政府の「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」は簡単にいうと二つの構成要素からなっている。一つは残業時間の上限規制の強化、そしてもう一つは裁量労働制の拡大である。 政府が労働時間に介入することの正当化は、通常の経済学ではかなり例外的なものととらえられる。だが私はこのブログや自分の著作・論文の中でも常に書いてきたように、新古典派的な労働経済学の発想には反対である。通常の新古典派的な労働経済学では労働者と資本家(雇用者)は対等の交渉相手として設定されるのが「標準」である。だが実際には労使の交渉上の地歩は異なり、労働者よりも資本家(雇用者)の方が交渉力は上である。このようないわば「権力」の差異があれば、労働者の働く位置は生存水準ぎりぎりの労働時間(余暇)と報酬の組み合わせに落ち込む可能性がある。このような労働市場観は経済学の歴史の中で常に存在してきたし、また実際の社会政策や