人のためにやってるんじゃなくて、歌うためにやってる──“仇児”(ILL KID)、KMCが仲間と文鳥と目指す新作
小細工の無いリリック。常に挑む側のスタンス。明日を捨てたようなシャウト。10年以上、マイクだけを握り不器用なまでにブチかまそうとするKMCは、明らかに過小評価されたMCのひとりです。イベントで他のラッパー達と並ぶと、そのライヴは余計に際立ちます。無名のころから共に活動してきたSTUTSがフジロックでKMCとの曲を披露するのも、彼のパフォーマンス力を信頼している証でしょう。
素晴らしいのはライヴのみではありません。東京のシーンに着の身着のまま挑むようなファースト『東京WALKING』(2010年)。弱気になる自分の頬を叩くような『KMC!KMC!KMC!』(2015年)。この2作品はいま聴いても胸に刺さる言葉、トレンドに左右されないタイムレスなビートが詰まっています。そんな素晴らしいアルバムを出し、長いブランクがあった彼。やっと3rdアルバム『ILL KID』をクラウドファンディングという形で告知したことで、満を持してインタヴューを申し込みました。
今年に入り久々のEP『BLACK RAIN』の、いままでと変わったリリックが気になっていたファンも多いのではないでしょうか。そして文鳥の“寅”を飼い始めるまでに、胸を締め付けるようなエピソードがあったとは。どこか平成初期の空気を漂わせているこの男、応援せずにはいられないだろ!!
3rdアルバム『ILL KID』のリリースとリリース・パーティーの開催を目指すクラウドファンディングはこちらから! (2021年11月11日まで)
https://camp-fire.jp/projects/view/468037
INTERVIEW : KMC
インタヴュー、文 : 斎井直史
焦って出してもスベるだろなと思った
──CAMPFIREのページでは毎日の活動報告が更新されていますが、日に日にお忙しくなってきてるようですね!
そうですねぇ。勝手に活動報告を毎日上げて。報告を細かく上げてる企画も少ないんで。
──始まったものの、その後の音沙汰も無いクラウドファンディングって確かにありますよね。
そういうの、やっぱありますよねぇ? よくないっすよねぇ(笑)。
──今年1月にEP『BLACK RAIN』を出して、こんなに間を空けないリリースはKMCにとって珍しいのですが、なにがきっかけなんですか?
本当は『ILL KID』をコロナの前に出したかったんですよ。でも世の中が大変になっちゃってるのに、焦って出してもスベるだろなと思って、一旦保留したんですね。そのかわり、ステイホームの間に30曲くらい書き貯めてたんで、それをまとめたのが『BLACK RAIN』でしたね。
──そのEPとは違い、『ILL KID』でクラウドファンディングに挑戦してみた理由はなんですか?
『BLACK RAIN』は現時点で配信のみだけど、アルバムはちゃんとしたパッケージで出したいなと思ったんで、録音もちゃんとしたスタジオに頼みたいなって思うと、先にまとまった金額が必要になるんですよね。まあ、ちょっと不安というか、気が重いっていうのはあって。でもやるしかねぇし、レコーディングも済ませたんですけど、次はマスタリングにミックスに色々と金がかかるなぁと、気が重いままだったんですよね。金にずっと頭を悩ませてたんですけど、ふとクラファンのことが頭をよぎったんですよ。考えてみたら曲ならめっちゃあるし、良いリターンも出せるんじゃねぇかと思ったら、どんどんリターンのアイデアが湧いてきて。それでSYMBOL(KMCによるバンド)の山下”ロッキー”貴大が〈下北沢LIVE HAUS〉で働いてるんですけど、あそこはクラファンで1000万円を募集して1200万円を集めたんですよ。それでどんなものか聞いてみようかなと。そしたらクラファンの人も紹介してもらえて、やってみようということになってからは、とりあえず制作費の目処は立ったので、発売してから回収するより、よっぽど気が楽になりましたね。
──ページや紹介文を拝見すると、クラファンはスタートするのが大変そうだなって思うんですけど、どうでしたか?
俺はそんな大変じゃなかったです。
──ジャケもクラファンを立ち上げるころにはあったんですか?
あれはクラファンをやるならジャケを先に出しちゃったほうがいいんじゃないかと。それでジャケのTシャツを出そうという。
──実は、個人的にあのTシャツが欲しくて、様子見をせずに即買ったんですよ!
おー! 熱い! マジっすか!
──浮世絵風のデザインをKOUHEI BOYさんへ依頼されたとのことですが、なぜ今回浮世絵なんですか?
え! なんでって言っても、なんとなくですね!
──『ILL KID』を聴いて“昔気質でも時代に迎合しない男”を感じたのですが、そこから着想を得て浮世絵にしたのかなって推測してしまいましたけども(笑)。
そこまで考えてないっすね(笑)! まあ浮世絵のが威勢が良いんじゃないだろうかっていう。
──そうですか(笑)。ILL KIDの当て字で“仇をなす子供”と書く“仇児”も最高です。近年の曲を聴くと、「病んでいる世の中からすれば、真っ当な俺が敵のように思えるだろうな!」というメッセージを勝手に感じてしまいました。
そこまで自分で考えているかどうか自分でも謎ですけど、そういうのはあるっすね。
──実は、それを一番感じたのは“What's Going On”なんですよ。あの曲を『BLACK RAIN』の収録しようとは思わなかったんですか?
そのときはまだ作ってなかったです。あれはNetflixのMotownのドキュメンタリー『Hitsville: The Making Of Motown』(邦題:メイキング・オブ・モータウン)を観てからマーヴィン・ゲイの“What's Going On”を改めて聴くと、この曲やっぱめちゃくちゃカッコいいからKMCのを作ろうと思って作った曲なんで(笑)。『BLACK RAIN』を経て2020年、2021年と自分が感じたことを、コロナとか抜きにして、出来るかわらかないけど書こうとおもったんで、うまく言葉にできているか謎なんですよ。
──そうなんですか。“What's Going On”はストレートに伝わってくるリリックですよ。じゃあ結構サクッと書けたんですか。
そうですね。一筆書きですよ。
──『ILL KID』に“What's Going On”は収録されるんですか?
いや、入れないですよ。リターンのミックスCD『AFTER SHOCK』には入れますけど、『ILL KID』には他の曲が入る余地がもう無いですね。
──ちなみに『ILL KID』でのリード曲を挙げるならば?
まず“ILL KID”でしょ。あとOMSBとやった曲とか。
──それはまだ聴かせていただいてないので楽しみです。ちなみに5曲を先に聞かせていただいたなかで、Yasuyuki Sugawara(ecke/SYMBOL)との曲でアルバムが終わるのかなと予想しましたが、どうですか?
いや中盤ですよ。A面B面でいえば、B面の2曲目くらいです。もっと後半に来る曲はめちゃくちゃあります!
──そうなんですか! あの曲のイントロでは料理をしてる音が入って、昔のテレビのことを思い返す曲じゃないですか。そうして昔を懐かしんでアルバムが終わるっていう流れをイメージしていました。
いや、あの音はサンプリングしたときに入っていた音ですよ。映画の『ボヘミアン・ラプソディ』を観て、誰もがラジオに夢中だったころを歌う“Radio Ga Ga”がめっちゃいい曲だなって思って、『ごっつええ感じ』とかに夢中だったKMCヴァージョンをつくったのがその曲なんで。
──純粋にテレビの歌なんですか! いまを憂う結果、昔を爽やかに振り返る曲かと思ったんです(笑)。
そんなんじゃないですよ(笑)! いまのテレビは完全に終わってるなってのはあるけど、昔の俺が幼少のときに観てたバカ殿とかのがテレビに死ぬかと思うほど笑わされて、ぶっ殺されかけましたからね! それが自分のルーツだし、ちいさいころに観てたテレビのおかげでどれだけ楽しい思いをさせてもらったか、わからない。笑いと涙を届けてくれてたなって思いましたね。