPayマネーの残高に相当する金額の返金を行わないものします。

あっ、これKyashで見たやつだ!となるので、利用規約を見に行ってみる。

「第6条 解除」が該当する条だが、そこには「(4)本規約その他の利用者適用される規約違反した場合」があるので、全体をざっと眺めつつ主要な禁止事項である「第7条 PayPay残高アカウントの利用にあたっての禁止事項」を見るが、最終利用の規定はない。なお「(12)その他当社が不適切判断した行為」とバスケット条項はあるものの、ここに「ポイントの動きが6ヶ月ないこと」みたいな規定が含まれると強弁されたら流石に起こると思うので、最終利用からの残高没収はなさそうと判断した。

他社の規定を見て思ったッス

少しだけ眺めてみても、サービス内で利用するポイントとかではなく、広く開かれた決済に利用するポイントが最終利用から6ヶ月で消えるのは流石に利用するサービスとして選択できないなあというユーザー目線と、強く保護されるべき資金移動業に係る残高が6ヶ月未使用消滅できちゃうのは法律としてそれでいいのか、という気持ちにはなった。

Kyashの利用規約の変遷

資金移動業に係るサービスの残高の有効期限は特に法的な縛りはないので、じゃあ「6ヶ⽉以上にわたりマネーアカウントの利⽤実績がない場合」に停止対象となるという規約がいつから書かれていたのかということが気になったので調べてみた。そしたらちょっと面白い事がわかった。

2022年1月8日のWebArchiveでは、「第28条(利用者に対する本サービス等の利用停止、その他措置等)」には予告なくアカウントの削除などができるとしているが、但し書きとして、「但し、第8号に該当する場合には、本サービス等の利用の停止、中止のみ行います。」と書いてある。そしてその第8号は

(8) 6ヶ月以上にわたりサービス等の利用実績がない場合

という今回の根拠条項が出てくる。つまりこの時点では、最終利用基準没収はやり過ぎと判断されていたと見える。

では、この規定がいつ変わったのかと調べてみると、2022年2月1日のお知らせ

に公開されている「改定利用規約:Kyashマネーアカウント利用規約(旧「Kyash送金サービス利用規約」)」から見れる規定ではもう書き換わっていた(閉鎖に関する規定28から24条に移動している)。そしてこの日のお知らせの「主な改定内容」にはこの変更は含まれていないので、1月8日から2月1日までの間に、改定されたと考えるのが良いと思うが、特にお知らせは出ていなさそうだった…。

  • お知らせ ( www.kyash.co/news/information?bf7a3a99_page=4 )

となると、主な改定内容ではないと判断されたということかな。流石に結構不利益変更になるし周知したほうがいいんじゃないかなあと思うが、ここの法的な是非は私にはわからない。

終わりに

別のことしようと思ってたのにこれに書くのにめっちゃ時間使っちゃった!最悪!!

あと条文とか見落としがあったらごめんなさい。

  • 広く周知するべき

  • 😎「100%を……超えたひずみ………か…」

  • サンキュー増田

  • Kyashマネーは資金移動業に係るサービスで性格が異なる。後者は銀行が担っていた業を一部解禁するものであり、前者よりかなり厳格なもの。わかりやすいところで言えば利用者保護の...

  • 金融庁のガイドラインも見たほうがいいよ 前払式支払手段発行者関係 https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kaisya/05.pdf 資金移動業者関係 https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kaisya/14.pdf

  • 要はポイントカードのポイントを6ヶ月以上有効としたいなら、現金みたいなもんやから、供託してね。 って法律があるわけね。 供託するのが面倒だったり、無理だったら、ポイントの...

  • 「積立金を寝かせて置く余裕のない企業が手を出した」というべきか、「そもそも現金自体を扱うのが目的のサービスだと積立金がどこまでも膨らんでしまうので不適切」と考えるべき...

    • サービス初期のプレミアムが付く時に使われまくったけど、それが終わるとほとんど使わらなくなって、休眠口座ばかりになって、こいつらのために供託金預けてるの馬鹿馬鹿しいから...

  • 新興企業の決済サービスなんて倒産したら実は供託金が保全されてなくて債権回収できませんでしたというパターンあるから大金置かないのは鉄則 今回はメールで事前周知してるし、ユ...

  • 倒産しても利用者に返金できるように資金保全を義務付けているのに、会社が傾いてきたら規約をいじって資金を没収するのを許すのだとすれば、法の規定に抜けがあるとしか言えない...

  • noteの投げ銭は資金移動にあたるのでは? おまえこれかいたやつだろ

  • いつも長文を書いている人はどれだけ時間をかけているんだろうかねえ。仕事中にwww

  • anond:20250404010054 ブコメをみたら注目コメントのトップが誤解を招きそうな表現だったので補足しておきます。なお、今回書いているのは「前払式支払手段(Kyashバリュー)」の話で、「資金...

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