レファレンスと研究の関係性:『近代出版研究』創刊 近代出版研究所・小林昌樹(こばやしまさき) 筆者の主宰する近代出版研究所は,2022年3月に近代の日本書籍についての論集『近代出版研究』を創刊した。その経緯については既に『日本の古本屋』メールマガジン2022年4月25日号で読書人向けに述べたが,ここでは研究所設立や『近代出版研究』創刊の経緯について図書館情報学的に説明する。 ●それはレファレンス・カウンターで始まった 筆者は1992年に国立国会図書館(NDL)へ「入館」――NDLでは他省で「入省」という場面をこう呼ぶ――したが,奇禍により入館15年目にしてようやく志望だった一般向けレファレンス部門に異動できた。そこでカウンターに出てわかったのだが,ある種の質問は「答えがないのが答え」ということがある(もちろんベテランがきちんと調べたうえでの話)。その手の質問に,特定タイトルの逐次刊行物や単
郷土(地域史)、民俗学、考古学を研究、これらに関する史料を蒐集していた人物が掲載されている名簿は昭和前期までに発行されたいくつか発行されており、これらの名簿は昭和前期に発展途上であった郷土(地域史)、民俗学、考古学を調べるうえで貴重な資料になっている。特に、これらの分野で研究、蒐集を行っていたよく分からない人物(無名の在野研究者、例えば以下のような人物)を調べようとしている私にとっては欠かせないものである。これらの名簿から経歴、関心を持っていた分野、著作などが分かる場合もある。 この度在庫が完売した『昭和前期蒐書家リスト 趣味人・在野研究者・学者4500人』(トム・リバーフィールドさん編集、2019年)(注1)の書物蔵さんの解説によると、昭和前期に発行された郷土研究者の名簿には以下があるという。 『郷土史研究者名簿』(京都帝国大農学部農林経済学科農史研究室編、1928年) 『郷土研究家名簿
*1 メディアが英雄を作り出す手癖、というのがあります。 英雄、というのが大げさならば、うっかりとあらぬところに人を祭り上げてしまうからくり、とでも言い換えてもいいでしょう。 何も今に限ったこっちゃない。人が言葉と意味の動物であることを始めた昔から、あらゆる英雄は語られる存在としてあり続けてきました。それはマスメディアの濃密に張りめぐらされた〈もうひとつの自然〉となったいまどきの情報環境に生きるあたしたちとて、例外ではない。 かくいう立花隆センセイも、今やそういう同時代の英雄のひとりです。 なにせ、「知の巨人」であります。政治から先端科学までを手あたり次第に網羅する何でもありな好奇心に、それを支える日々倦むことなきものすごい読書量を誇る日本屈指のおベンキョ屋。この世知辛いご時世に筆一本であっぱれおっ立てた自前の鉛筆ビルは壁一面に黒猫の顔をあしらったファンシーなもので、中身はあまたの書物と資
めずらしく市販のエッセー集に参加しました。8月27日に発売となるので告知を兼ねてここに経緯を書いておきます。 ■本の全体 去年、ライターの南陀楼綾繁さんに会った時に、〈本の本〉に参加してよ、と言われて、いいですよと言ったら『本のリストの本』とのこと。 「本の本でもややこしいのに、本のリストの本とは?」 当初、「要するに、書誌についいての解題書誌なのね」と単純に考えていたんですが――というのも〈書誌の書誌〉というジャンルが図書館学にあるので――出版企画書には「アカデミックな内容ではなく、普通の本好きが読んで面白いこと」とありました。一緒に送られてきた画家の林哲夫さんが書いた原稿を読んだら「あゝ、なるほどぉ……」。 今回の本は、世にも珍しい文献リストについての/にちなんだエッセーなのでした。それは既存の文献リストについての考えや経験談、文献への言及が散りばめられた文学作品の感想だったり、自分で
明治大学図書館では、発禁本コレクター・城市郎氏の旧蔵資料目録「城市郎文庫目録」を2017年に刊行しました。 今回行われるギャラリー展示では、特色あるコレクションとして位置づけられる城市郎文庫所蔵資料の中から、戦前の出版検閲により発売禁止などの処分を受けた貴重な資料や、戦後の刑法175条(猥褻文書関係)により摘発された資料などを展示。 「出版検閲の歴史や概要を広く理解できる機会を提供したい」としています。 また、展示に関連する記念講演会も開催。城市郎氏の活動を振り返りながら、コレクションの意義を広く伝える場を設けます。 ギャラリー展示開催情報 <展示会名> 中央図書館ギャラリー展示「城市郎文庫展―出版検閲とその処分」 <会期> 2019年10月18日(金)~11月17日(日) <時間> 中央図書館の開館時間に準じる <休館日> 10月29日(火)、11月1日(金)、5日(火) <会場> 明治
一昨年文庫櫂で『民俗の風景』2巻1号(朝日書房、昭和10年1月。以下「本誌」という)なる雑誌を発見。表紙に霊感透視家山本精一郎主宰というアヤシゲな表記があるので購入。32頁。昭和9年8月創刊の『古典風俗』を改題したようだ。目次の一部をあげると、 山村に残る古典風景 三田克彦 現代に於ける太古の遺風(二) 山本精一郎随筆集 とはずがたり(二) 松本晩翠 播磨の国の民謡二三 島田清 桃太郎の誕生 福田圭 山本氏の霊感に就いて 吉田晴風 民俗後記 山本の「現代に於ける太古の遺風」は『信仰と民俗』(朝日書房、昭和10年3月)に収録されている。そこでも山本の肩書きは霊感透視家である。なお、松本の「とはずがたり」も収録されているので、松本は山本の別名と思われる(追記:松本幹一(号晩翠)に『とはずがたり』(泰山房、大正6年)があるので、別人のようだ)。 霊感透視家山本の経歴は不詳。霊界廓清同志会編『破邪
稲岡さんは怖かった。都立中央図書館特別文庫室の受付で相好崩さず終始作業に集中している姿に、まだぺいぺいのころの私は近寄りがたい威圧感を覚えていた。「なぜ役人附ばかり見ているのか」と突然声を掛けられた時など私の何かがきゅっと縮んだ。これは稲岡さんの論文を読んでしまっていたことが大きい。「金港堂小史―社史のない出版社『史』の試み」は衝撃であった。近代出版史における教科書出版の重要性を初めて具体例を以て説得的に示した画期的な大論文である。透徹した見通しの下、徹底した資料収集とそれらを駆使した論の盤石たること、そして先行研究をバッサリ切り伏せる筆の切れ味、対象とする時代や分野は異なっていたものの、同様に出版史研究を志す私をびびらせていたのである。その後も若輩を縮み上がらせるような論文を精力的に執筆し続け、今なお近代出版史研究の最先端としてこの分野を牽引している。今回上梓の一冊は、今後も揺るぎない指
公共図書館は,日本中どこにでもありよく使われている施設です。おおぜいの人が利用してその恩恵を受けている一方,ベストセラーを大量に貸し出して出版社の利益を損なっていると,作家や出版社からたびたび非難されてきました。最近では,書店が運営する図書館が大賑わいを見せています。ん?書店が図書館を運営? そもそも,どうして自治体は公費で本を買い上げて無料で住民に貸すようなことをするようになったのでしょうか。公共図書館はどのようにしていまのような運営のし方や利用のされ方になったのでしょうか。 本書は,わが国の公共図書館の歩みを,利用者,本棚,出版界との関係,図書館員,カウンターといった多様な観点からたどり,それぞれ,最初の頃はどうだったのか,それがどのような経緯で現在のようになったのかを探っています。根底にあるのは上記の疑問で,歴史から現在とはずいぶん違った図書館の姿が見えてきます。私たちは本書を通じ,
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