酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

涙目のモリッシー~「25ライブ」で愛を告白

2013-12-01 19:02:16 | 音楽
 石破茂自民党幹事長が、狼の本性を現す。特定秘密保護法に反対するデモ(議員会館周辺)について、<大音量の抗議はテロと変わらない>(要旨)と自身のブログに記した。権力の暴力は許されるが、国民の抵抗はテロと見做す……。これが悪法を主導する側の本音なのだ。

 「ロッキンオン」HPで渋谷陽一氏のブログ「社長はつらいよ」を読むのが楽しみだ。秘密保護法に疑義を呈する同氏は、<ロックは積極的に社会に問いかけるべき>という信念を持っており、反原発フェスを主催している。

 同誌HPで頻繁に登場するのがモリッシーだ。最近ではベストセラー1位を獲得した自伝、ルー・リードとのツーショットなど、常に話題を提供している。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンなどラディカルを除いて民主党ベッタリの米ロッカーと対照的に、反骨精神に溢れるモリッシーは英国の政治や王室を抵抗者の視点でぶった斬る。

 先月末に発売されたDVD「モリッシー25ライブ」を購入した。ステイプルズセンターで大観衆を前に演奏した翌日、ハリウッドハイスクールで行われたプレミアムギグを収録した作品で、日本語訳付きの国内盤でモリッシーの世界を堪能する。

 1984年春、バンド名を冠したスミスの1stアルバムに針を落とした。スローテンポの♯1「リール・アラウンド・ザ・ファウンテイン」が流れた瞬間、部屋の空気が変わる。同作は俺にとっての麻薬になり、レコードが擦り切れるまで〝スミスワールド〟に浸った。<20年ぶりの衝撃=ビートルズ以来>の国内盤の帯は大げさではなく、スミスはNME誌で<20世紀で最も影響力のあるバンド>に選ばれた。

 80年代は現在と異なり、スミスのライブ映像に触れることはなかった。モリッシーのパフォーマンスを初めて見たのはWOWOWがオンエアしたロンドンでのライブである。少年少女がステージに上がり、恭しくモリッシーに触れて感極まった表情を浮かべていた。驚いたのは「ライブ・イン・ダラス」(93年)で、お行儀のいい英国ファンと異なり、乱暴なアメリカンキッズは大勢でステージに突進し、公演が打ち切られてジ・エンドだ。

 モリッシーは神性を帯びた存在で、接近することがファンにとって救いと赦しになる。経緯を知らず本作を見た人は、カルトの集会をイメージするかもしれない。一つのバンドにこだわらないスキゾの俺は違和感を覚える点もあるが、「スミス&モリッシー絶対」のパラノは多い。だからこそ、スミス解散時(87年)、ファンの後追い自殺が社会現象になったのだ。

 本作にも収録されているが、俺にとってソロ以降のツインピークスは「モンスターが生まれる11月」と「エブリデイ・イズ・ライク・サンデー」だ。「モンスター――」は自身を<誰にも愛されない社会的不適応者>と称したモリッシーにとって解放の曲であり、「エブリデイ――」はジュリアン・バーンズが「終わりの感覚」で取り上げている。棘ある知性を言葉に込めるモリッシーは、英国を代表する作家のお気に入りに違いない。

 「ロッキンオン」HPにアップされている粉川しのさんのレビュー(「モリッシーの求愛」)は秀逸だった。崇められ、求められているモリッシーだが、本作では「アイ・ラブ・ユー」を繰り返す。その目は終始、潤んでいるように思えた。

 スミス時代の曲も演奏されるが、「ミート・イズ・マーダー」と並ぶハイライトは、アンコールの「心に茨を持つ少年」で9歳の少年を抱えるシーンだ。中盤に伏線があり、計算ずくの可能性もあるが、歴史的名演に彩りを添える。終演後、あるファンは「エルビスやシナトラの最高のショーとともに語り継がれるだろう」と洩らしていた。

 「モンスター――」の最後で、醜い少年(=モリッシー)は街に出る。導いたのはジョニー・マーだが、二人は数年後に訣別する。ロック史に残る〝男たちの悲恋〟だが、神話復活を願う動きがある。コーチェラの主催者は毎年、スミス再結成を持ち掛け、モリッシーがやんわり断るのがお約束になっている。

 溝を埋めるのは困難と思えるモリッシーとマーだが、希望が生じてきた。キャメロン英国首相が「スミスの大ファン」と広言するや、両者は軌を一にして忌憚なき攻撃を開始した。日本でいえば安倍首相が「辺見庸の愛読者」と告白するようなミスマッチで、英国では失笑の対象になった。

 モリッシーだけでなく、マーもまた「ハウ・スーン・イズ・ナウ」などスミス時代の曲をセットリストに載せている。意外にうまいのに驚いた。世界中のロックファンは、モリッシーとマーの再会を心から願っている。
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