文字に求められる「公共性」 まず固有名詞は、あくまで固有の「名詞」であり、固有の「文字」ではありません。固有名詞の「固有性」は文字にあるのではなく、その呼び名にあります。文字には使う人々が共有する認識が必要で、ある種の公共性が求められます。文字については公共の規則に準拠し、固有名詞の固有たるゆえんの呼び名は尊重する、というのが基本的な立場です。 ですから、漢字の字体については「現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安」とされる「常用漢字表」や、「一般の社会生活において、表外漢字を使用する場合の『字体選択のよりどころ』」である「表外漢字字体表」など、国で定めた規則におおむね準拠しています。 ご本人から強い希望を申し入れられたりするような特段の事情がなければ異体字は使用せず、原則の字体を用いて「黒澤明監督」は「黒沢明監督」としますし、出版社の「文藝春秋」は「文芸春秋」と表記します。村松友視さん