これは“純経済”を“超自然”と言い替えるなら摂理の内といえる。
経営はナマモノというけれど、保全しなくてもいい生物をレッドリストに入れたりはしないからだ。
人間社会は感傷的に動くことも多いが、そこらへんは割とドライだったりする。
そして、こういった事業の栄枯盛衰、その理由は普遍的かつ単純だ。
それ以上の真理はない。
なのに“それ以上”を求める人は後を絶たない。
色んな場所で、色んな肩書きの人たちが、色んな横文字で語ってやろうと躍起になっている。
丁半博打に、何面のサイコロを何個使うか思考を巡らせているんだ。
有形無形によらず、需要があるところにリソースを割いて供給する。
その点において彼らのやっていることは生産的だし、立派にビジネスとして成立しているといえよう。
だから場末のビデオ屋が未だに残り続けて、そこで俺がバイトをしているのなら、何らかの生存戦略が功を奏しているってことだ。
もちろん「少なくとも」、「今のところは」という但し書きはつくが。
じゃあ、具体的に何をしているかというと、やるべきことは大きく分けて二つだ。
ひとつは大型チェーン店やVODが対応しきれない作品を、臨機応変に取り扱うこと。
「どのクリスマスストーリーだ? モノによっては取り寄せないと」
「……えー、全部らしいです」
「分かった」
「分かったんですか」
このビデオ屋で働く従業員は映画通が多く、まるで友達のように作品について語り合うことができる。
「ラストで独楽が回り続けているどうかで議論している奴がいるが、何にも分かっちゃいないよな」
「その通り。どちらにしろ主人公はあの世界を選んだってことが重要なのに」
「まー、クリストファー・ノーヒットの作風は、それだけ考えを巡らせる甲斐があるのも確か」
そんな中、俺は映画に詳しくもなければ熱心でもないバイトだった。
首を上下に振るだけの水飲み鳥になりがちで、たまに喋ってもオウム返しをするだけ。
「へえ」
「あーだこーだ」
「なるほど」
「なんやかんや」
「なんやかんや?」
我ながら真摯な接客態度とはいえないが、意外と贔屓にしてくれる客は多い。
店長曰く、「喋りたがりの人間にとって、余計なことを言わない相手の方が都合がいいから」なんだとか。
強いて気がかりな点を挙げるなら、“妙な客”と対面しやすいってことくらいか。
トラブルを招くほどではないし、迷惑行為ってほどの言動でもない。
ただ自分の中にある危険信号が、常に黄色を照らし続けている、そんな存在。
今回は、その中でも俺が印象的だった“13人の客”について話そう。
ただし俺は“彼ら”の言っていることを話半分にしか聞いていないため、かなり要約していることは踏まえてほしい。
こんな注釈をわざわざする意味を、めいめい咀嚼しつつ聞いてくれ。
≪ 前 13人の客、その1人目は教職員を自称する者だった。 なぜ「教職員だった」ではなく、「教職員を自称する者」と表現したかって? 俺はこの客を教職員だと思っていないからであ...
≪ 前 13人の客、その3人目は元コンビニ店員だった。 「この前、『コンビニ戦争 ~研修員 VS マジ卍チーム~』ってのを観たんだけど……」 「ゲホッ、ゴホッ!」 思わずむせてしま...
≪ 前 13人の客、その5人目は水商売を生業とする者だった。 「映画というかドラマなんだけど、最近は『不夜城の女』とか観てるのん。ウチにくるお客さん韓流とか観る人が多くて、私...
≪ 前 13人の客、その7人目もスーツ姿だった。 ただ6人目の時とは趣が全く異なっている。 スーツは全体的にラメ加工が施されており、ビジネスシーンは全く想定されていないデザイン...
≪ 前 13人の客、その8人目は靴下業界の者だった。 アパレル産業の中でも、随分とピンポイントな職種がきたな。 「かなり古いんですが、『麻の靴下』ってタイトルは御存知? 冬木...
≪ 前 13人の客、その10人目は数学者だ。 「『マジック・スピーカー』を観たんだけど、私の中では映像が露骨すぎるんよね~。掛け算の仕方も違うというか~、いや、あくまで私の中...
≪ 前 13人の客、その12人目は杖をついた老人だった。 「『愛のリコーダー』の尺八奏シーンは、若い頃に見たミュージックビデオを髣髴とさせる。写真を何枚も撮ってパラパラ漫画み...
≪ 前 13人の客、その13人目は関係者だ。 「私は関係者」 「関係者……とは、このビデオ屋の関係者ってことでしょうか?」 「そうともいえる」 「ああ、そうだったんですか。ご用...
≪ 前 「私は関係者であるがゆえに、その言葉には意味を持ち、人々は耳を傾ける。その言葉が主観的であろうと客観的であろうと、個人的であろうと公的であろうと」 込み上げてくる...