「オレもしつこいけど、あんたも相当にしつこいなあ、まだついてくるかぁ?」 ある落語家さんに、うんざり苦笑されるくらい取材でついてまわったことがあった。福笑いのような顔の奥にある本心というか、正体を掴みあぐねていたのもあるが、いま思えば、側にいると、いろいろと学べることが多く、離れがたかったからだ。 彼がテレビの寄席番組に出るとなると、弟子が数人、必ずついてきた。世話をやかれるというよりも、むしろ逆。出番までのすごしかた、共演者への挨拶から、気働きの仕方まで、現場でしか身につかない作法を、ひとつひとつ教えていた。 「なにも弟子つれて威張りたいわけじゃないですよ。これも勉強なんです」 と語っていたが、年齢を重ねるほど、その意味がわかってくるようになった。礼儀作法はもちろん、師匠のまわりにはいろんな人がやってくる。人間を見ろということでもある。そうでなければ、落語の登場人物を幾通りにも演じるなど