● もう一つの古事記の説話 ● 昔、勢夜陀多良比売(せやだたらひめ)という美女がいた。 「そんなに美人なのか」 うわさを聞きつけた大物主神が見にいってみると、うわさ以上であった。 「おお、すごすぎる!」 大物主神は勢夜陀多良比売に一目ぼれした。夢中になった。なんとか彼女が外へ出たときを見計らって声をかけようと試みた。 でも彼女、かなりの出不精のようで、トイレのときしか外出しなかった。しかも用がすめば、すぐに家の中に引っ込んでしまうのである。 これでは声をかけるチャンスがない。用を足している最中しか、チャンスがない。 「まさか最中に声をかけるわけには……」 はじめはそう思ったであろうが、ほかに機会がないので、強硬手段に出るしかなかった。 「それにしても、どうやって声をかけようか」 大物主神は考えた。いいことを思いついた。 赤い矢に化けると、勢夜陀多良比売が用を足しに来る頃を見計らって川の上流