一昨日(28日)、紀伊國屋ホールで開催された古賀茂明氏の講演会<「原発ゼロ」のリアル>に足を運んだ。自身のメルマガを編集した「原発の倫理学」(講談社)の刊行記念イベントである。他の原発関連の講演会と異なり、客席には背広姿のサラリーマンの姿が目立っていた。
配布された「古賀氏への質問書」に原発以外の内容が多かったこともあり、古賀氏は安倍首相の靖国参拝、特定秘密保護法について持論を展開する。長過ぎる〝枕〟に違和感を覚えた人もいたはずだが、「脱原発の思いは『原発の倫理学』で」が古賀氏の判断だったと思う。
堅物というイメージはたちまち覆された。古賀氏はユーモアに溢れた語り口で聴衆を魅了するエンターテイナーで、反骨精神が顔を覗かせる。外務省に出向し南アフリカに赴任した80年代後半、古賀氏はANC(マンデラがリーダー)など、テロリストと報道されていた組織とも極秘に折衝する。日本では否定され、先進国では当然とされる二重外交を実践したのだ。
マンデラの解放直後の演説に、古賀氏は衝撃を受けたという。「先立ってベルリンの壁が崩壊しました」が第一声だったからである。獄中で27年暮らしたマンデラは私憤や感情を一切語らなかった。時空の壁を易々と超え、現実を正しく把握していたマンデラの対極に位置付けたのが安倍首相である。
官庁の体質、脱原発と護憲を軸にしたリベラル結集への思いなど示唆に富んだ内容だった。書き尽くせない部分は、「原発の倫理学」を紹介する稿で併せて記したい。
日比谷で昨日(29日)、「鑑定士 顔のない依頼人」(13年、ジュゼッペ・トルナトーレ監督)を見た。都心の上映館は毎回ソールドアウトの状況で、人気に相応しい至高のミステリーである。前々稿に記した'13ベスト10、いやベスト3にも匹敵する作品だった。ご覧になる方の興趣を削がぬよう、手短に記したい。
主人公のヴァージル・オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)は超一流の鑑定士であり、同時に競売人でもある。その名が暗示するように、老いたヴァージルに女性経験がない。地下室に所蔵する膨大な絵のコレクションはすべて女性の肖像画で、ヴァージルは生身ではない女性に囲まれ、陶然とした表情を浮かべている。
俺は鑑定や競売の仕組みは知らないが、ヴァージルは決して高潔ではない。相棒のビリー(ドナルド・サザーランド)と組み、自身が仕切る競売で巧みに利益を得ているからだ。名誉と地位、そして恐らく数十億の富を手に入れたヴァージルに、資産家令嬢のクレアから依頼が舞い込んだ。両親が遺した美術品を鑑定してほしいという。
ヴァージルは屋敷に足を運ぶが、クレアは姿を見せない。タイトル通り〝顔のない依頼人〟なのだ。ヴァージルは鑑定に取り組みながら、あちこちに散乱しているオートマタの部品を収集し、ロバート(ジム・スタージェス)が経営する工房に持ち込んだ。ロバートはオートマタを復元しつつ、シャイな老人に恋の手ほどきをする。
キーになる台詞は「贋作者は必ず痕跡を残す」、そして「愛までも偽装は可能」……。書けるのはここまでで、2度目、3度目の観賞後、見落としていた痕跡に気付くこともあるはずだ。細部にまで工夫が施された、知的で残酷なトリックといえるだろう。
エンドマークの後、自らの来し方に思いを馳せた。愛だけでなく、誠実も情熱も確かに偽装不能ではない。華麗でも壮大でも悲劇的でもロマンチックでもないが、俺もまた、偽り続けてこの世を渡ってきたのだ。
これから京都に帰り、東京には2日夜に戻る予定。この一年、書き殴りの戯言にお付き合いいただいてありがとう。よいお年をお迎えください。
配布された「古賀氏への質問書」に原発以外の内容が多かったこともあり、古賀氏は安倍首相の靖国参拝、特定秘密保護法について持論を展開する。長過ぎる〝枕〟に違和感を覚えた人もいたはずだが、「脱原発の思いは『原発の倫理学』で」が古賀氏の判断だったと思う。
堅物というイメージはたちまち覆された。古賀氏はユーモアに溢れた語り口で聴衆を魅了するエンターテイナーで、反骨精神が顔を覗かせる。外務省に出向し南アフリカに赴任した80年代後半、古賀氏はANC(マンデラがリーダー)など、テロリストと報道されていた組織とも極秘に折衝する。日本では否定され、先進国では当然とされる二重外交を実践したのだ。
マンデラの解放直後の演説に、古賀氏は衝撃を受けたという。「先立ってベルリンの壁が崩壊しました」が第一声だったからである。獄中で27年暮らしたマンデラは私憤や感情を一切語らなかった。時空の壁を易々と超え、現実を正しく把握していたマンデラの対極に位置付けたのが安倍首相である。
官庁の体質、脱原発と護憲を軸にしたリベラル結集への思いなど示唆に富んだ内容だった。書き尽くせない部分は、「原発の倫理学」を紹介する稿で併せて記したい。
日比谷で昨日(29日)、「鑑定士 顔のない依頼人」(13年、ジュゼッペ・トルナトーレ監督)を見た。都心の上映館は毎回ソールドアウトの状況で、人気に相応しい至高のミステリーである。前々稿に記した'13ベスト10、いやベスト3にも匹敵する作品だった。ご覧になる方の興趣を削がぬよう、手短に記したい。
主人公のヴァージル・オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)は超一流の鑑定士であり、同時に競売人でもある。その名が暗示するように、老いたヴァージルに女性経験がない。地下室に所蔵する膨大な絵のコレクションはすべて女性の肖像画で、ヴァージルは生身ではない女性に囲まれ、陶然とした表情を浮かべている。
俺は鑑定や競売の仕組みは知らないが、ヴァージルは決して高潔ではない。相棒のビリー(ドナルド・サザーランド)と組み、自身が仕切る競売で巧みに利益を得ているからだ。名誉と地位、そして恐らく数十億の富を手に入れたヴァージルに、資産家令嬢のクレアから依頼が舞い込んだ。両親が遺した美術品を鑑定してほしいという。
ヴァージルは屋敷に足を運ぶが、クレアは姿を見せない。タイトル通り〝顔のない依頼人〟なのだ。ヴァージルは鑑定に取り組みながら、あちこちに散乱しているオートマタの部品を収集し、ロバート(ジム・スタージェス)が経営する工房に持ち込んだ。ロバートはオートマタを復元しつつ、シャイな老人に恋の手ほどきをする。
キーになる台詞は「贋作者は必ず痕跡を残す」、そして「愛までも偽装は可能」……。書けるのはここまでで、2度目、3度目の観賞後、見落としていた痕跡に気付くこともあるはずだ。細部にまで工夫が施された、知的で残酷なトリックといえるだろう。
エンドマークの後、自らの来し方に思いを馳せた。愛だけでなく、誠実も情熱も確かに偽装不能ではない。華麗でも壮大でも悲劇的でもロマンチックでもないが、俺もまた、偽り続けてこの世を渡ってきたのだ。
これから京都に帰り、東京には2日夜に戻る予定。この一年、書き殴りの戯言にお付き合いいただいてありがとう。よいお年をお迎えください。