「家、どこにあるか覚えてる?」 「覚えてるわ」アンヌシュカは言った。「クズネツカヤ通り四十六番地、七十八号室」 「それ、忘れなよ」 ーーオルガ・トカルチュク『逃亡派』 10代の頃からずっと、「逃亡」へのゆるやかなオブセッションを抱え続けている。 ここではない別の場所へ行きたい、違う場所へ移動したい、という思いは、自分の意志と資金で行動できる年齢になった時、「旅行」という形で現れた。 10代から20代前半にかけて、移動への引力に引きずられるようにして、旅をしていた。すぐ移動しなくては、と発作のように思いつくので、友人と計画を練る暇などなく、だいたいは1週間以内にぱぱっと目的地を決めて計画をつくって実施する一人旅だった。いつ移動発作がきてもいいように、目的地不明の旅行資金口座を持っていた。 目的のない旅、逃げる対象があいまいな逃亡、移動そのものへの欲求。『逃亡派』にも、こうした移動と逃亡の引力
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