穏やかな夏のある日。米国のマサチューセッツ州にあるウッズホール海洋生物学研究所(MBL)で、クシクラゲに魅せられた日本人生物学者の城倉圭(じょうくら・けい)研究員は、最新の研究対象だった水槽内の個体群をチェックしていた。 同氏はこの研究所で、生きたクシクラゲの調査を行っていた。生物発光能力を持つ生物が、海中を移動する際に光を利用する過程に関する研究の一環としてだ。 クシクラゲは、名前にクラゲと付き見た目も似ているものの、刺胞動物のクラゲとはまったく別の、「有櫛(ゆうしつ)動物」と呼ばれる動物群に分類される。すべての動物の中で、進化的に最も初期に分岐した、いわば「最も原始的」な動物群であるとされている。 城倉氏は、水槽内で飼っていたゴルフボール大のクシクラゲの中に、ひときわ目立つ個体がいることに気づいた。他の個体よりも大きいだけでなく、1つではなく2つの口を持つという点で特徴的な個体だった。