タマは近所の猫である。ムギとクロという二匹の同居猫と一緒に暮らしている。緑がかった灰色の目の、非対称のハチワレの、小柄で静かな猫である。夕刻になると、白髪をゆるやかに編んだ、緑がかった琥珀の瞳の、どことなくタマに似た女性が、猫たちに家の中から延びるリードをつけて引き戸をあける。すると猫たちは建物の外の線状の敷地に出てしばらく過ごす。敷地と道路の境目はあいまいで、道路には車通りがほどんどない。 わたしは犬を飼っている。四歳の雌の柴犬である。タマ家の前はこの犬の散歩エリアに含まれる。ひとつの散歩コースを好む犬も多いと聞くが、わたしの犬にはまったくそのような性質がなく、わたしがコースを決める日以外の散歩では、自宅から直径五キロ範囲の道路を制覇するかのように毎日ルートを変える。その中にタマ家の前の道路がある。わたしの都合で猫たちが出てくる夕刻に散歩する日は少ないのだが、犬はその機会をのがさず「今日